『インセプション』レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙 単独インタビュー
作品のトーンを決めた日本に持ってこれらてうれしい
取材・文:シネマトゥデイ 写真:高野広美
映画『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン監督が、ハリウッドに仕掛けた前人未到のエンターテインメント『インセプション』。他人の潜在意識の中に潜入し、アイデアを盗むという、観る者の脳を刺激するストーリー展開。すでに熱狂的なファンを生み出し、ネット上では作品の謎について、日夜熱いディスカッションが繰り広げられている。そんな本作で主役を演じたレオナルド・ディカプリオと、重要なキーパーソンを演じ、ディカプリオに「日本の宝」と言わしめた渡辺謙が本作の世界を語ってくれた。
「もうやっちゃえ!」とオファーを受けました(笑)
Q:出演オファーがあったときの感想を聞かせてください。
渡辺:日本で別作品の撮影中だったのですが、クリスからの連絡で3日間だけロスに戻り、そこで出演オファーを受けました。初めに話を聞いたときは「え? 何それ?」というような複雑なストーリーだったのですが、クリスは若手の中ではベストディレクターだと思っていたし、『バットマン ビギンズ』でも有り余る才能に驚かされた経験があったので、「訳がわからなくても、もうやっちゃえ!」という感じでオファーを受けました(笑)。
ディカプリオ:脚本を読んだときは、とにかくその世界観が面白くて、やりたくて仕方がなかったよ。本当に複雑な脚本だったけど、何よりも僕を驚かせてくれたのは、見事に映像化させたクリスの魔法なんだ。「どうやって映像にするんだろう? 観客は理解できるだろうか?」と不安に思っていたんだけど、自分が想像していたよりもはるかに理解しやすく出来上がったんだ。
Q:ノーラン監督がほかのディレクターと違う点があれば教えてください。
渡辺:今回はクリスの完全なオリジナル脚本だったので、彼のイメージの中を僕たちは「さまよわされた」という感覚でした。みんな一緒にジェットコースターに乗っていくような感覚で、クリスの体感スピードについていき、その重力に耐えるという感じで作っていました。
Q:ディカプリオさん、あなたは本当に素晴らしい演技を見せてくれました。どのようにして、あれほどの感情と魂を表現したのですか?
ディカプリオ:すごく頑張ったんだよ(笑)。クリスが描こうとした映像や概念については、彼の指示に従ったんだ。時には彼と意見を出し合って興味深い人物を作り、豊かな感情表現を目指したんだ。僕が演じたコブという人物に関して言えば、カタルシスの旅にしたかった。彼が新しい自分を受け入れられるようにね。
最高の役者との最高のコラボレーションだった!
Q:本作がほかの映画とは異なる、ユニークな点はどこでしょうか?
渡辺:CGをたくさん使ったと思われがちなんですが、非常にアナログな手法で撮影したんです。6割くらいは手持ちカメラでの撮影だったんじゃないかな。スクリプトの段階から緻密(ちみつ)なプランを組み立てないと、到底できないことだったと思うんです。文学的なセンスだけでなく、科学的、建築的な要素を含めて、クリスはレオナルド・ダ・ビンチの再来なんじゃないかって思いますよ(笑)。
ディカプリオ:彼の言う通り、とても野心的な映画だと思う。クリスは人間の潜在意識の内部で、多次元の物語を創(つく)り出しながらも、ハリウッド大作らしい娯楽性があふれるスリラーに仕上げたんだ。この映画は登場人物が自分の過去を受け入れて、根本的な目標を達成する旅も追っているんだ。彼らの旅に観客も一緒にのめり込むと思うよ。
Q:劇中では素晴らしいチームワークを発揮していました。実際に現場ではいかがでしたか?
ディカプリオ:ケンの才能には、前から注目していたんだ。素晴らしい演技をする俳優だってね。ケンをはじめ、エレン・ペイジやジョゼフ・ゴードン=レヴィット、トム・ハーディたちと常に最高のチームでいる必要があった。皆最高の役者たちだったから、最高のコラボレーションができたよ。撮影前に皆でバックストーリーをたくさん話し合って、シーンのディテールを決めていった。ケンも、いろいろなアイデアを出してくれたし、カメラが回っていないところでもすごく気を使ってくれたんだ(笑)!
