『パンダフルライフ』菅野美穂 単独インタビュー
ごろごろ、もこもこなパンダたちに癒されてください
取材・文: 平野敦子 写真:田中紀子
世界中で大人気のジャイアントパンダのドキュメンタリー映画『パンダフルライフ』が完成した。日本のクルーが海外クルーとして初めてパンダの故郷である中国四川省の“成都パンダ繁育研究基地”の産室での密着取材を許可され、1年を通してパンダたちの恋の季節や子育て、子パンダたちの成長ぶりを描く。ナレーションを担当した、自身もパンダのようにかわいらしい菅野美穂がパンダの魅力や環境問題などについて語ってくれた。
ぬいぐるみのようなパンダの母子
Q:この作品にはたくさんの個性的なパンダが登場しますが、菅野さんのお気に入りはどのパンダですか?
わたしは子育て上手なお母さんのアルヤートが好きでした。最初にお話をいただいたときに、スタッフの方からDVDのダイジェスト版をいただいたんですが、その中でアルヤートが赤ちゃんを抱いている姿を見てとても感動しました。まるでぬいぐるみがぬいぐるみを抱っこしているような感じがしました(笑)。
Q:パンダの魅力は何だと思いますか?
パンダはわたしが小さいころのあこがれの動物だったんです。この映画を観てしぐさが人間に似ているところとか、ちょっとオヤジっぽいところとか、あとは「パンダってこういう生態なんだ」と新しく知ることがたくさんありました。より親近感を覚えて、パンダの魅力が自分の中で再燃しました。
Q:子パンダがカメラに向かって突進して来るシーンなども印象的でしたが、菅野さんの心に残ったシーンはどこでしょうか?
やはりアルヤートが赤ちゃんを抱くところと、双子のリュウヒンとシュウヒンの兄弟が和歌山のアドベンチャーワールドから中国に帰った後、弟のシュウヒンがパニックになっているシーンで、お兄ちゃんのリュウヒンが弟に寄り添っている姿がとても印象的でした。ずっと環境が変わらない中で育ってきて、いきなり違う国に行けば言葉も名前の呼び方も中国語読みで違ってきますよね。でも、中国に行ってすぐのときに日本語で名前を呼んだら振り返ったのを見て「あぁ、ちゃんと自分の名前がわかってるんだ」と思いました。
中国的ダイナミックなパンダの飼育
Q:中には、いくら呼んでも反応しない“おとぼけカルテット”のようなパンダもいますよね。
そうですね、中国の人もエサの笹(ササ)の投げ方が結構「おらっ!」という感じで激しくて(笑)。日本だとパンダの頭数も少ないし、大事に大事に育てているんですが、中国だと何だかパンダの扱いもとてもカジュアルですよね。そういう部分を見てもやはりパンダは中国にいる動物なんだと感じました。
Q:今回初めてナレーションをされた感想について聞かせてください。
わたしは埼玉県出身なんですが、言葉に変わったアクセントがあるらしくて、何回言っても標準語で言えない単語があったんです(笑)。そういうことに改めて気付きました。普段会話をしていて全然気にしていなかったんですが、単語のアクセントとかちゃんと意識してしゃべらないといけないと思いました。ナレーションについてはいろいろな気持ちに乗せて一人称でしゃべるものと、まずは映像ありきで淡々と言うパターンとかいろいろとあると思うんです。今回は客観的に言うところと、シュウヒンの気持ちでセリフのように言うところがあって、その2つが違うテイストのものなので、あまり差が出過ぎないようにと気を付けました。
Q:パンダはストレスに弱い動物だそうですが、菅野さんご自身はいかがですか?
わたしはどちらかといえばタフな方なんですが、精神的に強いかどうかといえば、強くないかもしれないですね。でも人間はストレスがある中で、無理して頑張らないとどんどんストレスに弱くなっていってしまうと思うんです。パンダは保護されていて、ストレスを感じないように育てられているので、ストレスに対して弱くなってしまうのかもしれないですね。野生のパンダの方がやはりストレスには強いと思います。いつもエサを食べられるわけじゃないし、自然の中にいると気候は厳しいわけですからね。
Q:パンダはとてもおとなしい動物だと改めて思いました。
慌てることもせず、のんびりしていますし、どっしりしていますね。ただ、あのツメを見たらちょっと「あ、クマなんだ!」と思いました。本当にとても丈夫そうなツメですよね。赤ちゃんを抱っこするときは、パンダなりに優しくやっているんでしょうね(笑)。
意外とオヤジっぽいパンダ
Q:この映画をご覧になる前と後では、パンダに対する印象は変わりましたか?
パンダにまつわる環境の問題とか、生態系の問題を知って、わたしが想像していた以上に状況は深刻なんだと思いました。あとはそれ以上にパンダはやっぱりかわいいという気持ちになりました。パンダのほのぼのとしている感じとか、ごろごろしたり、ご飯を食べたりしているところとか、愛情深いところとか……。
Q:パンダになれるのならば、なってみたいですか?
子パンダいいですよね! 大人のパンダは本来色が白いところも茶色っぽいし、どう猛だし(笑)。でも、人間じゃないのに人間くさく感じるところがあったり、オヤジっぽかったりするところとかも何だかかわいなぁ……と思いますね。
Q:パンダが生きていく環境を守るためにできることは何でしょうか?
パンダをよく知ろうと思うと、やはり環境問題や地球のことに興味がわいてきて、パンダだけではなくてこんなにたくさんの絶滅危惧(きぐ)種がいるんだということも知りました。今までは考えないことが当たり前だったけれど、それが間違っていたんだと思いました。わたしは日本に住んでいて、日本という国に税金を払ってはいるけれど、地球に住んでいるのに地球のためには何もしていなかったんです。
Q:では、これから映画をご覧になる方々にメッセージをお願いします。
この『パンダフルライフ』は、のんびり、ごろごろ、もこもこなパンダたちに癒されると思います。今までありそうでなかったパンダの映画です。ぜひ皆さん観てください!
そこにいるだけで周りを幸福な気持ちにさせてくれる人、それが菅野だ。ナチュラルで優しいそのほほえみにパンダ同様癒される。パンダは確かにかわいくて観る者を魅了してやまないが、彼らが生きる地球の環境は日に日に厳しさを増している。人間が誕生する前、約800万年もの昔からこの地球上に存在し、氷河期のときでさえも竹を食べて生き延びたパンダという不思議な動物。この映画の撮影後に起きた四川省の大地震のパンダへの影響も懸念される中、この映画を観て、パンダたちの無垢(むく)な愛らしさやゆったりと流れる時間の流れに身を任せ、ほほえんで、少しだけ立ち止まって地球の未来に思いをはせてもらいたい。
『パンダフルライフ』は8月30日より全国公開