『英国王のスピーチ』コリン・ファース、ヘレナ・ボナム=カーター インタビュー
話ができないというだけで自分が自分でなくなる
取材・文:山口ゆかり
幼少時のつらい経験から吃音(きつおん)を抱えたまま大人になってしまった英国王ジョージ6世と、その治療にあたるライオネルの心温まるストーリー『英国王のスピーチ』。「目の保養になるようなシーンもない、中年男2人の友情物語。ヒットする要素がなく、なかなかプロダクションもつかなかったほど」と主演のコリン・ファースが明かす本作が世界を感動させ、映画賞を総なめにした。主人公の英国王ジョージ6世を演じたファース、その妻である王妃エリザベスを演じたヘレナ・ボナム=カーターに話を聞いた。
王室の日常はドラマチックに見える
Q:トム・フーパー監督から初めて本作の話があったときに、医者に診てもらっていたそうですね。
コリン・ファース:たいしたことではないんだ。定期的に診てもらっている医師にチェックしてもらっただけで、いわば仕事上のルーティーンみたいなものでね。たまたま、その日に監督から本作についての話があって、そして、今ここにこうしているというわけ(笑)。
Q:エリザベス女王から感謝状が届いたりしていませんか?
コリン・ファース:それはない(笑)。でも女王がご覧になって気に入られたと報じられているね。本当なら、とてもうれしいよ。実在の人物を演じる際は、傷つけたりすることがないよう気を配っているから。今回は、吃音(きつおん)を持つ人に対してもね。
Q:王室を扱った映画が多いのはなぜでしょう?
コリン・ファース:日常生活で起こっていることでも、ドラマチックに見えるということではないかな。ジョージ6世も、内側に知性やエレガンスを秘めていてもそれが出せない。話せないということで、バカ者のように扱われてしまう。自分で思ったように話せないことでアイデンティティーまで誤解されてしまうんだ。本当の自分を知ってもらえない。吃音ということでなくても例えば僕だって、言葉が通じないような外国では冗談も言えない。言いたいことを言うのではなく、言えることだけを言う。もう、それはいつもの自分ではない。話せないことで自分ではなくなってしまう。そういうことは誰にでも起こることだと思う。
華々しい兄弟の陰にいたジョージ6世
Q:ご自身はスピーチが得意ですか?
コリン・ファース:だめだよ(笑)。スピーチが好きだなんていう人は、ごくごくわずかしかいないんじゃないかな。アメリカだったと思うけど、恐怖心についてのアンケート調査があってね。人前でスピーチすることへの恐怖は、死ぬことよりも高かったくらいだよ。ということは、「葬式では弔辞を述べるよりは棺おけの中にいる方を、みんなが選ぶってことだな」って言っていた人もいたよ(笑)。
Q:吃音を演じることはいかがでしたか?
コリン・ファース:誤解されないように演じる必要があった。吃音のためクラスで手を挙げることができないとか友だちと遊べないような子どもにまで影響を与えてしまうから。チャーチルにしても兄のエドワード8世にしても、華々しくドラマ化されるような人物だ。同時代のそういう人たちの陰に隠れてしまい、当時を生きた人しか覚えていなかったような真面目で控えめなジョージ6世にスポットをあてることができてよかった。
赤の女王から本物の王妃までの幅広い演技
Q:赤の女王(『アリス・イン・ワンダーランド』)から本物の王妃への変身ですね?
ヘレナ・ボナム=カーター:赤の女王は早い時間の撮影が多くて大変だったの。朝はあまり声が出ないのに、毎朝「オフ・ウィズ・ヨア・ヘーッド!」なんて叫んでいるような役だったから。クイーン・マザー(エリザベス王妃の後年の通称)は、実際にかわいくてチャーミングな方なのよ。ジン・アンド・トニックがお好きでね。でも柔らかい外面と違って、内面は強い方だと思うわ。そうでなければ、あんなに長く公の顔として人気を保てないもの。
Q:クラッシックな衣装がすてきですね。いかがでしたか?
ヘレナ・ボナム=カーター:今、着けている、このネックレスは映画で使ったものを気に入って着けているのよ。すごくゴージャスな衣装ではなかったけど、クイーン・マザーは肩のあたりにファーを多く使ったりして、ちょっと衣装で武装しているようなところがあったのじゃないかしら。背があまり高くない方だから、本当はそういうのはあまり合わないのだけど。
Q:もしあなたが女王の座についたら、何をしますか?
ヘレナ・ボナム=カーター:そうねえ、まずは休日を増やすわ。音楽とダンスのパーティーを開くの。それとホームレスの人を助けるようなこともする。それから……ええと……朝はあんまり頭も働かないの(笑)。でも、王室の方々は、実際にはものすごいスケジュールなのよ。ゆったりジン・アンド・トニックなんて楽しんでいられないほど。膨大な量のチャリティー活動もされているし。
子どもが優先
Q:幅広い役を演じていますね。違った役を選ぶようにしているのですか?
ヘレナ・ボナム=カーター:基本的には、話がきた中から選ぶわけだけどね。あと、撮影が子どもの学期中でないものを選ぶようにしているわ。
Q:次の役は?
ヘレナ・ボナム=カーター:まだ何も決まっていないの。とりあえず、今月をサバイバルするだけ。もちろん、子どもたちの行事はいろいろあるけど。子どもは、いつでもいろいろあるから。
このところ立て続けに秀作、話題作で楽しませてくれるコリン・ファース、ヘレナ・ボナム=カーターとも、今、乗りに乗っている俳優と言って間違いないだろう。その2人のジョージ6世、エリザベス王妃への思いが伝わってくるようなインタビューから、本作が成功した理由の一端がつかめたように思う。2人の演技からもそれがうかがえる本作をぜひ、自分の目で確かめてほしい。
写真:(C) Steve Carty, (C) Armando Gallo / Retna / amanaimages
場面写真:(C) 2010 See-Saw Films. All rights reserved.
『英国王のスピーチ』は2月26日より全国公開