『THE CODE/暗号』尾上菊之助&稲森いずみ 単独インタビュー
上海での撮影は猛暑と汗との戦い!
取材・文:平野敦子 写真:秋山泰彦
林海象監督によるインターネットシネマ「探偵事務所5”」シリーズの劇場版最新作『THE CODE/暗号』がついに完成。今回は舞台を上海に移し、旧日本陸軍が中国に遺した軍資金の暗号をめぐり、過去と現代のドラマが交錯する。数字には強いが実戦に弱い探偵507を演じるのは『怪談』の尾上菊之助。彼と運命的な出会いを果たす謎めいた美女・美蘭(メイラン)役に稲森いずみ。それぞれが上海での撮影や、体当たりのアクションシーンについて熱弁を奮ってくれた。
「探偵事務所5”」シリーズへの熱い思い
Q:尾上さんは暗号解読のプロの敏腕探偵、稲森さんは暗い過去を持つ悪女という、これまでにない人柄を演じられた感想を聞かせてください。
尾上:林監督が描かれている「探偵事務所5”」シリーズの中に、自分が役者として参加できたことがうれしかったですね。初めに脚本を読んだとき、一つの暗号を基に描かれる人間ドラマに惹(ひ)かれました。人間の愛憎や欲望やきずなというものが非常に色濃く描かれている素晴らしい作品だと思いました。
稲森:わたしの場合、中国語にしても、踊りにしても、歌にしても本当に今までにない役柄だったので、すべてが新しいチャレンジでしたね。後は、やはり林海象ワールドの中に自分が入れたということもすごくうれしいことでした。
Q:中国語のレッスンはどれぐらいなさったのでしょうか?
尾上:しましたね~! 一応撮影に入る3か月前ぐらいからやっていたのですが、本当に大変でした(笑)。きっと僕よりも稲森さんの方が(セリフが多くて)大変だったんじゃないですか?
稲森:でも、中国語の先生が発音の基礎から教えてくださったので、それがかえって良かったと思います。最初は基礎から始めて……でも基礎からやっていたことが後々役に立って。上海で1か月ぐらい生活していて中国語を身近に感じることができたので、とてもいい環境だったと思います。
夏の上海での過酷な撮影
Q:上海での撮影はいかがでしたか?
尾上:とにかく暑かったですね。撮影は8月の後半から9月にかけての1か月間ぐらいだったのですが、非常に暑かったです。僕も稲森さんも、それぞれが人間くさい生々しさを持つ人物というよりは、どこか謎めいた人物を演じていたのですが、自分たちをはじめ、登場人物は汗が似合わない人たちなので、猛暑の中で必死に汗をかかないようにしていました。結局は汗との戦いのような感じでしたね(笑)。とにかく上海の夏は過酷です!
稲森:スーツよりはチャイナドレスの方がまだ良かったとは思うのですが、それでも暑さは本当につらかったです(笑)! 監督が先に上海に入られていたので、わたしも日本ですでに上海の暑さが厳しいというお話は聞いていたんですね。だから小さい扇風機のついたジャンパーを買って行ったんですよ(笑)。上海って本当に無風なので、それが結構役立ちました。
Q:主人公の探偵507はとてもピュアな人物ですが、その魅力は?
尾上:確かに彼は数字にとても強いですが、デスクで暗号を解いていることが多くて、人間とのかかわりというのがあまり得意な方ではなかったんですよね。ただ、その数字という特殊な記号を扱う繊細(せんさい)な人物という印象は受けました。その中で彼は上海で美蘭(メイラン)と出会い、彼にとって最初はただの興味でしかなかった暗号が初めて意味を持ち始めるんです。それを通して507が人としてのかかわり合い、そして人間として成長していく様や純粋さを失わないように気を付けながら演じました。
稲森:美蘭(メイラン)も最初はきっと純粋な女の子だったと思うんですよ。それが過酷な状況の中でマフィアの女になって、囲われて生きるという生き方しかできなかったけれども、彼女には心のどこかに「こんなはずじゃない!」という思いがあったと思うんです。そんな彼女が本当にピュアな探偵507と出会うことによって、人を信じることができたというのが、本当に素晴らしいことだと思いました。
注目のダンスシーン
Q:お二人のダンスシーンもとてもステキでしたが?
尾上:上海に行く前にダンスのレッスンをして行ったんですが、実際にそのシーンを撮影するまでに時間が空いてしまったので、もうすっかり忘れていましたね(笑)。撮影も二人で「こうだったよね?」と確認しながらやらせていただきました。稲森さんにはリードしていただいて、本当にありがたいと思っています。
稲森:いやいや、そんなことはないですよ。わたしにしてみれば菊之助さんの方が余裕な感じでしたよ。わたしはまず歌いながら踊らなければならなかったので、もうそれだけでいっぱいいっぱいでした(笑)。ただ、このシーンで美蘭(メイラン)が踊りながら笑っているシーンがあるんですが、あれは本当に心の底から笑っているような気がするんですよね。あのダンスシーンは二人の心が近づくシーンだったので、本当に大事なシーンだと思います。
Q:では、映画で描かれているようなお宝を実際に手にしたら何をしてみたいですか?
稲森:何しよう(笑)? 災害支援や医療、福祉などに役立てたいですね。
尾上:僕は世界旅行がしてみたいですね! すごく個人的な意見ですみません(笑)。
稲森:でも、時間ないですよねぇ……。
尾上:そうですよね……(笑)。
Q:上海の暑さ以外に撮影中大変だったことはありますか?
尾上:バイクに乗っての脱出シーンは結構大変でした。稲森さんが振り落とされないかと必死だった思い出がありますね。チャイナドレスでバイクの後ろに乗るんですから、とても乗りにくかっただろうと思うんですよ。しかも3人乗りだったので、落ちるのではないかと(笑)。
稲森:ちょっとだけですが、屋敷からの脱出シーンで映っているんですよね。上海とはいえ、よく3人で乗れましたよね~(笑)。
Q:では、最後にこの作品の魅力について一言ずつお願いします。
尾上:初めに申し上げたことと重なってしまうかもしれないのですが、人々が抱えている暗号というものを通してのきずなや愛憎、そして人間ドラマを観ていただきたいです。あとはやはり松方弘樹さんや宍戸錠さんが演じられる激しいガンアクションというものも、林監督が描くクールでスタイリッシュな映像美の中に凝縮されているので、世代を超えていろいろな方々に楽しんでいただければと思います。
稲森:本当にたくさんのストーリーが一つの作品の中で描かれていて、素晴らしいエンターテインメント作品に仕上がっていると思います。ぜひともこの究極の林海象ワールドを、一人でも多くの方々に楽しんでいただければと思います。
先に取材部屋に到着し、にこやかに座っていた尾上。それこそ山のようなインタビューを受けているに違いないのだが、これで何件目の取材かと尋ねると「これが初めてです!」とニッコリ。そのチャーミングな笑顔に完全にノックアウトされてしまった。そこに真っ赤なチャイナドレス姿の稲森が登場。お互いに「お久しぶりです!」と丁寧にあいさつを交わす様子も新鮮だった。映画の中で惹(ひ)かれ合いながらもなかなか素直になれない男女を演じた二人だが、取材中はとても楽しげで息もぴったり。歌に踊りにアクションに謎解き、そして深い人間ドラマとてんこ盛りの力作を見逃す手はない。
(C) 2008 THE CODE プロジェクト
『THE CODE/暗号』は5月9日より全国公開