『パレード』藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介 単独インタビュー
まるで寝起きのようなテンションで楽しみました
取材・文:斉藤由紀子 写真:尾藤能暢
山本周五郎賞を受賞した吉田修一の小説「パレード」が、次々と話題作を手掛ける行定勲監督によって映画化された。本作は、都会のマンションで共同生活を送る若者たちの日常を描きながら、現代社会の闇を鋭くえぐり出す青春群像劇。うわべだけの付き合いを続ける同居人たちを、藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介がリアルに演じている。そんな5人が一堂に会し、和やかな雰囲気の中で撮影時の裏話を語ってくれた。
まるで寝起きのようなテンションで楽しんだ作品
Q:本作のような等身大の若者役は、デフォルメされた役よりも難しいのではないかと思うのですが、演じる上で心掛けたことはありますか?
藤原:僕は、今回の映画で特別なことは何もやっていないんですよ。共演した皆さんが、とても自然な表現をする方たちだったので、自分がその中に入るためには、いい意味で楽な状態となり、余計なものをそぎ落とした方がいいと思ったんです。まるで寝起きのようなテンションで楽しませてもらいました。
小出:普段無意識にやっていることを意識するのって難しいんですよね。力を抜くようにしながらも、抜き切ってしまうわけではない。その微妙なさじ加減を、皆さんとうまく共有できたような気がします。
香里奈:わたしも、いい意味で何も考えずに現場に入って、それぞれのキャラクターが醸し出す空気感の中で、自分のキャラを作っていった感じでした。
貫地谷:リアルさって作品によって違うと思うんですよね。今回はナチュラルなものがリアルに感じられる作品だと思っていたので、台本のセリフをちゃんと自分の言葉にしてからしゃべるように意識しました。
Q:男娼(だんしょう)のサトルを演じた林さんは、これまでとはまったく違う一面を見せてくれましたね。
林:僕は……(ここで林の靴を藤原がわざと踏む)。
Q:それは何かの合図なんですか(笑)?
藤原:あ、ごめんなさい、つい……(笑)。
小出:これは竜也くんの愛情表現です(笑)。
林:(気を取り直して)僕は、サトルのような仕事をしている同世代の人が現実にいると知ったとき、すごく衝撃を受けたんです。観ている方にも、「こういう生き方をしている人がいるんだ」ということがリアルに伝わればいいと思いながら演じました。
撮影現場で林遣都がスター発言!?
Q:映画の中の皆さんが、本当に共同生活を楽しんでいるようでした。現場もかなり楽しかったのでは?
藤原:ずっとこんな感じですよ。それぞれがそれぞれの空気を持ち、スタッフさんに呼ばれればセットの一室に集まって、自然な流れで演技をするという、とても落ち着いた現場でしたね。
小出:あまりにも自然過ぎて、たまに「仕事に来ているのかな?」と思うことがありました(笑)。
藤原:しほりちゃんもずっと漫画を読んでいたしね。
貫地谷:いつもスエットを着ている役だったので、衣装のシワを気にすることもなく、ゆっくりくつろいでいられました(笑)。
香里奈:本当に自由な現場で、あっという間に撮影が終わってしまったような気がします。
Q:5人で一緒にいるときは、映画の役柄のように藤原さんがまとめ役だったんですか?
藤原:全然そんなことないですよ! むしろ、一番リーダーシップを取っていたのは遣都なんじゃないかな? 「僕が演出する!」って言っていましたし(笑)。
一同:(爆笑!)
小出:「今だったらこの役を降りられるかな?」とかね(笑)。
藤原:あと、楽屋でしほりちゃんを「貫地谷!」って呼び捨てにしていたよね(笑)。
小出:「今って誰待ちですか? え? 貫地谷?」みたいな(笑)。
林:(静かにほほ笑む)。
Q:そういえば、試写会の舞台あいさつでも「林さんが藤原さんをイカと呼んでいた」というお話をされていましたね。
貫地谷:そういうリアルな話が交じるから、全部が本当っぽく聞こえちゃうんですよ(笑)。
香里奈:すっかり「遣都くんのスター発言!」みたいな感じになっちゃっていますもんね。
林:でも、この話を聞いた皆さんは、きっと全部作り話だとわかってくれると思いますよ! 絶対に竜也くんの言うことは信じないと思います!
