『デトロイト・メタル・シティ』松山ケンイチ 単独インタビュー
NO WORK(仕事), NO DREAM(夢)! 僕には俳優という職しかない
取材・文:南樹里 写真:田中紀子
オシャレな渋谷系ポップミュージシャンになるために上京したにもかかわらず、なぜか悪魔系デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」(略称、DMC)のカリスマボーカル、ヨハネ・クラウザーII世としてブレイクしてしまった青年・根岸崇一。彼のおかしくも哀しい青春をつづった人気ギャグ漫画「デトロイト・メタル・シティ」の実写映画化で主演を務めた松山ケンイチに話を聞いた。
想像以上の出来に大満足
Q:脚本を読んでいかがでしたか?
単純に面白いと思いました。まだ完結していない漫画を2時間弱の脚本に仕上げた脚本家の大森美香さんは、本当にすごいです。
Q:完成作をご覧になった感想は?
根岸が、思いのほかイラッとさせるキャラクターになっていて心配になりました。少しはイラッとさせるようにと演じていましたが、出来上がりは想定以上でした。皆さんに受け入れてもらえるでしょうか。心配です。
Q:根岸くんのクネクネぶりや内股走りがかわいかったです。
原作では「クネクネ」という文字で表現されていたので、どう動くか僕なりに考えました。現場でも試したんですが、結局は監督のアイデアであの動きになりました。早回しのような内股走りになっているんです。普段の僕はあんな風に走りませんけどね(笑)。
Q:演じるにあたり、監督からどのような指示がありましたか?
コメディーだということをあまり意識しないでほしいと言われました。笑いの感覚は僕にはよくわからないので間合いやリズムは、毎回調整してもらいました。
Q:原作以上に笑えました。
ありがとうございます。メッセージも含まれていますが、単純に映画館を出ていくときに、すっきり、かつ笑ってくれればいいって気持ちです。
人間の二面性を演じ分けて
Q:今回の役作りについては?
根岸とクラウザーは同じ一人の人間ですから、事前に作り込もうとは思いませんでした。メークや衣装の力による部分が大きいですね。クラウザーの姿になることで、彼の持つ破壊性が自然と出てくるようになるんです。自分でも驚くことがありました。
Q:それは現場での態度がクラウザー化したということですか?
はい。監督やスタッフの方にあいさつすべきか否か、すごく悩みました。クラウザーとしてはあいさつしない方がいいんじゃないかと思ったんです。でもやはり、あいさつはしようと思いました(笑)。
Q:即興でライブパフォーマンスができたそうですね?
そうなんです。クラウザーさんの姿になってエキストラの方々の前に立つだけで自然とパフォーマンスができてしまいました。自分の口から「貴様ら~」とか「SATSUGAIする」なんて言葉がスラスラ出てきたんですよ。
Q:クラウザーでありながら、根岸。また、その逆というように苦悩を含めつつ演じるのは難しかったですか?
そこは僕自身も楽しんで演じていました。ポップミュージシャンである夢を実現できず、メタルバンドで成功している。でもその成功があるからこそ、本来の夢を抱き続けられるんじゃないかと思いました。だって誰にも受け入れてもらえなかったら、それこそ夢をあきらめてしまうんじゃないでしょうか。根岸はいやいやながら、きっちりとクラウザーの役目を果たしている。そういう面は、演じる上で大切にしていました。
ジーン・シモンズとの共演で感じたこと
Q:ライブシーンのために何か参考にしましたか?
KISS、スリップノット、マリリン・マンソンのDVDを観ました。意外なところでは、すごいパフォーマンスが参考になる気がして、マイケル・ジャクソンの短編集も観ました。
Q:KISSのジーン・シモンズさんとの共演も話題ですね。
ジーン・シモンズさんはとても紳士な方でした。僕は英語を話せないので不安だったんですが、ジーンさんから話しかけてくれました。ライブシーンも盛り上げてくれたんですよ。われわれが迎えるべき立場なのに、頼っていましたから申し訳なかったです。最後に握手したんですけど、すごい力で、最後までバトルが続いているようでした(笑)。僕もジーンさんと同じ58歳になったときに、力強い握手ができるようになっていたいです。
Q:根岸くんには「NO MUSIC(音楽), NO DREAM(夢) 」なる座右の銘がありますが、松山さんは?
特にないですが、DMCに例えて言えば、「NO WORK(仕事), NO DREAM(夢)」だと思います。 僕には、俳優という職しかないですから。
Q:このところ漫画の主人公を演じることが多いですね。
物語はもちろん、キャラクターとして魅力的な人物が多いですよね。でもそれは漫画に特化したことではなく、小説であれ、オリジナルものであれ、良いものに共通することだと思います。突き抜けた役というのは、演じがいがあります。そして挑戦することに楽しみを抱いています。ですので、今後もいろいろな役柄に挑戦していきたいですね。例えば今は、平凡な等身大の人物を演じることにも興味があります。
Q:最後に見どころとメッセージをお願いします。
起承転結のはっきりとした、わかりやすい作品です。大人の方からお子さんまで楽しんでいただける作品になりました。登場人物の中でも、松雪泰子さんの演じたデスレコードの社長は強烈なキャラクターですが、勢いがあって原作のまま。その言動もよく見ていただきたいです。そして、根岸くんが思いを寄せる相川さんを加藤ローサさんが演じていますが、フツーでいながらフツーではない点が笑えます。
白塗りメーク姿はスクリーンの中に封印とばかりに、こんがりと日焼けした松山。すでに次の役柄モードのためか、クラウザーさんの面影はない。それでも前夜のイベントではファンサービスにデス声を披露した。しかし当人は「撮影中の方が……あれではダメ」と沈着冷静。本物が気になる人は劇場へGO!! そして松山の七変化に感動したならば「GO TO DMC(ゴー・トゥー、ディーエムシー)」とコールをすれば、テンション上がること必至だ。
『デトロイト・メタル・シティ』は8月23日より全国公開