映画『僕と妻の1778の物語』竹内結子 単独インタビュー
夢を持っている男性はステキだと思う
取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美
SF作家・眉村卓と悦子夫人の実話をベースに、がんで余命宣告を受けた妻のために一日一編の小説を書き続けたSF作家の姿を描く映画『僕と妻の1778の物語』。大ヒットドラマ「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」「僕の歩く道」に続く「僕シリーズ」の最新作として誕生した本作で主人公の朔太郎を演じたのは、シリーズを通して主演を務めてきた草なぎ剛。そして、竹内結子が朔太郎の妻・節子を演じた。草なぎとは映画『黄泉がえり』以来の再共演となる竹内が、作品のエピソードを語った。
幸せな思い出のイメージを大事にした作品
Q:まるでファンタジーのような美しい世界観が印象的でした。
星(護)監督が大事にされていたのは、朔太郎さんが節子と過ごした幸せな思い出をすくい取るようなイメージだったんです。だから、夫婦の日常を描いているのだけど、どこかノスタルジックな感じがするんですよね。わたしが節子を演じるときも、監督からは「太らないでね」と言われたくらいで、役づくりのために痩せてほしいとか、闘病中のリアルさを求められることはなかったんです。まあ、スケジュールがハードだったこともあって、なんとなく体重は落ちていきましたけど。
Q:セットや小道具もユニークで、細部にまで監督のこだわりが感じられる作品ですよね。
撮影現場でも監督のこだわりがビシバシと伝わってきました。事前に打ち合わせをして決めたはずの美術や小道具も、撮影当日になってから「ちょっと違うかな……変えよう!」とおっしゃって、別のものに変更されることもよくありました。それだけディテールにこだわっておられたからこそ、あのちょっと不思議な空気が生まれたのでしょうね。それぞれのキャラクターに対する演出もすごく細かくて、うなずき方から声のボリュームに至るまで、監督の中にある確固とした役柄のイメージをわたしたちが一つ一つ具体化していくような感じでした。今から思えば、朔太郎さんも節子も監督の分身だったような気がします。
Q:草なぎさんとの呼吸もピッタリでしたが、久々に現場でご一緒していかがでしたか?
草なぎさんは、わたしのことをちゃんと見てくださっているような安心感がある方なんです。相談に乗ってもらうということではなく、見守られているような感覚というか、言葉を交わさなくても、「大丈夫だよ、ちゃんと見ているから」という声が聞こえてくるような感じがするんですよね。今回も、すごく安心して夫婦を演じることができました。
いつも笑顔でいることが彼女の覚悟
Q:空想がちで不器用な朔太郎を一番の理解者として支え続け、闘病中も笑顔を絶やさなかった節子は、竹内さんが女性として共感を覚えるキャラクターでしたか?
節子は本当に器の大きな女性ですよね。わたしが節子の立場だったら、朔太郎さんの前でもっとゴネてしまうと思います(笑)。「いつも笑っていられるわけじゃないのよ!」「笑顔の裏には苦労があるんだからね!」って、心が荒れてしまうときがありそうです。ただ、節子は朔太郎さんが自分のために小説を書くと言い出したときから、自分の余命が長くないことがわかってしまうわけですよね。だからこそ、朔太郎さんの前でだけはいつも笑顔でいようとする。それが、節子にとっての覚悟だったんだと思います。
Q:朔太郎のような童心を持ったままの旦那様だと、楽しい反面、苦労することもあるような気がするのですが、竹内さんは朔太郎のような男性に魅力を感じますか?
んー……日常生活に支障をきたさないのであればいいかな。でも、節子にとってSF小説を書いている朔太郎さんは夢を見させてくれる人。人生のパートナーとして大切に思うと同時に、自分の子どものように見ている部分もあったのではないでしょうか。わたしも夢を持っている男性はステキだと思うし、童心を持つということも性別には関係なく大切なことだと思います。わたし自身も、「童心を飼いならせる大人」でありたいです。
Q:「童心を飼いならせる大人」……名言ですね!
