『TOKYO!』蒼井優&加瀬亮 単独インタビュー
蒼井さんを観て「こんなに色っぽかったか?」と感じました
取材・文:南樹里 写真:秋山泰彦
アメリカ・フランス・韓国の名だたる監督が東京を舞台に撮影したドリーム・プロジェクト『TOKYO!』。『インテリア・デザイン』『メルド』『シェイキング東京』の3編からなるオムニバス形式で一都市を表現した作品は、カンヌ国際映画祭で世界に初披露され大絶賛を受けた。本作で『インテリア・デザイン』でかけ出しの映画監督を演じた加瀬亮と、『シェイキング東京』でピザ配達人を演じた蒼井優に話を聞いた。
香川さんの引きこもり役に注目!
Q:ご自身の役柄をどのように演じようと思われましたか?
蒼井:とても特殊な役柄でした。普通に生活をしていたら、10年間引きこもっている男性に恋心を抱かせてしまった女性です。脚本を読んで、とても理解しがたいと思ったので、恋とかは意識せずに、理解されにくく、共感もされないキャラクターにしようと思い演じました。モニターを見て具体的に自分の動きを確認できたので、すごくやりやすかったです。
加瀬:僕の演じたアキラは、ある意味ミシェル・ゴンドリー監督の投影だと、現場や食事中にゴンドリー監督を観察して思いました。なのでその感じを出せればと思いつつ演じました。ゴンドリー監督からは事前の指示はなくて、本番直前や本番中に思いついた指示が与えられます。現場でどんどん指示するのは、ある意味ミシェル監督の感覚に近づけるためだったのだと、今思い返すとわかりますね。
Q:出演者だからわかる、マニアな鑑賞法や楽しみ方を教えてください。
蒼井:香川照之さんの演じた引きこもりは大阪出身という設定なんです。それで聞こえるか、聞こえないかぐらいの一言だけ大阪弁のセリフがあります。本当に集中して、セリフを全部聞こうとしないとわからないぐらいです。その大阪弁のセリフもポン・ジュノ監督が現場で思いついたことなんですよ。監督は完ぺきに準備していたにもかかわらず、より良くなるならば現場で変更することをいとわない、柔軟な対応のできる方なんです。
Q:共演した香川照之さんについてはどう思われましたか?
蒼井:香川さんとお仕事できるなんて、夢のようなことでした。香川さんからパワーをもらって集中できた現場でした。それに、お芝居って面白いって感じられて、ちょっと自分で冷静にならなきゃ! って思うぐらい、すごく興奮していたのを覚えています。
加瀬:香川さんの引きこもりは日本一、いえ世界一でした!
お互いの作品を観て気が付いたこと
Q:映画の舞台である東京の街はどのような場所でしょうか?
加瀬:東京は世界各国の人も含め、人の出入りが激しい街。人の出入りに伴う風通しの良さが、刺激的な場所だと思います。
蒼井:東京はすてきなもの、好きな人、あこがれる人がたくさんいて、その中で深呼吸させてもらっている。思いっ切り吸って、得たものをお仕事で吐き出す。それを繰り返す場所です。
Q:劇中の衣装について教えてください。
蒼井:宅配ピザの制服は、ポン監督が日本で実際にガーターベルトをした格好の女の子を見かけたそうです。それが印象に残って映画用にデザインされました。ちなみに『TOKYO!』の配給会社名がビターズ・エンドなので、それにかけてピザ店の名を“ピザーズ・エンド”にしたそうです。
加瀬:へえ、そうだったんだ。あの制服、かわいいって思ったよ。僕の衣装はゴンドリー監督そのもの。衣装合わせのときにいろいろな衣装を着たんだけど、ゴンドリー監督がOKを出す衣装は、ことごとく監督とそっくり(笑)。なるほどなあと思いました。
Q:お互いの作品をご覧になっていかがでしたか?
加瀬:『シェイキング東京』は、美しくて色っぽくて良かったです。蒼井さんとは何度か共演させてもらっていますが、こんなに色っぽかったか? って感じました。それぐらいまったく別の世界にいるような気分にさせてくれました。僕は静かな映画が好きなので、ポン監督が作られた世界観はとても心地良くて、大好きな作品です。
蒼井:『インテリア・デザイン』はゴンドリー監督の撮影方法が特殊で、それが実験的で面白いんです。ゴンドリー監督の頭の中を理解するのが楽しかったり、大変だったりという話をうかがいました。確かに撮影は大変そうだと観て感じましたね。まだ一度しか観ていないんですけど、とっても切なくて、かわいらしい話だと思いました。ぽーっと観ていたはずなのに、最終的に胸をキュッとつかまれるような、最後の最後にとりこにされてしまうような作品でした。
それぞれの監督の面白エピソード
Q:両監督による“ヘンタイ”や“クビ”という日本語が現場を飛び交っていたとか?
蒼井:“ヘンタイ”っていうのは、ポン監督の中でキーワードになっていたらしいです。ありがたいことにポン監督はわたしのことを知っていてくださって、至ってノーマルな人だと思っていたそうなんです。でも、わたしが声の出演をした『鉄コン筋クリート』を観て「あ、この人も“ヘンタイ”だ!」と思ったそうです(笑)。
加瀬:ゴンドリー監督は、結構むちゃな要求をスタッフにもキャストにもするんですよね。それに対して「日本では……」って言い返しちゃうと、ゴンドリー監督が「クビだ!」って日本語で言うんです、もちろんギャグで(笑)。見た目は気難しそうなのに、本当にギャグばっかり。エンターテイナーなんですよ。
Q:撮影終了後に、監督からプレゼントがあったそうですね?
加瀬:ゴンドリー監督はOui-Oui(ウイ・ウイ)という名のバンドをやっているので、打ち上げで演奏してくれました。ドラム担当なんですが、とてもうまいんです。『インテリア・デザイン』の最後に流れるのもOui-Ouiの演奏です。打ち上げの曲は即興でした。撮影といい、音楽といい本当に即興が好きみたいですね。
蒼井:ポン監督が編集されたオフショット集(特製DVD)をいただきました。現場ではカメラに新しいフィルムを入れたときにカチンコを持って記録するんですね。ポン監督はそれをいろいろな人にやらせていました。そのときは、ただの遊びだと思っていましたが、実はオフショット集のためだったんです。ポン監督の好きなギターの曲をバックに、そういった映像や映画の本編映像を混ぜて、数分間のDVDにまとめてプレゼントしてくださったんです。とっても感激しました!
ほんわかした空間を作り出す蒼井と加瀬の二人。だがスクリーンに映る彼らはまったくの別人であり、毎回驚きを与えてくれるのは天賦の才能を持っているからだろう。そして監督の要望を察する能力に秀でており、具現化する努力を怠らない姿勢が演技に生かされてゆく。『メルド』のレオス・カラックス監督は、蒼井にゾッコンになり、起用したポン監督に嫉妬(しっと)したという逸話があるほど。そんな恐るべき才能をスクリーンで目撃しよう!
映画『TOKYO!』は8月16日よりシネマライズほかにて全国公開