映画『おにいちゃんのハナビ』高良健吾、谷村美月 単独インタビュー
世界一の花火をスクリーンで観てほしい
取材・文:シネマトゥデイ 写真:尾藤能暢
400年の伝統を誇る花火祭り「片貝まつり」が行われる、新潟県小千谷市片貝町を舞台に、余命わずかな妹と、ひきこもりの兄とのきずなを描いた映画『おにいちゃんのハナビ』。実話を基にした本作は、兄弟のきずな、家族の愛、友情の温かさ……さまざまな優しさが詰まったストーリーで、観る者の心を温かく包んでくれる。難病と闘いながらも、元気いっぱいに毎日を謳歌(おうか)する妹を演じた谷村美月と、妹のために花火を打ち上げようと奮闘する兄を演じた高良健吾が、作品の舞台裏、魅力を大いに語ってくれた。
すごく大きな縁を感じて、出演を決めました
Q:「ボタンの掛け違い」とか面白いセリフがたくさん入った作品でしたね?
高良:最初は、本当に大まかな話しか聞かなかったので、ケータイ小説みたいなものを想像していたんですが、脚本を読んでいい話だなって思ったんです。この映画の企画をされた方が、僕の出演した作品をたくさんご覧になっていて、僕をすごく推してくれていたんです。その方にお会いして、作品のことを紹介していただいたんですが、数日後に亡くなられて……。大きな縁を感じて、出演を決めました。その方への思いも、最後の花火に込めました。
谷村:わたしの役柄は、難病の女の子と最初に聞いていたんですが、実際に台本を読んでみたところ、この作品はよくある難病ものの作品ではないなと思って。どちらかというと、お兄ちゃんの自立を中心に描いていたので、そこがやりたいなと思ったところでしたね。
Q:号泣もの! という感じでは全くなくて、病気の妹がすごく明るくて、ちっとも暗い映画ではありませんでしたね?
高良:今までの号泣系の映画でも面白い作品はたくさんあります。でも、病気の人を描いた作品って死に向かってどう生きるかってことを中心に描いているものが多いと思うんです。それが、華ちゃんには、全く感じられなくて。死を意識せずに、生きることだけを考えて生きているんですよね。
谷村:「つらい」って言いながら生きている病気の人よりも、精いっぱい生きている人の方が多いと思うんです。だから、等身大の女の子を演じられて良かったなって思いました。
Q:高良さんも、ひきこもりのお兄ちゃんをとても自然に演じられていましたね?
高良:僕はひきこもりを特別なこととは思わないんです。騒いでいるのは周りだけで、ひきこもっている本人は、自分の時間で自分のことを考えたいだけなんじゃないかって。妹に外に無理やり連れ出されたときも、きっと彼は外に出るタイミングを待っていたんじゃないかなって。
Q:谷村さんは、すごく元気な役柄でしたが、演じてみていかがでしたか?
谷村:いやあ~、しんどかったです(笑)。わたし自身、あまりハイテンションになることがない人間なので。監督さんからは、もっと元気にっていう指示が多くて、かといってあまりにも元気だと、うるさい感じになっちゃうし、そのさじ加減が難しいなって思いました。
優しいお兄ちゃんは、あこがれちゃいますね!
Q:兄と妹とのセリフの掛け合いが、とっても仲良くて見ていてうらやましくなりました! お二人はご兄弟はいるんですか?
高良:僕は兄しかいないので、妹との関係ってわからないんですけれど、きっと妹がいたら、こうなんだろうなと思いました。ただ距離感は、僕の兄弟とすごく似ていました。とても仲がいいので。
谷村:うちは、弟がいるんですが、割と冷めているので(笑)。こういうベタベタした関係は、ちょっとう~んって感じでした(笑)。でもああいう優しいお兄ちゃんは、あこがれちゃいますね!
Q:引っ込み思案な兄と、社交的な妹。スクリーンでは正反対のお二人ですが、実際はお二人ともシャイですか? 現場ではどんな距離感で過ごされていたのでしょうか?