一同:(大爆笑!)
それぞれの個性が出るストレス解消法
Q:本作の登場人物は、それぞれ秘密のストレス解消法を持っています。皆さんの一番のストレス解消法は?
小出:飲みに行ったり、近所を散歩したり、長い休みがあったら海外に旅行したり……あと、最近はアロマキャンドルをつけてお風呂に入るのが好きです。水が掛かるとすぐに消えてしまうので、注意しながら入るんですけど、そんな自分がかわいいなって思います(笑)。
香里奈:わたしも、「お風呂でキャンドル」以外は一緒です(笑)。あとは、移動中のゲームもストレス解消になりますね。
藤原:僕は食事かな! うまいものを食べて、酒を飲んで……。
貫地谷:それってどっちがメインなんですか? もちろんお酒ですよね(笑)。
藤原:いや、食事です(笑)!
貫地谷:わたしは漫画ですね! とにかく大好きなので、漫画を読んでいると嫌なことは忘れてしまいます。
林:僕は一人でじっとしていることが多いです。まあ、何かあっても寝たら忘れちゃいますけど(笑)。
この映画は観る人によって解釈が違う
Q:行定監督は妥協をしないことで有名ですが、今回も撮影にかなり時間をかけられたそうですね?
藤原:妥協は一切なかったですね。何度もテイクを重ねて、そのこだわりがいい結果につながる。とにかく頭がいい方だと思いました。
香里奈:ライティング一つにしても、何度もやり直しをされるんです。でもそれは撮り終えた映像を観たときに、「なるほどな」と思うことができました。
小出:僕たちに対しても、それぞれ接し方が違うような気がしました。ちゃんと役者さんのタイプを見極めて演出されていらっしゃるようでしたね。
林:本当に、すべてを見透かされているような気持ちになりました。監督に初めてお会いしたときに、「次に会うまでに役について考えてきて」と言われてから、最後の最後まで試されているような感じでした。
Q:そんな監督は本作を「恐怖映画」だとおっしゃっています。演じられたみなさんは、この作品から何を感じましたか?
香里奈:人間って怖いと思いました。自分ではそうしたくなくても、うわべだけの人間関係を続けてしまうことはあるような気がしますし、自分にも起こり得るという意味での怖さを感じました。
小出:僕は、自分が他人とどんなふうに接しているのかが気になりましたね。この映画を観ると、自分の思いがけない部分をはがされたような気持ちになる。でも、一つの決定的な答えを突きつけられるわけはないので、観る人によって解釈が違ってくる。そんなところも含めて、すごく好きな映画です。
貫地谷:一番怖いと感じたのが、今の時代ってこういうことあると思ってしまったことなんです。そう思う自分自身に恐怖を覚えました。
林:うわべだけの付き合いって、これから大人になるにつれて必要になるのかもしれませんけど、僕はそうはなりたくないと思いました。
藤原:僕はこの作品を、ゆっくりとした空気の中で物語が進んでいく、とても質の高い日本映画だと思いました。激しさはないけど、非常に濃いものが描かれている。観終わった後に、何かが心に残るような映画だと思います。
本当に共同生活を送っているのでは? と思ってしまうほど仲の良い5人。特に藤原と小出は最年少の林がかわいくてたまらない様子で、林をイジリまくって話が脱線してしまうこともしばしば。香里奈と貫地谷のやりとりもほほ笑ましく、5人の結束力の強さを感じさせるインタビューだった。彼らの自然体な演技が光る映画『パレード』は、怒濤(どとう)のクライマックスに鳥肌が立つこと必至! 若手実力派たちの共演によって、強烈なインパクトを放つ青春映画が誕生した!
映画『パレード』は渋谷シネクイント、新宿バルト9ほか全国公開中