『ヘブンズ・ドア』アンジェラ・アキ 単独インタビュー
曲を通して人とつながっていく、それはわたしが音楽をやっている意味
取材・文:鴇田崇 写真:尾藤能暢
ある日突然余命3日と宣告された男と少女が、人生の最後に最高のエンディングを迎えようと疾走する感動のロードムービー『ヘブンズ・ドア』。長瀬智也、福田麻由子の顔合わせも話題の本作の主題歌「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」を担当したのは、人気シンガーソングライターのアンジェラ・アキ。Zepp Tokyoで行われた『ヘブンズ・ドア』のイベント終了直後の彼女に、自身でも初挑戦となった映画主題歌制作の感想などを聞いた。
生きる者たちへのメッセージ!
Q:「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」のカバー曲制作に至るまでのいきさつを教えてください。
マイケル・アリアス監督からお話をいただきました。監督は最初英語でのカバーを望まれていたのですが、わたしはインディーズ時代から英語詞の名曲たちを自分なりに日本語に訳して歌ってきた経緯があったので、今回もぜひとも日本語で歌わせてくださいとお願いしました(笑)。デモテープを作って監督に送ったら、とてもいいと言ってくださいました。直訳ではなくて、新しい詞を付け直すという気持ちなので、カバーの制作をしながら、どこかオリジナルを作っている気持ちがありました。
Q:実際にアリアス監督とお会いしたときの印象は、いかがでしたか?
アリアス監督のほかの作品も観させていただいて思ったのは、シリアスで遊び心があって、また皮肉っぽいところもある、人間としてとても魅力のある方だろうって思ったんです。実際にお会いしてみたら、とてもシャイな方でしたが、だんだんと打ち解けていく感じがすてきで、とても好きですね。この映画は監督の強いメッセージがまず前提としてあるのだと思いました。「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」が劇中に流れてくる場所も含めて、そっと後ろから支えて、最後に曲のメッセージをお届けするような感じの主題歌にしていこうと一緒に決めました。
Q:最終的にカバー曲「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」のテーマはどう決まったのですか?
映画を観たときに主人公たちの死をテーマにした作品でありながら、生に対するメッセージも感じたんです。映画を観終わった後に涙が出たと同時に、これは“生きる者たちへのメッセージなんだ!”という気持ちになりました。なので、死が背景にありながらも、生のメッセージを歌詞に込めさせていただきました。映画を観て感動しつつ、ラストに「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」が流れてくるのを聴きながら、自分が歌っている歌というのではなく、一作品として客観的に受け止めることができたのは、とてもうれしかったですね。
Q:オリジナル曲はボブ・ディランの名曲ですが、あなたにとって彼はどういう存在ですか?
シンガーソングライターとしてはボブ・ディランは通らなくてはならない道のようなものなので、子どもが生まれたらディランの曲を聴け! って押しつけてしまうかもしれない(笑)。トム・ペティもディランも本当にシンプルなコードで名曲を作る人たちで、あこがれているんですよ。たった3つのコードしかないのに、何でこんなに名曲が書けるんだって思いますね。言葉のパワーやメロディーの力などいろいろあるので大好きです。
人生は複雑なまま始まって、複雑なまま終わっていく
Q:劇中で印象に残ったシーンはどこですか?
長瀬さんがお母さんを訪ねるシーンがとても好きです。人は解決できたものとそうでない、答えが見つかったものとそうでないものなど、いろいろなものを抱えて人生最後の日を迎えると思うんです。だけど、答えが見つからなかったものも含めて、見つけようとした気持ちを持って死ねるかどうかって、大きな違いがあると思いました。長瀬さんのシーンはその象徴だと思います。自分の中の気持ちを整理できるかどうかも含めて、大きなメッセージですよね。人生はシンプルじゃない! 複雑なまま始まって、複雑なまま終わっていく。だけど、その複雑なまま最後をどういう形で迎えるかが大事なんでしょうね。
Q:プライベートで映画は観に行きますか?
