映画『あしたのジョー』伊勢谷友介&香里奈 単独インタビュー
力石役のオファーが来たら、誰だって減量する!
取材・文:シネマトゥデイ 写真:吉岡希鼓斗
日本のボクシング界に多大な影響を与え、原作が生まれてから40年の時が過ぎてもなお、多くの人々に愛され続けているボクシング漫画「あしたのジョー」。この不朽の名作を、映画『ピンポン』などスタイリッシュな作風が高い評価を得る曽利文彦監督が、NEWSの山下智久を矢吹丈役に迎え、見事に映画化してみせた。そして、ジョーの宿命のライバル、力石徹役に抜てきされたのは、多方面で活躍を続ける、伊勢谷友介。撮影のために、ボクサーも驚くほどの過酷な減量に挑戦した伊勢谷と、ヒロインの白木葉子を演じた香里奈が、映画『あしたのジョー』について語った。
伊勢谷友介の壮絶過ぎる減量
Q:まさかCG!? と疑ってしまうほど、すごい肉体改造でした。減量についての具体的なリクエストは、監督からあったんですか?
伊勢谷:誰にも具体的なリクエストはされませんでした。でも誰だって減量すると思いますよ。だって、香里奈ちゃんも、もし自分に力石役のオファーが来たらやるでしょ?
香里奈:そうですね(笑)。やんなくちゃ……って思っちゃいますね、きっと。
伊勢谷:だから減量するのは、ごくごく自然な流れでした。
Q:この映画の減量シーンを見ると、女の子がやっているダイエットが本当に楽に思えちゃいますよね。香里奈さんも、ダイエットをされたことはありますか?
香里奈:ありますよ。この映画の撮影でも、ボクシングのトレーナーの方にダイエット法を聞いたりしていたんです。でも、どれだけダイエット方法を聞いても、続けなくちゃ意味がないじゃないですか。だから、現場で筋トレを頑張っている山下さんや伊勢谷さんを見ていると、自分の意志が本当に固かったら、絶対やせられるんだなって思いました。
伊勢谷:僕たちがやせていく姿を、近くで見ていたもんね。
香里奈:はい。しかもわたしの場合、毎日撮影が入っていたわけではなかったんです。行って、まとめて撮って、またちょっと空いてという感じで、だから現場に行くたびに、あ、またやせた……みたいな感じでしたね。
伊勢谷:周りのスタッフは、毎日一緒だから逆に気付かなかったりするんだよね。
香里奈:そうですよね。たまに会うから、体の変化にすごく気付いて、毎回すごいなって思っていました。
Q:だいたい何日間でどのくらいやせていったんですか?
伊勢谷:撮影に入る前は67キロだったんですけど、そこから一週間かけて、57キロまで落としました。最後の3日間で、一気にやせたのは覚えています。毎日レモンとキウイを1個だけ食べて、サウナに入っていたんですけど、そのままではぜんぜん眠れないんですよ、体が熱くなっちゃって。
Q:やはり大変だったんですね。丹下段平役の香川照之さんも、「あんな状態でよくボクシングできたな」と話していました。幻覚とかはなかったんでしょうか?
伊勢谷:なんか、ずっとしびれている感覚だったんですよね。しゅわしゅわしゅわ~って、しているんです。おかしく聞こえるかもしれないんですけど、でも本当、そんな感じです。車もあんまり運転しない方がいいよって言われていました。
美しい伊勢谷の顔がグチャっとつぶれた、迫力の試合シーン
Q:最後のクランクアップの前に、トレーナーの方から本気のパンチをいただいたって伺いました。「本気でやってください」ってご自身でおっしゃったんですよね。
伊勢谷:はい。でも僕は、まさかあんなに強くやるとは思っていなかったんですよ。
香里奈:そうだったんですか! スローモーションで、モロにパンチを顔面に受けるシーンですか? あの伊勢谷さん、顔がグチャってなっていましたよね?
伊勢谷:しかも2回もやられて(笑)。
Q:トレーナーの方の愛情ですね!
伊勢谷:ボクシングのトレーナーで梅津さんっていうんですけど、めちゃめちゃいい人で面白いんですよ! 撮影中に泣いたりして。
Q:いつ泣いてらしたんですか?
