『ガマの油』役所広司&瑛太 単独インタビュー
笑うと体の中からいいものが出るらしい
取材・文: 平野敦子 写真:尾藤能暢
役所広司といえば国内のみならず、『バベル』や『シルク』などの海外の大作にも出演する、日本を代表する名優である。その彼が初めてメガホンを取り、『ガマの油』という超ポジティブなパワーに満ちた作品を作り上げた。本作で破天荒な父親を演じた役所と、その息子を演じた瑛太。お互いの役者としての能力を認め合う実力派俳優二人を中心に織り成す摩訶不思議な作品の魅力や、共演した感想などについて語ってくれた。
笑いは体にも心にも効く
Q:『ガマの油』はとても元気になる映画ですが、ご自身の元気の源は何ですか?
役所:やはり笑いですね! 笑うと体の中からいいものが出るという結果が医学的にも証明されているそうですよ。やはり笑いというのはわれわれ人間にとって一番大事なことだと思いますね。笑うことで相手にも元気を与えることができると思うし、本人にとってもとてもいいことだと思います。
瑛太:監督がおっしゃるようにやはり笑いもそうですが、大きな声を出したりすると元気が出るような気がしますね。パワーがみなぎってきます。クラシックでもジャズでもポップスでも何でもいいんですが、とにかく音楽を大音量で聴くと元気が出ますね!
Q:では、今回初めて監督としてこの作品を世に送り出した感想を聞かせてくだい。
役所:映画作りというものを今回経験させてもらって、映画の面白さと厳しさと奥深さを改めて体験することができました。僕はこれからも俳優をやっていくわけですが、その上でも貴重な体験をさせてもらったという感じですね。
Q:瑛太さんは監督の熱いラブコールに応えての出演だったそうですが、実際に監督とお仕事をされてみていかがでしたか?
瑛太:最初にこのお話をいただいたときは脚本もとても面白かったし、役所さんの初監督作品に自分が参加することができるということに加え、役所さんの息子役として出演できるということもまるで夢のようでした。僕のあこがれの俳優である役所さんと同じ現場の空気を吸えるということだけで期待も膨らんで、ものすごくうれしかったことを覚えています。
Q:監督は、瑛太さんと一緒にお仕事されてみていかがでしたか?
役所:本当に拓也という役は彼しかいないと思っていたんでね。彼の存在感がこの映画には重要でした。拓也が意識を失った後も最後まで彼がこの物語を引っ張っていかなければならないんですよ。その確固たる存在感というものを、瑛太君はしっかりと彼自身の持ち味で出してくれたと思いますね。
Q:監督は細やかな演出をされるとうかがいましたが?
役所:いや、僕が役者さんたちに言ったのは、ただもうのびのびと楽しくやってくださいということだけですね。現場はとても楽しい雰囲気だったと思いますよ。まぁ、瑛太君は忙しいスケジュールの中、よく頑張ってくれました。
役所広司が父親なら良かった!?
Q:この父と息子の関係は不器用なりにとても温かいものでしたが、ご自身のお父さまの印象に残る思い出はありますか?
役所:うちのおやじは、かなり無口な男でした。僕は男ばかりの5人兄弟の末っ子で、しかも遅くにできた子どもだったんで、随分おやじにはかわいがられた方だと思いますね(笑)。
瑛太:自分の父親ですか? うーん、小さいころからあまり話をした覚えはないですね(笑)。
Q:拓郎は拓也の彼女である光に優しいウソをつきますが、最近ついた優しいウソは何ですか?
役所:うーん、難しい質問ですね。ウソをつかないと言うと、ウソになりますね……。どれが優しいウソなのかわからないですね。ウソはこれまでもいっぱいつきましたけどね。でも、ウソはいけないですよね!
瑛太:いやぁ……、本当に思い当たらないですね(と本気で悩んだ様子)。
Q:小林聡美さんが母親役と、ガマの油売りの女房というなまめかしい人物を演じていらっしゃいましたが、それをそばでご覧になっていかがでしたか?
役所:小林さんの役は、とにかく男にとってこの上なく素晴らしい女性像なんですよ。ダメな男を支えているという部分は、彼女が演じたどちらの役にも共通しているところですね。
瑛太:今回小林さんは僕の母親役という設定だったんですね。実際に、自分は現場で小林さんと一緒に仕事をしているわけなんですが、早く僕自身が母親に対しての接し方というか、彼女との距離感をつかまなきゃいけないなぁ……ということばかりを考えていたので、そのなまめかしさを楽しむ余裕はありませんでしたね(笑)。
この世は金だけじゃない!
Q:拓郎は株でいとも簡単に何億ものお金を稼ぎますが、ご自分にとってお金よりも大切なものとは何でしょうか?
役所:きっと、お金より大切なものは世の中にはたくさんあるでしょうね。それは大切な人との人間関係や、自分自身の熱い思いというものもお金で買えないと思いますね。多分、今回この映画を撮らせていただいたのも、その大事なものの一つだと思います。
瑛太:お金も大事ですよね(笑)! でも、僕自身は高い地位にあこがれるというよりは、人との出会いのようなものの方が大切だと思いますね。役所監督に声をかけていただいて、この映画に参加できたこともきっとそういうことなんだと思います。
Q:では、人の優しさを感じるのはどのようなときですか?
役所:たくさんありますよね。それは自分が映画を作っていても、あるいは俳優として参加していてもそうなんですが、映画に自分が携わるということは、いつもたくさんのキャストやスタッフの皆さんとかかわり合うことなんです。映画作りというものは、決して自分一人の力だけではできないこともたくさんあるので、人に支えてもらって、そして自分も人を支えて初めて成立するものだと思います。もちろんこうやって取材をしていただいて、この映画のことを応援してくださるというのも、すごく優しいことだと思いますしね(笑)。
瑛太:毎日の生活に追われていると、監督が今おっしゃったようなことを忘れそうになるんですよね。でも、人の笑顔を見て優しい気持ちになることで、自分が人に支えられて生きているということは絶対に忘れちゃいけないと思っています。僕が出演した作品を観てくれた方々が喜んでくださるというのも、きっと優しさの一つだと思います。
大物俳優ながら温かく優しい包容力に満ちた役所と、まじめで繊細(せんさい)な部分が言葉の端々に見え隠れする瑛太。一見違うタイプに見える二人だが、お互いに慎重に言葉を選びながら、ベストの答えを探ろうとする真摯(しんし)な姿勢はよく似ていた。この俳優としても、人間としても魅力的な俳優たちのまっすぐな心根は、彼らが演じた、はちゃめちゃな父親と心優しい息子の関係にも通ずるものがある。よりよく生きるということ、そして豊かな死を迎えるということをポジティブに描いた本作を観て、みんなで元気になろう!
『ガマの油』は6月6日より全国公開