映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』柳葉敏郎 単独インタビュー
室井の存在は本当に大きいです
取材・文: 鴇田崇 写真: 櫻井健司
大人気シリーズ最新作、映画『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』がついに公開! 7年間という月日を経て劇的な変化を迎えた「踊る」シリーズ。青島と固いきずなで結ばれているキャリア組の室井慎次にも変化の波が訪れていた。本庁への栄転を経て捜査から政治の世界に足を踏み入れた室井を演じた柳葉敏郎が、記憶も吹っ飛ぶほどの撮影時のつらい(?)エピソード、新しい価値観を持ったキャラクターとの対決の感想、そして、俳優・柳葉敏郎と室井慎次の意外な関係性まで、さまざまなテーマで話をしてくれた。
上層部に大栄転! 室井の理想に近づいたはずが……。
Q:7年ぶりに「踊る大捜査線」が復活すると聞いたときは、どんな気持ちになりましたか?
やっときたか! という感じでした。僕は、室井がどうなったのか知りたかったんです。広島に行っちゃいましたから(笑)。どういう形で再登場させてもらえるのかなあという楽しみがありました。7年間はそれほど長い時間には感じなかったです。もちろんお客さんあっての作品ですから、できればいま一度皆さんの記憶のページをさかのぼっていただいて、「踊る大捜査線」の記憶を新鮮な形で取り戻してくれるとうれしいなあと期待しました。
Q:今回の室井は「審議官」という本庁の重要な役職に戻され、かなり大出世を果たしていましたね!
これね、「審議官」だけで終わっちゃうとダメなんですよ。「警察庁長官官房審議官、警視監」と言わなければダメなんです。単語それぞれに意味があるらしいですよ。それをちゃんと正しく言わないと、別な階級の人を指してしまうことになるので怒られるらしいです(笑)。今までキャリア組の異端児としての存在だった室井が、まさしく上層部という警察のど真ん中に投げ込まれたわけです。
Q:これまで室井や青島の敵だった会議室の円卓の中に、今回の室井は座っていましたね(笑)。
すみません、先に言っておきますが、もう座りたくないです(笑)。室井なりに抵抗するんですけど、立場的に今までのような抵抗ができないんですよ。なので、これは演者・柳葉敏郎としても、室井慎次という作られた人間の気持ちとしても、ものすごく座り心地が悪かったです。
Q:でも、室井は組織を変えるため、理想を実現するために偉くならないといけなかったわけですよね?
そうなんですよね。変なこと言っちゃったよなあ(笑)。いや、僕が言ったわけじゃないけれど、あいつ変なこと言ったよなあと。ただ、今回も偉くなることに対して室井が持っている責任感には、ブレはないと思っています。
あまりの居心地の悪さに、撮影現場で記憶が吹っ飛んだ!?
Q:シリーズ当初の室井慎次と比べて、何が変わって、何が変わっていないと思いますか?
一番初めに登場した室井は、捜査現場のこともわからず、キャリア組の人間として、自分の正義を主張していただけに過ぎない人間だったと思います。でも、青島たちとかかわっている間に、その考え方にプラスアルファで何かが生まれてきた。そういう成長を遂げてきたと思います。ただ、人間的には成長をしているだろうけれど、自分の理想というものが、どうしても時間がたてばたつほど、遠のいてしまっている。今回の室井は、その最たるところに来てしまった気がします。
Q:確かに。今回の室井は、なんとも言えない苦しい表情を浮かべているシーンが多かったですね。
今回は自分が撮影現場でどんな芝居をしたのか覚えていないんです(苦笑)。それだけ居心地が悪かったんです。自分の気持ちとも一緒だったというか、どうしていいのかわからない歯がゆさというのが柳葉の中にもあったんですよね。それがそのまんまスクリーンに出てしまっている気がします。自分で映画を観ていて、室井、おまえ何か言えよ! と思いました(笑)。
Q:観客はもちろん、室井を演じている柳葉さんがそう思われるのは、よっぽどのことですね(笑)。
前作までの室井だったら、何か言えたのかもしれない。実際に行動に出て何かしたのかもしれない。自分が偉くなって、捜査現場の人間が納得できるような道筋をつけなくてはいけないというのが室井の根本ですから、それがここまで偉くなったことで、果たしてどこまでできているのか、ですよね。
「踊る」史上初、何を考えているのかわからない新キャリアに困惑!?