渡辺:レオが言った通り、撮影に入る前に皆でよくディスカッションしていましたね。テンションを上げなきゃいけないシーンの前には、レオ自らわれわれを引っ張っていってくれました。彼の作品にかける情熱を感じた瞬間でした。
ビックリするでしょ? 僕らが一番ビックリしたんだから!
Q:ブルースクリーンをまったく使わずに撮影したということですが、とても信じられません!
渡辺:信じられないと思いますが、本当です。列車が突然突っ込んでくるシーンも、本当に撮影しているんです。ビックリするでしょ? だって、僕ら俳優が一番ビックリしたんだから!
ディカプリオ:クリスは、ロケ撮影が好きな監督だから、CGを多用した現実味の乏しい環境での撮影は少なかったよ。雪崩を起こしたり爆発させたり毎日が驚きの連続だったけど、地に足が着いているので僕らは演じやすかった。クリスはSF映画の中に現実社会の要素を盛り込むんだ。SFであっても、完全に現実と切り離すことはしないんだ。
渡辺:やっぱり実在の場所に行って、実際の空間を俳優に体験させていく。それをお客様にも届けるということがこの映画のある種のテーマでもあったので。世界6か国をロケーションしましたし、スタジオのセットも俳優たちが実際に体感できるセットを作って撮影したので、映像の中に反映されていると思います。
Q:東京でのシーンはいかがでしたか?
渡辺:撮影は東京から始まりました。そのころは、ストーリーを読んでもまだまだ全ぼうが見えていない状態でした。こうして完成して日本に持って帰ってこられて本当にうれしいです。
ディカプリオ:実はこの作品のトーンを決めた大切な2日間が、この東京でのロケだった。だからこそ、日本の皆さんにこの映画を早く観てもらいたくで仕方がなかったんだよ!
どんなにいい夢を見ても、すぐ悪夢になっちゃう(笑)
Q:本作のテーマ「夢」に関してどんなリサーチをしたのでしょうか?
ディカプリオ:夢の世界で科学を語るのはかなり難しいことだと思う。だから、ごく通常の役づくりをしようとしたよ。夢分析の本を読み、意味を調べたり。でもクリスの頭の中の独特な夢の世界を理解しなければいけなかったから、結局彼との会話がリサーチの出発点になったね。
Q:お二人が実際に見た夢で、二度と見たくない悪夢はどんな夢ですか?
ディカプリオ:夢ってちょっとしたプライベートな話だからね(笑)。内容は言えないけれど、最近はどんなにいい夢を見ていても、すぐに悪夢になっちゃうんだよ。クリスのアイデアは、僕の精神環境にまで入り込んできちゃっているみたいだね(笑)。まさにインセプションだよ。
渡辺:僕は、初めてこの作品を試写で観たときに、本当に疲れ切ってしまって(笑)。その晩ひどい悪夢にうなされたんです(笑)。あの夢には、二度と戻りたくないですね。
Q:最後に想像を絶する本作の魅力をぜひ語ってください!
ディカプリオ:この映画は、シュールで脳を刺激する作品であるにもかかわらず、ハリウッド的なスペクタクルが詰まった作品なんだ。日本の皆さんにも気に入ってもらえる自信があるよ。クリスの創(つく)った夢の世界を心から楽しんでほしい!
渡辺:数ある映画の中で、こんなに「体験してほしい映画」はなかったと思います。劇場に足を運んで、「観る」というよりも、この脳内アトラクションを一緒に「体感」してほしいと思います。ぜひ、劇場でお会いしましょう!
劇中では、ディカプリオ演じるコブをリーダーとしたチームが見事なチームワークでミッションをクリアしていくが、映画製作もチームが基本。取材中、周りに気を配り続ける二人のハリウッドスターを見て、彼らが成功している理由がわかった気がした。20年以上もの間、世界中で愛され続けているディカプリオと、ハリウッドに愛された渡辺。ハリウッド最高のキャストと監督が挑んだ本作に、ポップコーンを食べるのも忘れるほど夢中になってしまうはず!
『インセプション』は全国公開中