大好きなんです! 休みがあったらまず何をするよりも映画館に行きますね。音楽とは違った、強い形のエンターテインメントだから、刺激もたくさん受けます。いい映画を観たときのあの感動は、何日も自分の中にパワーとしてみなぎっていて、何日も残っている気がします。わたしはサスペンスが結構好きなんです。ラブストーリーを歌っているので、ベタベタな恋愛映画が好きでしょ? って言われますけど(笑)。
Q:映画を観ることが曲作りに影響を与えることはありますか?
かなりインスパイアーされます。映画に感情移入ができればできるほど、自分の経験ではないけれど、自分があたかもそれを経験したかのような錯覚に陥るんです。それが自分の中でスパークして、インスピレーションとして歌詞に出てくることもありますね。実は今後、映画音楽も手掛けてみたいと思っていて、シーンごとに音楽を作ってみたいんです。今回『ヘブンズ・ドア』の主題歌を手掛けたことで、作品全体をサポートする仕事にかかわれて、幸せな気持ちになれたことを経験できたので、わたし自身とてもパワーをもらいました。
ライブがなければライフもない!
Q:「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」を収録した3rdアルバムが2月25日に発売になります。
「手紙」の後に「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」が収録されていますが、わたしなりの答えを見つけていくプロセスという意味のアルバムで「ANSWER」というタイトルを付けました。答えにたどり着くまでの13通りのプロセスを曲に込めているんです。アルバムを作りながら思ったのは、見つかった答えよりも、見つからなかった答えの方がたくさんあったんです。見つかるかどうかよりも、探し続けていくこと自体に意味があるのだと。そういう気持ちを込めて作ったので、ぜひ聴いてほしいですね。
Q:「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」以外の曲も、映画の世界観ともリンクしそうですね。
そうですね。このアルバムには生と死をテーマにした曲がほかにもあるので、映画の世界観とリンクしているアルバムですね。逆にこのタイミングで「KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR」を収録することができるのは、とても運命的なものを感じました。普段からこういうテーマを考えているときもありますし、飲んだくれていることもありますが(笑)、考え過ぎて落ち込んじゃうときもあります。そんなとき、わたしはファンの皆さんからの手紙を心の救命箱に入れていて、元気がないときにいつも読んでいます。お会いすることがない人と曲を通してつながっていくことがわたしにとって音楽をやっている意味なので、本当に大事にしています。また、ライブをやるためにも音楽を作っていて、ライブがなければライフもない! と思っています。そういう意味でも、このアルバムを引っ提げ全国53本のライブをすることをとても楽しみにしています。
Q:最後に『ヘブンズ・ドア』をこれから観る方々に向けて、メッセージをお願いします。
『ヘブンズ・ドア』はいろいろな感じ方ができる映画で、自分を投影させることもできる映画だと思います。何かを考えたり、感じたりするきっかけになればいいと思います。自分自身を見つめていかないと、人って大きくなっていかないと思うんですよね。『ヘブンズ・ドア』を観て、自分を客観視してもらうのと同時に、自分の日常をどう見つめ直すかを考えてもらえるきっかけになってくれればすてきだと思います。
今まで多くのカバー曲を制作してきた彼女は、オリジナルの作品を生まれ変わらせる作業の楽しさと難しさを知っている。だからこそ、本作を映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』を原案として製作したアリアス監督にシンパシーを感じ、共鳴し合ったからこそ映画にマッチした名曲が生まれたのだ。映画好きというアンジェラの映画音楽が聴ける日を楽しみにしつつ、まずは『ヘブンズ・ドア』で彼女のメッセージを受け取ってほしい。
(C) アスミック・エース エンタテインメント / フジテレビジョン / ジェイ・ストーム
『ヘブンズ・ドア』は2月7日よりシネマライズ、シネカノン有楽町1丁目、新宿ジョイシネマ、新宿バルト9、池袋HUMAXほかにて全国公開