『X-ファイル:真実を求めて』デヴィッド・ドゥカヴニー 単独インタビュー
完璧なんてありえないし、いつも失敗している。その程度が違うだけなんだ
取材・文:吉川優子
アメリカのテレビ史上に残る人気番組「X-ファイル」が終了して6年。世界中のファンが首を長くして待っていた映画版『X-ファイル:真実を求めて』がようやく公開される。監督は、シリーズの生みの親でこれが長編初監督作となったクリス・カーター。FBIの女性捜査官が失踪し、その後を追いかけるためにモルダーとスカリーが再び組むことになるという設定で、透視能力を持った神父が絡んでくる。当り役を久々に演じたデヴィッド・ドゥカヴニーが、今作にかける意気込みや役作り、ジリアン・アンダーソンとの共演などについて語ってくれた。
モルダーを演じ続けたかった
Q:なぜまた「X-ファイル」をやりたいと思ったんですか?
僕は映画でモルダーを演じ続けたいとずっと思っていたんだ。だから、番組が終ってからもクリス(監督)といろいろ話してきた。このテレビシリーズを映画として続けていくのはとても自然なことだと感じていたからだよ。キャラクターがどんどん素晴らしいストーリーを生み出してくれるんだ。パラノーマル(現実からあまりかけ離れない異世界のこと)な経験を信じたいと思っている人々についての話をね。ぼくは、番組が終って2,3年後からいつでもやる準備ができていた。クリスやジリアンのタイミングが合うのを待っていただけなんだ。
Q:今作のストーリーの特徴について、どのように考えていますか?
番組が成功しビッグになってからは、モルダーやスカリーがもっと注目されるようになったけど、もともとは怖いからこそ「X-ファイル」が人気を呼んだんだ。当時、そんなに怖い番組はなかったからね。だからこの映画は、観客をすごーく怖がらせるというオリジナルに立ち戻ったものになっているんだ。
Q:久々にモルダーを演じてみていかがでしたか? 以前と違いましたか?
最初はちょっと違う感じがしたよ。見た目も以前とは違って、笑われてしまう恐れがあった。シリーズの最初のころ、モルダーは若くてイノセントなところがあった。ミステリーを解決できると信じて闘っていた。でも、9年の間にすべてのバトルに負け、その結果、彼の中で何かが変わった。大人になり、年を取ったんだ。今も同じモルダーだけど、年を取ったモルダーなんだよ。
役者として、自分たちの人生経験を持ち込んだ
Q:彼はもっとシニカルになっているんですか?
シニカルかどうかはわからないけど、彼はヒロイズムをあきらめてはいない。今も真実を探していて、うそを暴こうとしているんだ。最初、彼には少し疲れが見えるけど、映画が終るころには、モルダーは、1993年に彼が持っていた真実を求めるエネルギーを再発見している。映画が始まったときよりも、映画が終るころの方が、オリジナルのモルダーに近くなっているわけだよ。
Q:長年演じてきた役にすっと戻れましたか? それとも新しいものにしようとしたんですか?
少し変えたいと思ったんだ。ほとんど迷信的だけど、前と同じことをすると、同じ間違いを犯すことになる。でも、同時にあまりに変えすぎていないかと心配もする。ある程度やっていると、ちょうどいいくらいのところに行き着くんだよ。
Q:久々にジリアン・アンダーソンと共演してみていかがでしたか?
とても楽しかったよ。この映画のハイライトは、ジリアンと一緒にやったファーストシーンだった。「ワオ! これこそが僕たちがやってきたことなんだ。今でもそこにはまだ何かが残っている」と本当に感じることができた。素晴らしかったよ。彼女と最後に一緒に仕事をしてから6年、最初から数えると15年経っているわけだからね。役者として、自分たちの人生経験を持ち込まずにはいられなかったよ。
永遠のクエスチョンを解決することができる
Q:クリス・カーターは、この番組に人気があったのは、誰もが生命、死後の世界について知りたがっているからだと言っていました。どう思いますか?
多分そうだと思うよ。みんなが聖杯を探し求めているんだ。モルダーが証拠を持って来ることができれば多くのことを証明できることになる。僕たちだけがこの宇宙にいるわけじゃない。パラノーマルな能力は存在する。死後の世界は存在するんだ。「ロー&オーダー」は殺人ミステリーを解決するだけだけど、視聴者は大好きだ。でも、「Xファイル」は、殺人事件を解決するし、同時に永遠のクエスチョンを解決することもできるんだよ(笑)。
Q:あなた自身はいかがですか? 死後の世界を信じますか?
わからないな。死後の世界のことはあまり考えないからね。パラノーマルなことが実在するという証拠は見たことがない。でも、疑いは持っているよ。ぼくたちはアローンじゃなくて、実際目で見えるもの以外に何かがあるという方がもっともだと思えるからね。人類以外の生命体があるという方が、直感的に納得できるよ。
Q:バンクーバーでの撮影はいかがでしたか?
すごく寒かったよ。雪のシーンがたくさんあったからね。足元はよくなかったけど、スクリーン上ではとても美しいよ。不気味で怖いんだ。夜に屋外で長時間撮影したから、体力的に大変だった。たとえ体を鍛えていても、映画製作っていうのはミッションを遂行するようなものだからね。
程度が違うだけで、いつも失敗している
Q:今でも演技をしていて、やりがいを感じますか?
うん、感じるよ。役者として、ライターとして、監督としてね。何をやっても失敗するものなんだ。たとえそれが成功でも、自分ではどのように失敗したかわかっている。それでも前に進み、次にはもっとうまく失敗できるようにする。どんなアートであれ、それが素晴らしいところなんだ。完璧なんてありえないし、成功ということもない。いつも失敗しているもので、その程度が違うだけなんだ。
Q:では、どういうことで自分を満足させることができるんですか?
やり続けるガッツがあることだね。失敗し続けるガッツを持てるということ。多くの人々があきらめてしまう。アクティングだけじゃなくて、人生をね。失敗し続け、トライし続けるのは難しいよ。
Q:クリス・カーターとまた組んでみていかがでしたか? 彼はどんな監督でしたか?
クリスは、テレビ番組のエピソードを5、6回監督しているんだ。彼は細かいところにこだわる完全主義者で、妥協しない。とても頑固で意見がはっきりしている。そういうのは監督としていい資質ばかりだよ。彼の映画監督としてのデビュー作に主演できて、とてもうれしかったよ。
9シーズン続いた長寿番組「X-ファイル」が終了してから、自分の監督作『HOUSE OF D』を手掛けたり、昨年始まった人気コメディ・ドラマ「カリフォルニアケーション」でライターにふんしたりと、相変わらず忙しい日々を送っているデヴィッド。映画の中よりも実際見る方がもっとハンサムな彼は、どんな役でもこなせそうだが、やはりモルダー役が一番しっくり感じられる。ぜひとも映画版の次回作も作ってもらいたいものだ。
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『X-ファイル:真実を求めて』は11月7日より東宝系にて全国公開