高良:僕は何も意識しないで、過ごしていました。団体行動ができるときもあるし、できないときもあるし……。
谷村:(高良さんは)とても自由ですよね! でも、本当にそのとおりで、一緒に行動したくないときは、行かないってはっきり言ってくれるし、そういう気を使わなくていい感じが、良かったです。
高良:いや、気を使うときもあるんだよ(笑)。僕に限らずみんな、気を使うときはありますよね!
谷村:わたしも最初は気を使ってましたよ! でも、一緒に過ごすうちに、まあいっかって(笑)。
大杉さんとは、あまりしゃべるなって言われていたんです(笑)
Q:大杉漣さんと、宮崎美子さんとの家族の姿も、とても温かかったですね?
高良:僕の中で、大杉さんも宮崎さんも、俳優さんではなくて、本当にお父さんとお母さんだったんです!
谷村:擬似的な世界ではあるんですが、本当に勘違いをしてしまうくらい、家族だったんです。だから、別の現場でご一緒したら、たぶんこの関係が戻っちゃいそうで怖いくらいです。
Q:大杉さんは、この映画で車の免許を取得したんですよね?
谷村:免許を、すっごくうれしそうに、見せびらかしていました!
高良:僕の役柄は、父親と壁のある役だったので、実は監督から大杉さんとは、あまりしゃべるなって言われていたんです。
谷村:え? そうだったの?
高良:そう、だから作品が終わったあとに、「お前、おれのこと嫌いだっただろ」って大杉さんに言われて(笑)。大杉さんも、「高良君とはしゃべらないで」って言われていたらしいんですけど、でも大杉さんはしゃべってきて……。だから、僕はけっこう寝ていたと思う。
谷村:あ、寝てた!
高良:僕もしゃべりたかったんですけれどね。僕は監督さんに言われたことを忠実に守っていただけなんです(笑)
片貝まつりの存在をいろんな人に知っていただけたら、うれしい
Q:ラストシーンは、やはりすごく印象的でした。
高良:僕は、ラストでこうしたい! っていうのがあったんです。それは、この映画の基となったドキュメンタリーを見たときに、太郎のモデルとなった方がいて、花火の前はおどけていたのが、花火が打ち上がった瞬間に表情が百八十度変わるんです。すごく真剣な表情になるんです。その変化が、すごくリアルで、愛を感じたんです。だから、セリフではなくて、気持ちとして演技する上で絶対にやりたかったことなんです。最初はごまかしていても、花火が上がったら自分の気持ちに素直になりたかった。そこが表現できたことは、良かったなって思っていますね。
谷村:わたしは、ラストシーンの撮影にはいなかったので、試写で観たときは、いち観客として観ていたのか、華ちゃんとして観ていたのか……不思議な気持ちで観ていました。
Q:ぜひ、スクリーンで観てほしいですね。
高良:はい。花火のシーンは、絶対に映画館で観た方が、感動すると思うので、この作品は映画館で絶対に観てもらいたいです! この作品を観ていただければ、確実に何かを受け取っていただけると思うので。この映画を観てこのシーンがいいなっていうところがあれば、そのシーンが一番の見どころになると思います。でも観ていただけなければ、その作品はないことになってしまうので、ぜひスクリーンで、楽しんでほしいです。
谷村:泣かせる映画かと思いきやそうではないので、先入観なしに観てもらいたいですね。この作品で、片貝まつりの存在をいろんな人に知っていただけたら、うれしいですね!
スクリーンの中では、引っ込み思案な兄と、元気で活発な妹という対照的な二人だったが、実際の二人は、性格まで似ているんじゃないかと思うほど、シャイな印象を受けた。だが、静かな外見とは裏腹に、内に秘めた、芝居に対する、まじめで真摯(しんし)な姿勢や情熱は二人とも同じくらい熱い。そんな二人が演じた兄と妹だからこそ、観ている者は自然と映画の世界に引き込まれ、ラストシーンでは、気付かないうちに涙がこぼれてきてしまう。スクリーンいっぱいに打ち上がる「おにいちゃんのハナビ」を、ぜひ、劇場で楽しんでもらいたい。
【高良健吾】スタイリスト:澤田石和寛
【谷村美月】スタイリスト:松尾由美 ヘアメイク:松嶋慶太
映画『おにいちゃんのハナビ』は9月25日より全国公開