映画『死刑台のエレベーター』吉瀬美智子 単独インタビュー
相手を翻弄(ほんろう)するような恋愛をしていたかもしれません
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
ヌーベルバーグの鬼才ルイ・マル監督の名作『死刑台のエレベーター』が、吉瀬美智子と阿部寛を主演に迎え、世界で初めてリメイクされた。本作は、愛人関係にある男女が殺人計画を企てたことから始まるスリリングな極上ミステリー。オリジナル版でジャンヌ・モローが演じた悪女のヒロインを、堂々たる存在感で演じ切った吉瀬が、本番勝負だったという撮影のエピソードや、自身の恋愛についてなど、飾らずに言葉で本音交じりで語ってくれた。
オファーされたときは、プレッシャーに負けそうだった!
Q:まさに、日本のジャンヌ・モローという表現がピッタリの吉瀬さんですが、オファーを受けたときのお気持ちは?
ものすごくプレッシャーを感じて、本当にわたしでいいのかな? と思ったんです。でも、緒方明監督にお会いしたら、「健康な体一つで来てくれればいいから」と言ってくださったので、お受けできたんです。たぶん監督は、わたしがプレッシャーに負けそうになっていることをわかっていたんでしょうね。逆に、「こんな芝居を求めています」とか、「オリジナル版のジャンヌ・モローはこうで……」など、演技について熱く語られていたら、お受けできなかったかもしれません(笑)。名作のリメイクというのは、絶対にオリジナルと比較されてしまうものだから、その不安を取り除いていただけて助かりました。
Q:演じるにあたってオリジナル版を参考にされた部分もあったのですか?
実は、オリジナル版をちゃんと観ていないんです。ストーリーを理解するためにさらっと流す程度に観たくらいですね。わたしは不器用なので、ジャンヌ・モローの演技や表情をじっくり観てしまったら、それをまねしてしまうような気がしたんです。リメイクをするというのではなく、ほかの映画やドラマに出演するのと同じ感覚で演じました。
Q:モノローグが多いヒロインを演じるのは、テクニック的にも難しかったのでは?
そうですね。口数が少なく、感情も途中まで出さない女性だったので、前半は特に難しかったです。強くて凛(りん)とした雰囲気を大切にしながら演じましたけれど、監督の演出を信じて演じた部分が多かったです。事前に役について考え抜いたというよりは、現場での本番勝負という感じでした。
現場で会う前から、阿部寛さんへの思いが募っていた!?
Q:冒頭の「愛してる……」のセリフとクローズアップには、オリジナルをリスペクトする緒方監督のこだわりがあったそうですね?
はい、監督がどうしても撮りたいとおっしゃって。わたしは「愛してる」なんて日常で言ったことがないから、最初はどうしたらいいのか戸惑ったんですが、監督に「フラットな感じで言ってほしい」と言われたので頑張りました(笑)。あと、カメラがかなり寄るので、しゃべるときに顔が動かないように気を付けました。
Q:芽衣子の愛人・時籐を演じた阿部寛さんとは、直接絡むシーンがほとんどなかったようですが?
阿部さんとは、撮影現場でも30分くらいしかご一緒していないんです。冒頭の時籐と電話で会話するシーンも、監督が阿部さんの代わりを務めてくれたんです。監督もすてきな声をしていらっしゃるんですけれど、やっぱり阿部さんの声とは違うんですよね(笑)。
Q:でも、芽衣子と時籐がお互いを強く思い合う気持ちはしっかり伝わってきました。
ありがたいことに、昨年のNHK大河ドラマ「天地人」で、阿部さんと共演させていただいているんです。しかも、わたしが演じたお悠は、彼が演じた上杉謙信を思いながらも結ばれない女性だったので、その思いがずっと募ったままだったんです。だから、現場で阿部さんとお会いしたときは、思わず「やっと会えたね!」と言ってしまいました(笑)。
Q:なるほど、お二人とも最初から気持ちが盛り上がっていたんですね。
阿部さんはどうだったかわからないんですけれどね。ドラマのときは、わたしが一方的に思い続けていて、彼は振り向いてくれない役だったから(笑)。
美しき悪女・芽衣子と吉瀬の共通点とは?