Q:今回は、本店側でもなく所轄側でもない、鳥飼というニュータイプのキャリアが出てきましたね。
鳥飼は、室井から見たら、クソ生意気なヤツでしょうね。完全に上から目線の男でしたから(笑)。彼がやっていることの根底にあるものが、室井には見えてこないんですよ。
Q:今までのキャリア組のキャラクターたちは、出世や功績というわかりやすい動機を持っていましたが、鳥飼は何を考えているかわからないですね。
完全な新人類ですよね。今こうして話していて、室井がそこまで考えていたかどうかは、疑問ですが……。彼を分析する余裕は、今回の室井にはなかったんです。
Q:ところで、鳥飼を多面性をもって演じた小栗旬さんは、同じ俳優としていかがでしたか?
そりゃもう、かっこいいですよね(笑)。かつて違う作品で息子役をしていただいたことがあって、そのときからもう数年たっていますけど、その成長ぶりたるや! 何かこう、弟が成長したみたいで、ちょっと鼻高々で。勝手に僕がそう思っているだけのことですけど(笑)。
室井は心の親友。くじけそうなときに彼を頼ったこともあります
Q:さて、「踊る」といえば、青島と室井の関係がシリーズを引っ張っている要素ですよね?
かつて室井は「現場の君たちを信じる」というセリフを言ったこともあります。係長に昇進しても、現場を引っ張っていく信念の変わらない青島に対して、室井は今回改めて、もっと動きやすい捜査現場作りをしなければいけないと痛感したと思います。
Q:室井は、もう少しで13年前に青島と誓った理想を実現できるところまで来たのではないですか?
偉くなってやれるものなのか、偉くなってやれなくなるのか、この両極端の準備を、室井は、いや柳葉は、しておかないといけないと今回の撮影が終わって改めて感じたんです。さらに上に行ったものの、何もできなくなっていたという状況も、準備しなくてはいけないと。
Q:シリーズが始まってから13年ですが、このようなシリーズがあるということは、俳優・柳葉敏郎にとってはいかがですか?
ライフワークという言葉を軽率ながら使ったこともありましたが、そうでもないんですよね。実は柳葉敏郎という人間が何かにつまづいたとき、室井を頼っていることがあるんです。だからこのシリーズが自分にとってどうこうというよりも、室井慎次という架空の人間の存在の方が、僕にとっては大きなものに感じています。
Q:「踊る」シリーズ、そして室井との出会いは、われわれが思う以上に大きな事件、だったんですね。
そうですね。俳優・柳葉敏郎としては、この仕事に就いて、室井を演じるという機会を与えられて、それが非常に自分の役に立っているのかなと思います。かつて僕はインタビューで、室井を親友とまで言った男です。今でもその思いは変わらないです。
Q:最後になりますが、今回の「踊る」を経て、今後の俳優・柳葉敏郎は、どう変わっていきますか?
それは、観ていてください(笑)。僕は、意外! と思ってくれた方が、仕事にやりがいを感じるタイプなんです。今回の作品では、今まで室井を愛してくれた人たちを裏切るようなことはしたくないと思いながら現場に立っていましたが、お客さんの気持ちをいい意味で裏切っていく仕事をしていきたいので、どうか見守ってやってください。
柳葉は親友、室井を頼ることがあるという柳葉の告白は、「踊る」のファンならずとも、驚かされる話。誰よりも室井を愛しているのは、13年間彼を演じてきた俳優・柳葉敏郎だということ。ファンにとってこれほど喜ばしいニュースはないかもしれない。
映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』は全国公開中