『鴨川ホルモー』山田孝之 単独インタビュー
現場だけでの自己満足にはならないようにした
取材・文:古川祐子 写真:高野広美
直木賞候補となりテレビドラマ化もされた、「鹿男あをによし」の作家・万城目学のデビュー小説を映画化した『鴨川ホルモー』が公開される。京都で千年前から続くとされる、謎の祭り“ホルモー”を行うサークルに入った、大学生たちの青春を荒唐無稽(むけい)な展開でエネルギッシュに描く爆笑コメディーだ。若手実力派俳優たちが、体長30センチのキモカワイイCGキャラと一緒に、はじけた演技を披露しているのが大きな見どころ。本作の脚本を読んでほれ込んだという、主人公のイケてない大学生を演じた山田孝之に話を聞いた。
主人公みたいな人間とは友だちになれない!?
Q:この作品の、どういったところに惹(ひ)かれましたか?
今までやったことのないタイプのコメディー作品だったので……原作の独特な世界観にすごく惹(ひ)かれました。
Q:今回はちょっと頼りない普通の学生ということですが、演じるにあたって心掛けたことは?
うーん、なぜかわからないんだけど、不快なやつにしようと思いました(笑)。気持ち悪い表情や動きをするし、ネチネチしているし、ハッキリしないし……。観ている人が「何だよ、コイツ!」と感じてしまうようなキャラクターにしたつもりです。
Q:主人公はわがままですがお人好しで、憎めないキャラクターでした。ご自身と共通するところはありますか?
まあ……自分もそういうところはあります(笑)。でも主人公の安倍ってかわいげがあるように見えるけど、人としてはダメなやつですね。そうなった方が面白いと思いながら演じました。でもこんな人間に振り回されたら大変だろうし、友だちにはならないと思います(笑)。
Q:友だちになりたくないタイプですか?
なりたくないというより、なれないです。彼の考えていることは、わけがわからないので(笑)。
Q:監督からはどんな指示をされていましたか?
基本的に、自由にやらせてもらいました。たまに、そうやるんだったらこういう風にした方がわかりやすいのでは? というアドバイスがあったくらいですね。
お気に入りのオニ語は「パパラッチ」!
Q:撮影前に京都大学の構内を歩き回ってリサーチしたそうですが。
実際にどういう空気が流れているところなのかと思って、大学と学生寮を見に行きました。キャンパス内にはまじめそうな人やおたくっぽい人、ギャル男もいて……生徒さんたちは普通だったけど、学生寮には強烈な印象を受けましたね。
Q:本物の学生寮で撮影させてもらったんですよね。どんなところが強烈でしたか?
簡単に入っていけない雰囲気なんです。まず、入口ドアの一部分が壊れている(笑)。ギィーって入ると黒猫がいて。奥へ行くと、こたつがあって人が寝ている。戸惑いながら「見学……してもいいですか?」って聞くと「どうぞ!」って(笑)。もうそんな感じ。主人公が寮に住む友人を初めて訪ねるシーンがあるけど、僕があのとき受けた印象をそのまま思い出しながら演じました。あのシーンはセットじゃなくて、住んでいる人も、建物も、空気感も、すでに出来上がっている場所ですごかった。まあ、自分がこうやっていくら話しても、実際に行ってもらわないとあの独特さはわからないと思いますけど(笑)!
Q:ホルモーを行うシーンで、皆さんが(オニを操るために発する)オニ語を叫びながら何ともおかしいポージングを披露しています。パパイヤ鈴木さんが考えられたそうですね。
ご本人から直接指導は受けなかったんですけど、振り付けが入ったDVDをもらいました。後は、パパイヤさんのお弟子さんがキャストの中に加わっていまして、現場ではその人から教わることもありましたね。
Q:一番お気に入りのオニ語は?
うーん……「パパラッチ!」かな? マークしろって意味なんですけど。そのまんまですよね(笑)。
学生みたいなノリで和気あいあいとした撮影現場
Q:共演の栗山千明さんが、オタク系メガネ女子という意外なキャラクターを演じていましたが。
彼女とは16歳のときに初めて一緒に仕事をして、今回9年ぶりの再共演だったんです。久々だったけど、変らないなぁと。簡単に人を寄せ付けない雰囲気を持っているんですよね。自分の中で栗山さんは『バトル・ロワイアル』や『キル・ビル』を観たせいなのか、美人だけどキレる女っていうイメージがあります(笑)。
Q:山田さんをはじめ、キャストの皆さんがすごく楽しんで演じているのが画面から伝わってくるようでした。現場の雰囲気はいかがでしたか?
雰囲気はすごく良かったです。学生のノリみたいな感じでワイワイやっていました。やっぱりこっちが楽しんでいないと、観ている人にも伝わらないだろうと思ってたし。だからといって、現場だけでの自己満足にはならないように、そこは気を付けていました。
Q:特に仲良くなった共演者はいますか?
以前、ドラマで共演したこともあった濱田岳(はまだがく)さん。ほかのメンバーとも仲良くしていたけど、基本的には岳君と二人でずっとくだらないことを言い合って、笑っていましたね。
Q:舞台となった京都の印象は?
町並みがきれいだし、落ち着いてる雰囲気があって良かったです。
構えず気楽な気持ちで観てほしい
Q:この作品に出演して、学んだところや改めて発見したことなどはありますか?
こう顔を動かしたらいいのか……とか、人を笑わせる要領を少しはつかむことができたような気がします。演技中に頭の中で突拍子もないアイデアが浮かぶことも多くて、自由に演じていいシーンのときに、アドリブを取り入れてみたりしました。自分がこんな風にユニークな発想ができる人間だとは今まで思ってなかったですね(笑)。
Q:山田さんは、作品ごとにまったく違う顔を見せてくれるイメージがあります。今後はどんなキャラクターに挑戦してみたいですか?
そうですね……『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーだとか、ヤッターマンとか(笑)。ちょっと個性が強い、人間離れした感じの役をやってみたいです。
Q:では最後に、これから映画を観る方々にメッセージをお願いします。
泣くところもないし、感動があるわけでもない。何も考えずに楽しく観られて、終わった後も何も残らない映画だけど、そこがいいんです。観終わった後、「あー、くだらね!」って言える作品はそうそうないと思うし。だからといって、金のムダになるような作品では決してありません。本当に面白いです。構えず気楽な気持ちで観ていただければと思います。
目の前に現れた本人はスクリーン同様に目力が強く、まったく飾らない性格の持ち主という印象。思ったことを率直に語るその姿から、今回の撮影を非常に楽しんだ様子がうかがえた。これまでさまざまな役どころで確かな演技力を示してきた山田が、裸すら辞さない体を張ったコメディー演技を披露する姿は必見。おおいに笑わせられた後、改めて山田という俳優の幅の広さを感じ取ることができるだろう。
『鴨川ホルモー』は4月18日より全国公開