やった(ガッツポーズ)! まあ、世の中を生きていくには多少なりとも大人にならなければいけないのだけど、子どものように発想したり楽しんだりする幼い自分を踏まえた上で、きちんと大人としての行動ができる人が理想的ですね。
相手のために「したい」ではなく「してほしい」ことをする覚悟
Q:節子のために毎日一編の短編小説を書き続けた朔太郎。もしも自分が朔太郎の立場だったら、相手のために毎日何をしたいですか?
わたしの家族が節子さんのようになってしまったとしたら、自分が「したい」ことではなく、相手が「してほしい」ことをしたいです。欲しいものがあったら買いに行くし、食べたいものがあるのなら作る。優先すべきは相手の限られた時間だと思うので、わたしが何かをすることでその人の不安や孤独感が少しでも和らぐのであれば、多少のわがままなら聞きます。例えば、「あれが食べたいから買ってきて!」と言われたとして、それを買ってきたのに「やっぱり別のがいい!」と言われたとしても、2往復くらいまでならOKですね。ただ、さすがに3回目はキレると思います(笑)。どんな状況にあったとしても、「人に対してそういう態度は良くない!」って怒っちゃうような気がします。何でも受け入れたいとは思うんですけど、やっぱり限界はありますよね。
Q:また、節子は朔太郎とどうしても行きたい場所がありましたが、竹内さんは生涯で一度は行ってみたい場所がありますか?
たくさんありますよ! オーロラも見たいし、マチュピチュの空中都市にも行きたいし……。あと、この間お仕事でカンボジアのアンコールワットに行ってすごく感動したので、世界遺産巡りもしたいです。ただ、エジプトはおなかを壊しちゃいそうなのでちょっと不安なんですけど……とにかく、行けるだけ行ってみたいです。それってちょっと欲張りなんですかね?(笑)
悪女役にも意欲!今後の竹内結子は?
Q:節子の生き方を通じて改めて感じたことや、何か影響されたことはありますか?
節子は朔太郎さんのためにずっと笑顔でいようとしましたけど、苦しいときでも笑顔になれるというのは強さだと思うんです。そこはステキだなと感じました。あと、自分の何かが終わるとわかったときにこそ、本当に大切なものがわかるような気がしたんです。だから、誰かに感謝の思いを伝えようとか、言っておきたいことはちゃんと言っておこうとか、いざとなって後悔しないように、常日頃から気付いていないといけないなって思いました。
Q:2011年の幕開けを本作で飾った竹内さん。今年はどんなことにチャレンジしてみたいですか?
今年は、役者として今まで見たことのないような世界を見てみたいです。これまでは、ほんわかとしたキャラクターをやらせていただくことが多かったんですけど、その中でも違うものを発見できたらいいなと思ってきたので、何か新しいことに挑戦できるといいですね。
Q:なるほど。例えば、悪女の役も意外とお似合いになるかもしれませんよね?
悪女にはすごく興味があります! どうせやるなら、相手を容赦なく攻撃する役がいいですね。観てくださる方に「ヒドイ!」って言われてみたい(笑)。ぜひとも演じてみたいので、関係者の皆様、オファーをお待ちしています!
思わず見とれてしまうほどあでやかなドレス姿で取材現場に登場し、「今日はクリスマス仕様なんで……」と照れたように笑う竹内は、少し話しただけでも人柄の良さが伝わってくる、とてもチャーミングな女性だ。彼女が同じく人柄の良さで知られる草なぎと夫婦を演じた本作は、2人の醸し出す温かくてほのぼのとした空気と、どこか幻想的な世界観が独特の魅力となっている。実話から生まれた感涙必至の物語を、朔太郎が愛する妻に贈った短編小説と共にしみじみ味わってもらいたい。
映画『僕と妻の1778の物語』は1月15日全国公開