映画『サブウェイ123 激突』デンゼル・ワシントン 単独インタビュー
演じようとして演技をしたことは一度もない
取材・文:シネマトゥデイ
黒人として映画史上ただ一人、2度のオスカーを受賞した俳優デンゼル・ワシントン。作品ごとに強烈な印象を見せつける彼が、映画『アメリカン・ギャングスター』以来2年ぶりにスクリーンに復帰した。今回が4度目のタッグとなる、トニー・スコット監督との作品『サブウェイ123 激突』は、ニューヨークの地下鉄MTA(ニューヨーク州都市交通局)に働く男が主人公。本作では、冷静な演技でスクリーンに緊張感を漂わせたデンゼルが、自らの演技論、そして普段はあまり話さないプライベートについて語ってくれた。
ジョン・トラヴォルタと撮影の合間にお遊び
Q:MTAの地下鉄職員という役柄への準備はどのようにされたのですか?
まずニューヨークのMTAで、2週間ほどの研修を受けたんだ。わたしが演じる地下鉄の職員たちと一緒に過ごしたり、地下鉄の仕組みを勉強したりしたよ。まるで子どものころに戻った気持ちになれて、とても楽しかった。でも電車と電車の間を歩かなければいけないのは、とても怖かったよ。ものすごい勢いで、電車が自分のすぐ脇を走り抜けるんだからね。なかなかできない体験をしたよ。
Q:地下鉄内での撮影は、スリルがあふれていそうですね?
とてもスリリングだったよ! 今回、ジョン・トラヴォルタふんするライダー一味とのシーンでは、駅と駅の間で撮影をすることも多かった。だから、線路上を400メートルくらい歩いて現場に行くこともあった。地下鉄の線路は、とにかくまったくの別世界なんだ。朝の4時とかに撮影していて、電車をやり過ごさなければいけないとき、行き過ぎる車内の人たちの顔を見るのは面白かったよ。窓の外のクルーや照明機材を見て、皆、「なんだ、ありゃ」って顔しているんだ(笑)。
Q:別々に撮っているはずなのに、完成した作品ではあなたとトラヴォルタのテンションがまったく一緒でしたね。とても緊迫した会話劇になっていました。
それは、本当に努力の結果だよ。もちろん、カメラが回っていない楽屋にあるマイクの相手の演技は本編ではまったく使われない。二人とも、どちらのシーンを撮影するときでも、手を抜かずにとても真剣に演じていたから成功したと思っているよ。
Q:撮影の合間はどんなことをして過ごしていたんですか?
撮影しているときは、すごいテンションでやり合っている二人だけど、「カット!」がかかれば陽気なもんだよ。マイクを通して二人で歌ったり、つまらないジョークを話していたりね。僕はまったく歌えないけど、彼はみんなが知っている通り素晴らしい歌手でもあるから、懐かしい映画『グリース』の曲をリクエストしていたよ(笑)。映画と同じように、奇妙な関係を作り上げることができたんだ。
オスカー俳優の知られざる素顔を告白!?
Q:演技派と知られているあなたですが、いつもはどんな風に役作りをされるんですか?
僕はただ感じたままに演じるだけなんだ。ABCDといった決まった手順もないんだ。ただ位置について、カットの声がかかるまで、そのシーンを自然に演じていくだけ。演じようとして演技をしたことは一度もないんだ。
Q:ガーバーは、どんなときでも常に冷静でしたが、彼のような状況に追い込まれたら、あなたも落ち着いていられると思いますか?
絶対に落ち着いてなんかいられないだろうね。ひどく動揺すると思うよ。ガーバーと違って、僕はすごい上がり症なんだ。
Q:オスカーのレッドカーペットで余裕の笑顔で手を振っているあなたからは、想像できませんね!
あれは、ある意味で演技をしているんだよ。俳優デンゼル・ワシントンとしての演技をね。じゃなきゃ、とてもじゃないけどあんな大勢の前で手を振ることなんてできないよ。ただ自分の状況を考えると、映画のPRをしなければならないから頑張っているんだけどね(笑)。あと、今回来日したとき、地下鉄の一日運輸司令所長に任命されて構内アナウンスに挑戦したんだけど、すごく興奮したよ! 地下鉄に乗るチャンスはなかったけど、車掌としてしっかり仕事ができるように、「デンシャガシュッパツシマス!」だけは何度も練習したんだ。
Q:ほかに覚えた日本語はありますか?
「アリガトウ」「ドウイタシマシテ」の二つかな。実は今回の来日で、うちの妻がちょっと遅れて日本にくるんだ。彼女をショッピングに連れて行きたいから、「これはいくらですか?」っていう日本語も覚えなくちゃね(笑)。大学生の娘にも、日本のおしゃれな服を買ってあげなきゃいけないし、大変だよ。
デンゼルが輝き続けるその理由とは?
Q:本作は2年ぶりの出演となりましたが、普段映画に出演していないときは、どんな生活を送られているんですか?
今年は特にすてきな年なんだ。うちの男の子は、今プロのアメフト選手でサンフランシスコでプレーしているし、一番下の子もフィラデルフィアでアメフトの選手をしてるんだ。女の子たちは、一人がニューヨークで、一人がイエール大学。だから、普段は子どもたちのところを訪れることに大忙しなんだよ(笑)。
Q:そんな大きな娘さんがいるとは思えませんね。いくつになってもセクシーでいられる秘密はどこに隠されているんでしょう?
わからないな(笑)。そういう言葉をもらえるだけで若返る気はするけどね(笑)。でも大事なのは、ジーンズじゃないかな。クールなジーンズをはくことと、水をたくさん飲むことだね。
Q:これから映画を観る方々に、どんなシーンを楽しんでもらいたいですか?
何といっても僕の走りっぷりだね! ニューヨーク中を走り回ったから、なかなかきつかったよ(笑)。デンゼルはまだ走れるってところを、ぜひ楽しんでもらいたいよ(笑)。
さわやかな笑顔でインタビューに答えるデンゼルは、子どもたちが大学生になった今も変わらずハンサムだ。一生懸命日本語を覚えている姿を見ていると、本人が言うとおり29歳に戻ってしまったような無邪気さが伝わってくる。演技に対する姿勢も、きっと新鮮な気持ちで臨んでいるからこそ、毎回違った表情を見せてくれるのだろう。これからも走り続けるデンゼルの姿に注目していきたい。
『サブウェイ123 激突』は9月4日よりTOHOシネマズ 日劇ほかにて全国公開