『乱暴と待機』美波、小池栄子、山田孝之 単独インタビュー
この4人って見ていて気持ちがいい!
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
新進女性作家・本谷有希子の伝説的な舞台劇を、映画『パビリオン山椒魚』の冨永昌敬監督が映画化した『乱暴と待機』。本作は、天井裏からのぞく男とのぞかせる女との奇妙な共同生活が、近所に越してきた1組の夫婦によって変化していく様子を描いたユニークな物語だ。同居中の英則(浅野忠信)を「お兄ちゃん」と呼ぶヒロインの奈々瀬を熱演した美波と、奈々瀬を嫌悪するあずさを演じた小池栄子、奈々瀬に関心を抱くあずさの夫・番上を演じた山田孝之が、撮影のウラ話を語ってくれた。
本当にイライラしていた!(小池)
Q:登場人物が4人だけなのに、とても濃厚で独創的な作品でした。皆さんにとってもチャレンジだったのでは?
美波:舞台が原作なので、最初は映画としてひとつの形に収まるのかというのが心配でした。生々しい場面もあるから、エグい作品になってしまうかもしれないと思っていたんですけど、試写で観たらすごくオシャレになっていて、冨永監督のこだわりが感じられる作品になりました。
小池:監督が即興的な演出をされるので、仕上がりがどうなるのかまったく読めなかったんです。例えば、あずさが自転車を取り出すときの「ギュッギュッ」という声とか、ここでなぜそれを言うのかな? と思うことも多かったんですけど、完成した作品を観たら、自然に溶け込んでいましたね。
山田:監督の演出が本当に細かくて、現場でセリフや動きを足すことが多かったんですよ。戸惑うこともあったけど、その思い付きがすごく面白いんです。だから、監督を信用して、求めているものに近づこうと努力しました。ほとんど言いなりでしたね(笑)。
小池:奈々瀬ちゃんの動きも、監督が自ら演じてくれることが多かったよね。
美波:そうですね。監督とはかなり打ち合わせをしました。
山田:でも、すごく大変そうだったよね。監督が「こんな感じでやってください」って演じてみせて、「もう一度やってもらってもいいですか?」と美波さんが言うと、「いや、僕は役者じゃないからできません! あなたの方がうまくできるはずです!」って突然キレたりするんですよ(笑)。
Q:奈々瀬とあずさ、女同士の確執も興味深かったです。
美波:実はわたし、小池さんとのシーンはかなり緊張していたんです。だって、あずさちゃん、本当に怖いんだもん(笑)。
小池:わたしが本当にイライラしていたからでしょ(笑)。わたしって、仲良くなってしまうとお芝居にも出ちゃうんですよ。緊張感のないゆるーい感じになってしまうので、今回の現場では、あえて美波さんと距離をとるようにしていたんです。
美波:そうだったんですか! 知らなかったー(笑)。
番上のような男性に危険信号がピンと出る!(美波)
Q:奈々瀬は「人をイラつかせる面倒くさい女」、あずさは「暴力的で気が強い妊婦」、番上は「無気力で女にだらしない男」、それぞれ、かなり個性的な役でしたね。
美波:奈々瀬は相手のことを思ってしたことが、どんどん裏目に出てしまう女性なんです。相手を傷つけないようにしているけど、それって、自分が傷つきたくないからなんですよね。自分の殻から抜け出したいのに、どこか甘えている部分もある。そんな奈々瀬の本質を、ちゃんと理解しないと演じられないと思ったんです。理解するのに時間はかかったけど、だんだん彼女がいとおしくなっていきました。
小池:あずさは4人の中で一番まともなキャラなんですけど、演じていてすごく疎外感を感じました。わたし以外の3人はちゃんとぶつかり合っているのに、あずさの生きている世界だけ違うような気がしてくるんですよね。「え? わたしが間違っているの?」と思ったりして(笑)。だんだん孤独感にさいなまれていくような感覚でした。
山田:本読みをしていたときは、番上は悪意がある人物なのかと思っていたんですが、監督から「悪気はないのに自然にやってしまう残酷さ」と言われたんです。作為的な行動ではなく、ちょっと抜けたところこそ、あずさからはいとおしく見えてしまう。そんな男だと思って演じました。
Q:その番上のダメ男ぶりがとてもリアルだったのですが、山田さんは男として共感できるキャラクターだったのでしょうか?
