『SOMEWHERE』ソフィア・コッポラ監督 単独インタビュー
父がわたしの人生に大きく影響しているのは間違いない
取材・文:シネマトゥデイ 写真:吉岡希鼓斗
悲劇の王妃マリー・アントワネットの激動の人生を、ロック&ポップな映像で描いた異色作『マリー・アントワネット』から4年。ソフィア・コッポラ監督の最新作『SOMEWHERE』は、ハリウッドに実在するシャトー・マーモントホテルを舞台に、自堕落な生活を送るハリウッド俳優ジョニー・マルコと娘クレオのひと夏を描く。第67回ヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞に輝いた本作がどのように誕生したのか。また、父親でもあるフランシス・フォード・コッポラ監督から受けた影響について、ソフィア監督が語った。
キャラクターに集中して描いた『SOMEWHERE』
Q:この映画のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
『マリー・アントワネット』を撮影したあとで、あの作品はすごくガーリーだったから、今度はちょっとイメージを変えて主人公を男性にしたのがきっかけね。かといって、男性目線だけで描いたわけでもなく、彼の娘もメインキャラクターとして登場するの。大人になりたいって年ごろの微妙な女心も描きたかったのよ。
Q:あなたの言う通り、豪華絢爛(けんらん)な『マリー・アントワネット』の世界とは打って変わって、とてもシンプルなスタイルでした。撮影はいかがでしたか?
『マリー・アントワネット』のときは、ものすごく大勢のスタッフがいて、衣装もゴージャスでとにかく大きなプロジェクトだった。でも、この映画はたった2人のキャラクターに集中して描くことができたから良かった。ロケも自分がよく知っているロサンゼルスだったし、リラックスしながら撮影できたわ。
Q:この映画は、娘さんが生まれてから初めての作品ですよね。何か変化はありましたか?
撮影中もよく現場に連れていっていたわ。というのも、撮影が始まると朝も早いし、外に出ている時間が長くて娘と一緒に過ごすことができないから。現場に連れていけば一緒にいられるし、今回みたいに小さな撮影隊で良かったって思うわ。この映画のあとに2人目の子どもが生まれたんだけど、今はゆっくりした時間を子どもたちと過ごしているわ。
Q:2番目の娘さんはコジマっていう名前なんですよね?
そう! わたしとボーイフレンドで相談して決めたのよ。日本人の名字にもあるのよね。すごく面白いんだけど、コジマはもともとイタリア系の名前で「宇宙」という意味を持つの。
自分が観たい映画を脚本に反映
Q:ハリウッドでも小説などを原作に映画化することが多いですが、あなたはゼロから脚本を作り上げていきますね。ライティングプロセスを教えてください。
まず最初に、自分がどんな映画を観たいかを一番に考えるの。
Q:ハリウッドのカリスマ的なホテルでもあるシャトー・マーモントを舞台に選んだのは、どこに惹(ひ)かれたからでしょうか?
シャトー・マーモントは、もともとわたしのお気に入りのホテルだったの。父が撮影現場に連れていってくれたときの話なんだけど、みんな現場近くのホテルに泊まって生活していたの。そのときの思い出を描くのに、シャトーはすごくLAっぽくて、ぴったりのロケーションだったわ。
最高の演技を見せたスティーヴン・ドーフとエル・ファニング
Q:スティーヴン・ドーフとエル・ファニングは最高の演技を見せてくれましたね。
本当にそうね。エルは最高にスイートな女の子よ。一緒に東京に連れてきたかった! 彼女はすごく頭が良くて、こちらが見たいと思っている演技をそのとおりにしてくれるから。スティーヴンは、若手のころから注目している俳優だった。彼はもう若手俳優ではなくなって、これからさらにステップアップしていくところだったから、パーフェクトなタイミングだったわ。
Q:スティーヴンとエルは現場でも仲良しだったんですか?
男の人にとって、あの年ごろの女の子と話すのは緊張しちゃうと思うんだけど、スティーヴンには年の離れた妹さんがいるそうで、リラックスしていたわ。すごく優しくて面倒見のいい人だから、いつもエルに話しかけて、2人はとても仲が良かったの。
Q:演出に一番苦労したシーンはどこでしたか?
車の中で会話するシーンは、脚本を書いているときに想像していたより、はるかに大変だったわ。車が揺れるし、音もうるさいし狭いし、撮影があんなに難しいと思わなかった。
Q:逆に、一番楽しめたシーンはどこですか?
わたしのお気に入りのシーンでもある、プールのシーンね。お天気もすごく良くて、朝から気持ちのいい日だったから覚えているの。
名監督で父でもあるフランシス・フォード・コッポラへの思い
Q:お父様のフランシス・フォード・コッポラ監督は現場にいらしたんですか?
1回だけ来たわ。父はわたしにアドバイスをしたりしないの。いつも、自分の撮りたいように撮りなさいって、励ましてくれているわ。
Q:この映画は、ハリウッドのセレブリティーである父と娘の関係を描いた物語ですが、あなたの記憶を基に作られたシーンはありますか?
全部というわけではないけど、いくつかはそうね。自分の子ども時代の思い出をたどると、父がわたしたちをフィルムフェスティバルや授賞式、ラスベガスのカジノに連れていってくれたり、この映画に出てくるようなことと同じような体験をしたわ。すごくエキサイティングで、楽しかった。映画のジョニーみたいにピアノを弾いたりはしなかったけどね。
Q:ジョニーのモデルは、お父さんとは別にいたんですか?
彼のモデルは一人じゃないの。わたしの周りにいるいろんな人から聞いたエピソードにインスパイアされて生まれたのよ。一番のスタートは彼の名前だったわね。ジョニー・マルコって何だかムービースターでいそうな名前でしょ。
Q:もし、あなたのお父さんがフィルムメーカーではない、普通のサラリーマンだったとしたら、この作品はどんな映画になっていたと思いますか?
父がフィルムメーカーだったことが、わたしの人生に大きく影響しているのは間違いないわ。父親が監督でも、まったく関係のない世界で働いている人もいると思うけれど、わたしの場合は、父親の影響をすごく受けた。映画の作り方はほとんど父から学んだし。ハリウッドは、女性監督にとってタフな業界だけど、そこで自由に作品が撮れているのも父がたくさんの人たちに愛されているおかげだと思っているから。もし父が映画監督でなかったら、きっとここにわたしはいないと思う。映画を作ることに興味すら示さなかったかもしれないわ。
父の影響で幼少のころから女優として映画界に入ったソフィアが、こんなにも素晴らしい才能を父と同じ「監督」という分野で発揮すると、いったい誰が予想しただろう。若く美しい思春期の姉妹が自殺を図るという衝撃的なテーマに挑んだ映画『ヴァージン・スーサイズ』で監督デビューして以来、独自の作品を撮り続けてきたソフィアがただの七光りではなく、本物の実力を持った監督であることを本作は証明している。すべてが美しく、キラキラときらめいているソフィア・コッポラの世界をぜひ、その目で確かめてもらいたい。
(C) 2010 - Somewhere LLC
映画『SOMEWHERE』は4月2日より全国公開