「LOST ファイナル・シーズン」真田広之 単独インタビュー
可能性を感じたら、おじけづかずに飛び込んでみる
取材・文:吉川優子 写真:小林修士
エミー賞やゴールデン・グローブ賞など数多くの賞を受賞し、アメリカのテレビ史に残る大人気シリーズとなった「LOST」。謎が謎を呼ぶミステリアスな展開で世界中のファンを熱狂させたこのドラマのファイナル・シーズンに、国際的に活躍する俳優、真田広之が出演している。島に存在する謎の場所、テンプルを守るテンプルマスター、道厳(どうげん)という重要な役を演じた真田に、話題のテレビシリーズに出演した感想や撮影の裏話を聞いた。
キャラクターの核心部分を表現して勝負
Q:「LOST」の出演依頼があったとき、ストーリーは極秘だったと思いますが、脚本はお読みになれたのですか?
あれはほぼ初めてに近い決断でしたね。一話目の脚本すらなかったですから。全体のちょっとした流れと、自分のキャラクターだけしか教えてもらえませんでした。プロデューサーのカールトン(・キューズ)とデイモン(・リンデロフ)と3人で、お互いに意見を交換し合っていたんです。僕は過去の番組を結構見ていたので、彼らの作り手としての志とか、異文化に対する理解やリスペクトを感じて、これはもう信じて飛び込もうと思ったわけです。
Q:彼らが、真田さんの出演作をご覧になっていて、ぜひということだったそうですね。
『たそがれ清兵衛』とか『ラスト サムライ』とかですね。それから『サンシャイン2057』をはじめ、英語での芝居を見ての判断だったと思います。
Q:最初は日本語だけだと思っていたら、だんだん英語のセリフが増えてきたそうですね。
日本語だったら直前に脚本をもらっても何とかいけると思ってオッケーしたんですが、回を追うごとに英語のセリフが増えてきました。最初から知っていたら、多分おじけづいてやらなかったんじゃないかと。映画と違ってテンポが速いので、読み込む時間も、覚える時間もほとんどないわけですからね。そこで恥もかきたくないし、現場で迷惑も掛けたくないし。逆に、開き直ってといいますか、今の実力以上のことはもう無理だから、極力ベストは尽くすにしても、本当にキャラクターとして何を伝えたいのかという核心の部分で勝負するしかないんだと思えたのは大きな収穫だったような気がします。
周囲に認められた瞬間を感じた
Q:ファイナル・シーズンということで、すでに出来上がっているチームに入っていくのは大変ではなかったですか?
マシュー(・フォックス)の存在は大きかったですね。僕が現場入りする前に、スタッフに「友達が来るからよろしくね」と言ってくれていたんです。一人でもそういう人がいると心強いじゃないですか。ましてや6年目で、そこに一人新参者が来るわけですからね。やはり誰も知らなかったらちょっと不安だっただろうなと思いますね。初日、現場に出て、セットに入ったら、声を掛けられて、振り向いたら『ラスト サムライ』のときのカメラ・オペレーターだったんです。何人かそういう人がいたんですよ。また、ハワイですから日系人の方も多いので、日本語で話し掛けられたりとか。そういう親日ムードが現場にあったので、初日から不安が一気に飛びましたね。
Q:実際撮影に参加されてみていかがでしたか?
あれだけのヒット作だけあって、お金を掛けているなあと思いました。セットもそうですけど、衣装、小道具、どれ一つとってもそうですし、フィルムで常に2、3カメ回して、ふんだんに撮りまくっていますからね。そういう意味では非常にぜいたくな現場だなと思いましたね。テンポはもちろん速いんですけど、効率のいい中、徹底的に素材を撮りまくる。これであのクオリティーをキープしてきたんだと初日から実感しました。
Q:マシュー・フォックスさんとは現場でいかがでしたか?
最初に登場するところは、マシューとの絡みが多かったので、久しぶりとはいえ、あんまり世間話とかしなかったですね。むしろあの役と役の距離感をキープしないといけないというのがありました。特にマシューは、そういうシーンになると朝から作ってくるタイプなので、お互いにそれは意識しましたね。2、3日たつまでは、友達同士としての私語はあえて交わさなかったです。そして、役同士の距離感が確立したところで、ランチのときとかポロっとしゃべるようにしました。そういうことを共有できるのは、コミュニケーションが事前にとれているという安心感があるからです。役に集中するというのはお互い最初からありました。だからすごくいいかたちで入れたんです。彼と僕がそうやっているのを見て、周囲の人が「あっ」と認めてくれたようなまなざしが感じられたので。入所試験通りました、みたいな(笑)。
「LOST」に込めた日本人としての主張
Q:アクションシーンに関しては、ご自分でアイデアを出したりなさったのですか?
あれも、1週間前にポンと脚本を渡されて、見てみたらああいうシーンが入っていたんです。アクションコーディネーターが動きをつけたからそれを見てくれと言われて行ったら、ジャッキー絡みでよく知っている人だった。で、いきなり1分半くらい、スタントマンに付けた動きを見せられました。僕のキャラクターは日本から来た日本人なんですけど、若干、香港的な動きや手が入っていました。それで、知り合いであることをいいことに、いろいろ変更させてもらいました。そこだけアクションシーンとして浮いてしまったりしないように。そしてキャラクター同士の対決がちゃんと際立つように、動きを変えたり、日本的な動きにしてみたりしました。芝居とか、カルチャー的なこともそうですけど、動き一つにしても、日本人としてそういう主張をしないといけないんです。特に日本で生まれ育った俳優としては、そこは死守したいところですよね。
Q:今回、「LOST」に出演されて、特にこれを学んだと思われることはありますか?
やはり可能性を感じたら、取りあえずおじけづかずに飛び込んでみるということの大切さを改めて実感しましたね。まさに時代と、世界マーケットと向き合い、それを承知でみんな現場に来ていて、誇りと自信を持ってやっている。そのエネルギーというのをすごく肌で感じたんです。これから日本で作品を撮るにしても、そういう目で、そういう志でやらなきゃいけないなと思いました。撮影に入る前にカールトンたちとポピュラリティーと芸術性について話したんですが、彼らはとにかくクオリティーを高め、作ったからにはより多くの人に見てもらえるように、その両立を図ろうとしていると言っていました。まさにその通りだと思いましたね。
Q:ロサンゼルスには何年住んでいらっしゃいますか? またハリウッドについてはどう思われますか?
6年目くらいですかね。でも、LAに来たのは、仕事をしていないときのベースをどこに置くかというだけの話なので、あんまりそんなに一大決心というほどではなかったんです。来てみて、システムの違いや習慣の違いで戸惑うこともあって、フラストレーションがたまることも日常多々ありますよ。でも、1作、1作重ねるごとに友達もできるし、コネクションができていく中、少しずつやれるかも、という気持ちが積み重なってきたというところです。ただ、やっとお客様気分が抜けたという感じですね。「LOST」という洗礼を受けたのも大きかったかもしれないです。何か、いろいろと準備期間みたいな感じだった思いが、やっとスタート地点に立ったかな、というところですね。
先月50歳の誕生日を迎えたばかりの真田。「大台です」と口にするものの、その姿は若々しく、とてもその年齢には見えない。趣味は、知らない街をドライブしたり水泳や釣りをすることなど。昔から「急がば回れ」的な思考でずっとやってきたという真田、今後世界を舞台にして、映画、テレビなどさまざまな場所で一体どんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみだ。
海外ドラマ専門チャンネルAXNで日本独占放送中。年末年始全18話一挙放送
(C) ABC Studios
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