『ノウイング』ニコラス・ケイジ 単独インタビュー
映画は人を導いてくれたり、刺激してくれたりするもの
取材・文:細木信宏
映画『リービング・ラスベガス』で、アカデミー賞主演男優賞を受賞したニコラス・ケイジ。今や世界を代表する俳優として活躍し続ける彼が、自分の子どもにささげたいと決意して参加した作品が映画『ノウイング』だ。ディザスター・ムービー超大作であるだけでなく、親子のきずなもしっかりと描かれた本作に主演したニコラスが、この映画に込めた思いや自身の父親との思い出を語ってくれた。
自身の父親と同じ大学教授を演じて
Q:本作だけでなく、次回作『ATOM』もまた科学に関連した作品ですが、科学に関する作品に特別な興味があるのですか?
科学というものは、非常にインテリジェンスなものなんだ。それはわれわれ人類が持っている大きな質問に対する謎解きの解明が、不可能ではないことをしっかりと証明してくれるからなんだ。大概の科学は、不明確な物事にその根を生やしているから、必然的に神秘的な興味がわくんだと思う。だから、科学に関する作品に出演するということは、その不明確で神秘的な要素を表現する演技にチャレンジが要求されると思うんだ。それに、その演技で観客に探究心をわかせ、想像させていく必要もある。きっとそういうところが、今の僕が演じたいと思っていることかもしれないね。
Q:本作では大学教授を演じていますが、あなたの実の父親も大学教授だったそうですね。彼から教育について学んだ点はありましたか?
僕は父が講義している姿を、教室の後ろの席で見ていたことがあったんだ。だから自然と、彼の生徒に対しての教え方について学んでいたのかもしれないね。僕の父親は長男で、祖父は父を医者にしたかったらしいけど、父は文学や哲学に興味を示していたらしい。そして、教育の道を選んだのは、父の弟で僕の叔父であるフランシス・フォード・コッポラが、映画界に入ろうとする前だったんだよ。結局、アーティストが多い僕の家族の中で、唯一僕の父だけが学界の人間になってしまったけど、僕はそんな父をとても尊敬しているんだ。
プレッシャーの中で撮影された救出シーン
Q:リハーサルのプロセスを大事にするアレックス・プロヤス監督との仕事はいかがでしたか?
確かに彼はよくリハーサルをするね。僕自身も、リハーサルのプロセスは好きなんだよ。それは、その場でアイデアを共有できるからなんだ。そこで同意するかしないかで、映画自体に大きな変化が生じるから、とても重要なことだと思う。その点では、アレックスはアイデアを受け入れてくれるオープンな監督で、演じやすかったね。彼は、非常に心地いい環境で仕事をさせてくれていたから、僕らも常に自然とアイデアが浮かぶ状態にあったんだ。
Q:劇中で、飛行機墜落後に人々を救出するシーンがありましたね。
あのシーンは、丸一日リハーサルをしてから撮影したんだよ。そのリハーサルは、一方で僕の演技を楽にさせてくれたけど、逆に難しくもさせていたんだ。それは、人々が燃えた状態で逃げ出してくるから、自然と恐怖におびえた演技はできるけど、スタントの人たちに、何度も火をつけて演じさせるわけにはいかないから、僕は失敗をしてはいけないというプレッシャーの中で撮影をしていたね。実際、何回撮影したか覚えていないくらいとてもキツかったけど、難しいシーンの割には、意外と早く撮り終えたのを覚えているよ。
世界に対するハリウッド映画の役割とは
Q:子役のチャンドラー・カンタベリー、ララ・ロビンソンとの共演はいかがでしたか?
彼ら二人の演技がなければ、この映画は成り立っていなかったと思う。リアルで驚異的な演技をしているよ! 特にチャンドラーは、目力が強く、何事にも達観しているんだ。それに、演技は真実味を帯びていて、彼はまたそれを楽に自然に演じているんだよ。子どもたちは、大人とは違って、いまだにどこかマジカルな発想を持っているだろ? そのマジカルな部分が、本来の演技だと言えると思うんだ。
Q:ニコラスさんが演じたジョンと、オーストラリアの女優ローズ・バーンが演じたダイアナとは、普通の男女関係とは異なった形で描かれている点についてどう思われますか? また、ローズとの共演はいかがでしたか?
そうだね、決してロマンチックな関係ではないし、失恋したり、三角関係に陥ったりするような男女関係じゃないことが、この映画の新鮮なところなんだ。ローズは、職人的な仕事する女優で、アクセントが完ぺきなんだよ。彼女は、オーストラリア出身の女優だとは、とても思えないくらい素晴らしい発音をしているんだ。それと、彼女は僕が出したアイデアにうまく乗っかってきて演じられるほどのガッツもあって、本能的に動く女優でもあるんだよ。
Q:この映画は、人類滅亡の危機を描いていますが、現在世界中が経済的危機に陥っている中で、ハリウッドはどんな役割を果たしていると思いますか?
これまで以上に、熟考して映画を製作しなければいけないと思うんだ。ある意味、映画は人を落ち着かせたり、現実からエスケープさせてくれたり、その日の人々の苦労を忘れさせてくれる存在だけど、そういうものこそが、一番素晴らしいエンターテインメントだと思っているんだ。子どもたちを笑わせたり、興奮させたりすることができるなら、それに対して全力でかかわっていきたい。ただ、これは子どもだけでなく、大人にも言えることで、映画はときどき、人をある方向に導いてくれたり、頭の中を刺激してくれたりするものだと思う。本作もそういった作品で、科学や将来に関して観た後に、仲間や家族同士で話し合うことができると思うよ。
叔父フランシス・フォード・コッポラと再び……?
Q:あなたの叔父フランシス・フォード・コッポラとは、映画『ランブルフィッシュ』『ペギー・スーの結婚』で2度一緒に仕事をしていますが、再び彼とタッグを組む可能性はあるのですか?
また依頼されたら、ぜひやってみたいね! フランシスが僕を使いたいと言ってきたら、すぐにでも出演したいと思っているよ。最近彼は映画『テトロ』(原題)などで独自に映画を制作しているから、僕もすごく興味を持っているんだよ。
Q:最後に、次回作についても教えてください。
まず、僕自身もファンであったヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画『バッド・ルーテナント:ポート・オブ・コール・ニューオリンズ』(原題)に出演したよ。それから、今度で2度目となるドミニク・セナ監督の映画『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ』(原題)も控えている。そのほかには、アニメの声優を務めた作品が2本あって、一つはアトムの生みの親である天馬博士の声優を務めた『ATOM』、もう一つはモルモット役の映画『G-フォース』(原題)もあるんだ。きっと子どもたちに喜んでもらえると思うよ!
インタビュー後の写真撮影では、取材陣に気さくに話し掛けるなど、場を和ませようとする気遣いを見せていた。人との接点を大事にする彼だからこそ、彼の成功には深い彩りがあるのだと思えた。
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photo by EMMY PARK
『ノウイング』は7月10日より全国公開