香里奈:力石徹のお葬式のシーンに、エキストラに混ざって出演されていたんです。そのとき、梅津さんが先に入っていて、わたしがセットに入ったときにはもうすっごい号泣で! 本当にお葬式にいらっしゃる方みたいな感じでした。わたしは、梅津さんの前にいたんで、その後は見られなかったんです。そしたら最後、モニターチェックで本当に俳優さんじゃないかってくらいに大泣きしていて……。
伊勢谷:芝居邪魔されたって思ったでしょ!
香里奈:それはないですが、役者やればいいのにって思いました(笑)。
香川照之は、つるつるの段平バージョンが普通!?
Q:丹下段平役の香川さんが出てきた瞬間、本当にそっくりでびっくりしました。お二人は初めて会ったとき、どんな印象を受けましたか?
伊勢谷:初めての印象はあまり覚えていないんですが、むしろ僕の中で香川さんといえば、あの段平の姿でした。
香里奈:それ、わかります! 今日、久しぶりにお会いしたんですけど、髪の毛があってなんか変でした(笑)。
伊勢谷:そうだね、つるつるの頭で、すごいハイテンションでしゃべりまくってる感じだよね。だから髪の毛があって、スーツを着ている香川さんって、妙にキザっぽく見えて。僕は、つるつるの香川さんの方が、話しやすかったな。かわいかったよね?
香里奈:だから、CMとか、ほかの映画で香川さんを見ても、ずっと違和感がありました。でも、あの特殊メイクは大変だったんですよ! 現場にも、2、3時間くらい前からいらっしゃっていて。メイクを落とすのも時間がかかるから、香川さんが先に終わっていたはずなのに、自分が終わって帰ろうと思っていたら、まだ腕の毛を取ったりしていました。
伊勢谷:香川さんはもう、お芝居をやる人としては完全なるモンスターですから、演技にかけるエネルギーも半端じゃないんです。しかも、香川さんは、ボクシングに心をささげている人。だから丹下段平は、香川さんしかできないし、すごく助けられましたね。香川さんがいなかったら、あのテンションは出ていないんじゃないかな。
伊勢谷と香里奈の“役者としてのあした”
Q:お二人の“役者としてのあした”について教えてください。
伊勢谷:僕の場合は、目標とかではなく、目の前にあることを、誠実に100%やっていく。そしてできないことはできないと言うようにしていきたいです。
香里奈:わたしは、ジョーの感じと似ているかもしれないんですけど、明日のために今日を頑張っていきたいですね。わたし、昔から夢をあんまり持たない方なので。
伊勢谷:やっぱりドライなんですね。
香里奈:違うんですよ! ノストラダムスを知ったのが小学校5年生だったんです。数えてみたら、世界の終わりは16歳で。16で人生終わっちゃうなんてどうしようかなって考えているうちにこの世界に入って、気付いたら26になっていたんです。だから大きな夢っていうよりは、目の前の目標を一つ一つ、ゲームじゃないけどクリアしていく感じですね。精いっぱい、全力でやっていけばその結果は、明日でも、明後日でも、一年後でも必ず出るはず。だから今日を大切に生きていきたいと思います!
周りのスタッフたちが、監督に「もうやめさせてくれ!」と懇願したほど、すさまじい減量をした伊勢谷。しかし、彼から「つらかった……」などという言葉は一度も出てこなかった。「役者として、当たり前だから」という言葉を繰り返す彼からは、プロの役者としてのプライドが、ひしひしと伝わってきた。そして、本気でぶつかっていく姿を間近で見守っていた香里奈もまた、伊勢谷の努力に応じるように演じているのがスクリーンから伝わってくる。これほどの名作を映画化した裏には、想像できないほどのプレッシャーがあったはず。それをエネルギーにして、スクリーンで“役”を生きた、俳優たちの本気を感じてほしい!
【香里奈】ヘアメイク:SHIO スタイリスト:渡邉恵子
(C) 2011 高森朝雄・ちばてつや / 「あしたのジョー」製作委員会
映画『あしたのジョー』は2月11日より全国公開