Q:愛人に夫を殺害させる芽衣子。圧倒的な強さと欲望を持つ彼女の要素は、吉瀬さんの中にもあると思いますか?
そうですね。芽衣子は悪女というよりも、芯が強くて自分に素直な人だと思うんです。こうと決めたら絶対にやり通そうとするところなど、わたしと似ているところがあるかもしれません。まあ、殺人を犯せとまでは言いませんけれど(笑)。
Q:「あの人を殺して、私を奪いなさい」のセリフが印象的ですが、吉瀬さんご自身も、男性を動かしてしまうタイプですか? それとも受身なタイプ?
どちらなんでしょう? 芽衣子もそうなんですけれど、自分が相手を振り回そうなんて考えていないと思うんです。自分の感情が赴くままにやっているから、悪気はないんです。だから、わたし自身が気付いていないだけで、相手を翻弄(ほんろう)するような恋愛をしていたかもしれません(笑)。
Q:吉瀬さんに翻弄(ほんろう)されてみたいと思う男性は多いでしょうね(笑)。
どうでしょう(笑)。でも、わたしは今までクールな役が多かったから、そのイメージを持っている人が多いみたいなんですが、「愛してる」とか「奪いなさい」とか、実際は言ったことなんてないですよ! どちらかというと男っぽい性格だから、恥ずかしくて言えません(笑)。
Q:男っぽいといえば、最近は映画『海の金魚』など、男っぽい役にも挑戦されていますが、ファッションによってしぐさや言葉遣いがまったく違うことに驚かされます。
モデルをやっていたせいか、衣装によって役のスイッチが入るタイプなんです。そのときのファッションによって姿勢も人柄も変わりますね。プライベートでもそうです。そのお店の空間にいたときにどう見られたいかを考えて服を選びます。例えば、おすし屋さんのカウンターにいるときは、和のイメージでいたいとか。着物の着付けができたら着物で行きたいくらい(笑)。普段からファッションに合わせた女性像を演じているところがありますね。
お芝居をすることがどんどん楽しくなってきた
Q:女優としての注目度がますます高まっていますが、お芝居に対する意識に変化はありますか?
『海の金魚』で、初めていわゆる普通のお姉さんのような役を演じて、ドラマ「ハガネの女」では、思いっきり感情を出す役を演じて、「お芝居って楽しいんだな」ってどんどん思うようになりました。クールな役というのは、必要以上にしゃべらないし、無駄な動きをしてはいけないとか、いろいろな制限があるんです。どちらかというと本来の自分に近いナチュラルな役は、すごくやりやすい。だから、今までやってきたことが難しかったんだなと実感しています。今回演じた芽衣子は、クールな面もありつつ後半に向かって感情を出していく役なので、難しくはあったけれど、やりがいもありました。
Q:本作でも難しい芝居をやり遂げた吉瀬さんが、この先目指す女優像とは?
女優としてはいろいろな面を持っていたいし、見せていきたいですね。クールとかセクシーとか思われるのはとてもうれしく、それはそれで役者冥利(みょうり)に尽きることなんですが、もっといろいろなタイプの女性を演じて「どれが本当の吉瀬美智子かわからない!」と言われるようになりたいです。
シンプルなショートパンツをスタイリッシュに着こなした吉瀬は、誰もが見とれてしまうほどのかっこよさ。実は男っぽい性格とのことだが、この日はファッションとの相乗効果なのか、よりさばけた雰囲気で正直な思いを打ち明けてくれた。本作でも、芽衣子が赤のゴージャスなロングコートから男物のジャケットに着替えた瞬間に、気取りを脱ぎ捨てた彼女の劇的な感情の変化が見られるはず。現代の日本を舞台に生まれ変わった本作の魅力を、吉瀬の美しさと共に味わってほしい。
スタイリスト:平野真智子(NOMA) ヘアメイク:山下景子(KOHL)
(C)2010「死刑台のエレベーター」製作委員会
映画『死刑台のエレベーター』は10月9日より全国公開