『イーグル・アイ』シャイア・ラブーフ 単独インタビュー
僕たちがプライバシーのない世界で生きていることがよくわかった
取材・文:吉川優子
スティーヴン・スピルバーグが長年温めていたアイデアを『ディスタービア』の監督D・J・カルーソーとシャイア・ラブーフが再びタッグを組んで映画化したサスペンス・アクション『イーグル・アイ』。『トランスフォーマー』や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の大成功で、今やハリウッドで最も注目される若手スターとなったシャイアが、突然大掛かりな陰謀に巻き込まれるコピー屋の店員ジェリーを好演している。本作の見どころや役にかける意気込み、そしてスピルバーグについてオープンに語ってくれた。
スピルバーグはファミリー志向
Q:本作では初めてかなり大人っぽい役を演じていますね。どのようにして出演することになったのですか?
年上の役を探していたときに、ちょうど『イーグル・アイ』の話がきたんだ。親から独立して暮らす大人の男を演じることがすごく魅力的に思えてね。それに親友であり、尊敬する監督であるD・J(・カルーソー)と一緒にやれば、きっとこの挑戦もうまくいくと思ったんだよ。正直いって、俳優を始めてから『イーグル・アイ』ほど不安を覚えた作品はなかった。子役から大人の俳優へと移行しようとしているんだからね。僕はこの作品に出演して、俳優として成長できたと思うよ。
Q:本作の製作総指揮を務めたスピルバーグとも何度も一緒にお仕事をなさっていますね。彼はどんな方ですか?
スティーヴンはファミリー志向でね。彼のディレクターズ・チェアにはDAD(お父さん)って書いてあるんだ。愛があるんだよ。彼はやっていることにすごく情熱を持っていて、それが一緒に仕事をしている全員に伝染するんだ。でも、彼はいまだにアーティストとして成長していて、心は19歳のハングリーな芸術家なんだ。彼の向上心には本当に頭が下がるよ。
撮影中は最高のパニック状態だった
Q:本作はテクノロジーの脅威を描いていますが、どれくらい現実味があると思いますか?
かなり現実味があると思うよ。撮影現場にCIAとかFBIの人がいていろいろと教えてくれたんだ。「一日の通話の内、5回に1回は政府が記録している」って。半信半疑でいたら、数日後に、数年前からつい最近までの僕の通話記録を見せてくれた。また、今の防犯カメラにはマイクがついていて、誰かが大きな声を出すと、カメラに内蔵されたマイクが探知し、危険度が高いと判断すればその発信源にズームする仕組みになっているんだ。僕たちがプライバシーのない世界で生きていることがよくわかったよ。
Q:撮影中、ずっと緊張感を維持し続けるというのは、大変だったのではありませんか?
ロケ地を点々としていたのは良かったと思う。テークの合間にはいつもD・Jが「お前は生死の境目にいるんだぞ」と緊張感を高めてくれたから、自分を最高のパニック状態に持っていくことができたよ。そのうちキャラクターを演じるのではなく、ジェリーの物語をリアルに体験し始め、演技が仕事じゃなくなった。奇妙な体験だったよ。でも、究極の精神状態でいるのも70日間という限られた期間だけだったから楽しめたよ。ミシェル(・モナハン)も同じような極限状態で演技していたし、ビリー・ボブ(・ソーントン)はさらにその緊張を高めてくれたからね。
Q:ジェリーのようにあなたが知らないうちに誰かにコントロールされているような気持ちになったことはありますか?
人々は僕のことをしょっちゅうコントロールしているけど、僕はそのことをよくわかっているよ。僕たちはテクノロジーが生活に入り込んでくるのを喜んで迎え入れたんだ。今では、僕たちはこれまでにないくらいテクノロジーに頼っている。だから、まだ携帯を捨てるわけにはいかない。とても頼っているからね。
宮崎駿はアニメの中でナンバーワン!
Q:若手実力派としてあなたの演技は高く評価されていますが、どのように演技力をつけたのですか?
演技の訓練は受けたことがないから、とてもラッキーなんだと思うよ。僕は現場で演技を学んでいるんだ。僕の授業風景が、そのままフィルムに記録されているといっても過言じゃない。僕には二つの面があってね。一つはヘマばかりしているダメ男で、もう一つは仕事のプロなんだ。僕にとっては、日常生活を送るよりも仕事に打ち込んでいる方がずっと楽なんだよ。だから、できるだけ映画撮影にかかわっていようとしているんだ。
Q:急に成功して有名になったことで、苦労していることがありますか?
ここ3年で僕の人生が大きく変わってしまったおかげで、内省的になってしまったよ。それに、この映画で自分が判断されてしまうというプレッシャーがあるからね。この作品のテーマにはプライバシーのはく奪というのがあるけど、僕自身プライバシーを奪われたことがある。自由がまったくなくなりその状況に甘んじるしかなかったんだ。いまだにそういう状況には適応できずにいるよ。僕は傷つきやすい一人の人間なのに、常にカメラに追い回されて、一つ一つの過ちが大きく報道されてしまったんだ。
Q:もともと、なぜあなたは役者になりたいと思ったのですか?
僕はすごく貧乏だったんだよ(笑)。とても若いころに役者を始めたんだけど、何よりもやってみたかった。ちなみに僕はマジックが大好きなんだけど、映画は世界で一番マジカルなトリックだと思うよ。
Q:最後に、日本の文化で好きなものは何ですか?
日本映画が大好きだよ。傑作をたくさん生み出しているからね。たとえば、『生きる』は僕の人生を変えてくれた。シンプルなプロットなのにとても力強い。ブランコに座った主人公の姿を観るだけでいまだに涙が出るよ。宮崎駿も大好きだ。すべてのアニメの中で彼がナンバーワンだね。『千と千尋の神隠し』と『風の谷のナウシカ』が大好きだよ。
「僕は映画館の中で携帯電話の電源を切らないやつが大嫌いなんだ。この映画はそういった無神経な連中へのサブリミナル攻撃とも言えるよ」と笑いながら語るシャイアは、いつも明るく、有名になった今もまったく変わらないナイスガイだ。第二のトム・ハンクスといわれている彼が、今後どんな俳優に成長していくのか、とても楽しみだ。
Photo by StarlightPics/Retna/アフロ
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『イーグル・アイ』は10月18日より丸の内ピカデリー1ほかにて全国公開