山田:んー、女性にすぐ手を出しちゃうのはよくないと思いますけどね(笑)。ただ、僕が昔遊んでいた友達が番上とすごく似ていたので、演じるときに参考にさせてもらいました。彼と話していたことを思い出すうちに、番上の思考が理解できたような気がします。
小池:番上くんみたいな男って、実はモテるからね! わたしは好きです(笑)。
美波:わたしはかかわらないようにします。番上さんのような男性と会ったら、危険信号がピンと出ますね(笑)。
浅野さんとはずっと共演したかった!(山田)
Q:4人のセリフの掛け合いが絶妙ですが、アドリブが飛び出す場面もあったのですか?
山田:僕たちがアドリブをしても、監督は「なし!」って言ったと思いますよ(笑)。監督の頭の中で完全にパズルが出来上がっていたので、僕らが邪魔なピースをはめようとしても無駄なんです。
美波:英則がマラソンをしに行くときって、こっそり屋根裏からのぞくときだから、浅野さんはアドリブで帽子のつばを後ろにしてかぶっていたんです。でも、そのシーンは編集でカットされていました(笑)。
山田:きれいに全部カットされていましたよね(笑)。でも、興奮した英則が、みんなの前で服を脱ぎながら語るシーンがあるんですけど、あれは浅野さんのアイデアだったんです。
小池:浅野さん、本当は「全裸になりたい!」っておっしゃっていたんですよ(笑)。
Q:英則の奇人・変人ぶりは最高でしたね。今回、浅野さんとご一緒していかがでしたか?
美波:浅野さんはすごく優しくて、二人だけのシーンはあまり緊張しませんでした(笑)。
小池:いつもニコニコしていて、こちらに緊張させない空気を作ってくださるんですけど、たまに、「今、なんて言いました!?」ってツッコミたくなるくらい過激な発言をされるときがあって、そのギャップがたまらないんです。本当はどんな人なんだろう・・・・・・と思ってしまう、ミステリアスな魅力のある方ですよね。
山田:昔、『鮫肌男と桃尻女』を観て、なんて面白い芝居をする方なんだろうと思って以来、ずっと共演させていただきたかったので、すごくうれしかったです。でも、浅野さんは現場でどう演じたらいいのか悩んでいたみたいですよ。撮影が終わった後も、「英則のことは今でもよくわからない」と言っていましたから(笑)。
この4人は特殊だけど、気持ちがいい!
Q:最後に、皆さんが思う本作ならではの魅力を教えてください。
小池:この映画に出てくる4人は、かなり特殊ではあるけれど、特別な2組のカップルじゃなくて、どこか身近に感じられるところがあると思うんです。ご近所でもこんなことがあるかもしれないって、親しみをもって観ていただけたらうれしいです。
山田:僕は、この作品の登場人物がみんな好きなんですよ。今の社会って、秩序や法律に縛られて頭で考えてしまいがちですけど、彼らは感情のまま生きている。だから、この4人くらい思い切って生きてみるのもいいんじゃないかなと思います。
小池:そう、この4人って見ていて気持ちがいいよね!
山田:みんな、自分のやりたいことしかやっていないからね(笑)。
美波:4人とも、自分の欲求に素直に従っているんですよね。この映画を観た人は、心の奥で眠らせている欲望が、動き出すような感じがすると思います。とても人間らしいお話だし、共感できる部分もいくつもあると思うので、皆さんにも楽しんでもらいたいです。
とにかく冨永監督のこだわりがスゴイ! と口々に語ってくれた3人。一見するとゴミの山のようなモノが、計算し尽くされた美術セットだったり、劇中で英則が集めているカセットテープが、タイトルに魚介類の名前が入っている懐メロで統一されていたりなど、マニア心をくすぐる演出が満載なのだそう。実力派俳優4人の演技バトルや、先の読めない展開はもちろん、何げないシーンの背景に至るまで、一瞬たりとも目が離せない!
『乱暴と待機』は10月9日より全国公開