映画『スーパーエイト』S・スピルバーグ、J・J・エイブラムス、エル・ファニング単独インタビュー
子ども時代をもう一度振り返ってみようという気持ちで始めた
取材・文: 鴇田崇 構成:シネマトゥデイ編集部
スティーヴン・スピルバーグと、「LOST」のJ・J・エイブラムスが初めてタッグを組んだSFエンターテインメント『SUPER 8/スーパーエイト』。徹底した秘密主義を貫き、全ぼうは長らく謎のままだったが、製作のスピルバーグとエイブラムス監督、そしてヒロインを務めたエル・ファニングが、全米で『E.T.』の再来とまでいわれた本作の魅力について語った。
新しいけれど懐かしい映画
Q:本作がJ・J・.エイブラムス監督との初タッグとなりますね。まずはそのことから聞かせてください。
スティーヴン・スピルバーグ(以下、スピルバーグ):J・Jとは、一緒に仕事をする機会をずっと探していた。僕らは友人として、自分たちが観たい映画や撮ってみたい映画について話し合ったんだ。そんなときにふと、子どものころ、近所の友達と一緒に短い映画をいくつも撮った話をJ・Jに聞かせた。すると彼も同じ経験をしていた。そこで1970年代を舞台に、映画を撮る子どもたちが主役の映画を作ったら面白いんじゃないかと思ったんだ。
Q:具体的な企画はどちらから持ち掛けたのですか?
スピルバーグ:J・Jが「8ミリ映画を撮る子どもたちと、王道ともいえるアイデアを融合させるのはどうか」と言ってきた。子どもたちが映画を撮っていると、何かがフィルムに映っている。それがすべての謎を解き明かしていくという物語だね。最初は2人とも明確なイメージはなかったんだけれど、きっと面白くなると確信した。1970年代の映画製作を懐かしむ映画ではなく、その先の何かがある映画ができると思ったんだ。
Q:一緒に映画を作ってみて、J・Jにはどのような印象を受けましたか?
スピルバーグ:J・Jはまさに世代間の懸け橋だ。昔の映画と今の映画のあり方、そして現代の子どもたちに関心を抱いている。子どもたちと同じ視点を持ちながら、自分が子どものころに観ていた映画にも敬意を払うことができるんだね。そしてほかの監督と最も違うのは、J・Jが技術的に熟練しているという点だ。まるで30年仕事をしてきたベテラン監督のようだよ。カメラの構図や照明、物語を面白く伝えるセンスには舌を巻くね。最も偉大な語り部の一人といってもいい。
Q:一言で表すと、本作はどんな映画ですか?
スピルバーグ:本作はSFというジャンルと普遍的な子どもらしさを見事に融合している。それこそが、J・Jの持つ独特なテイストだと思う。彼は子ども向けの物語も書けるし、自分自身の思い出や経験を映画作りに生かすこともできる。時代設定は1970年代だけど、今の人が観ても共感できるような作品になっている。つまり、すごく伝統的な映画ということだよ。
新しい『E.T.』や『グーニーズ』の完成
Q:今回、改めて完成した映画を観た印象はいかがでしたか?
エル・ファニング(以下、エル):J・Jのオフィスで共演の男の子たちと一緒に観たんだけど、とても興奮したわ。特に列車事故のシーンは、目の前に何もない状態で想像しながら演技をしていたから、本当に驚いて楽しんだの!
Q:本作はスピルバーグ作品、とりわけ『E.T.』に近い感動作だと思いますが、いがかですか?
エル:わたしも『E.T.』に似ていると思ったわ。この映画は『E.T.』や『グーニーズ』に対するJ・Jなりのオマージュであると同時に、わたしたちの時代、今の子どもたちにとっての新しい『E.T.』や『グーニーズ』になり得る作品じゃないかしら。
Q:本作を観客にどのように観てほしいですか?
エル:予告編にはアクションシーンが多いので、そういうジャンルを連想する人たちが多いと思う。けれど実際は、この映画は初恋や家族のドラマ、愛情や友情といった感情を描いている作品なの。観てもらえればわかるけど、それらの感情がとても強いきずなへ変わっていく。大規模な列車事故を経験した6人の少年少女が、一生涯の友人関係を築いていくのよ。
映画少年だったころに戻ってみたかった
Q:完全秘密主義を貫いていた本作ですが、どういう狙いがあったのですか?
J・J・エイブラムス(以下、J・J):何もかも秘密にしておきたいわけではなく、映画を観に行く楽しみを台無しにしたくないということだね。映画を全部観た気にさせる予告編があるけれど、僕は1970年代と同じように映画を扱うことが重要だと思った。当時の映画にはサプライズがあったんだ。テレビや雑誌、ネットであらかじめすべてを知ってしまうことはなかったからね。僕は観客の好奇心をそそりながらも、映画のすべてを観た気にはさせたくなかった。
Q:本作からは『E.T.』をはじめとする監督が子ども時代に観たであろう映画への強い思いを感じました。
J・J:とにかく、僕の子ども時代をもう一度振り返ってみようという気持ちで始めた企画なんだ。当時影響を受けていたのは、スピルバーグやジョン・カーペンター、デヴィッド・クローネンバーグといった監督の作品で、そういう時代全体をほうふつさせるような機会を今回は得た。結果的には僕が少年時代にあこがれていた作品に対するお礼のような作品になっていると思うよ。
Q:監督は、実際にはどのような少年時代を過ごしていたのですか?
J・J:映画の中の少年たちと同じように、スーパー8カメラで映画を撮っていたよ。当時は携帯電話で映像が撮れるような高度なテクノロジーはなかったから、スーパー8カメラで映画作りをしている連中は、ちょっとおかしなヤツらというように周りから変な目で見られていたけどね(笑)。
テーマは「セカンド・チャンス」(※以下、本作の結末に触れている個所があります)
Q:登場するクリーチャーは街の破壊者でありながら、ほかの重要な役割も担っていますね。
J・J:単に街を破壊するクリーチャーにはしたくなかった。つまり、本作におけるクリーチャーはメタファーで、ジョエル・コートニーが演じている主人公の葛藤(かっとう)や痛みを象徴している。だからクリーチャーには少年の葛藤(かっとう)を物理的に体現させる必要があったんだ。僕はこの世のものではないクリーチャーが出てくるストーリーが大好きだけれど、ストーリーにとって意味のあるクリーチャーでなければならない。今回も作品のテーマと結び付いていると思うよ。
Q:スカイプ会見で監督がおっしゃっていた「人生にはセカンド・チャンスがある」という言葉の意味が、見終わってとてもよく理解できました。このテーマは、今の日本人にとっても、とても力強いメッセージとして響くと思います。
J・J:僕の映画と比較することは無謀かもしれないけれど、とても悲劇的なことが日本で起きた。僕としては、震災のような恐ろしいまでに悲劇的、信じられないような事態が起きたときも、人間にはすごい力が秘められていて、自分では無理だと思っていても、その困難を乗り越えて、より強くなれることがあると思っている。だから僕は、日本は今の状況から必ず立ち直れるとも信じている。「セカンド・チャンス」というのは今の日本にすごく関連のあるメッセージだと思うけれど、同時にとても普遍的な問いかけだ。だから本作については、娯楽映画として気楽に楽しんでほしいね。
スティーヴン・スピルバーグ、J・J・エイブラムス監督、エル・ファニングの3人が口をそろえて言ったのは、本作は、1970~80年代に誰もが興奮したSF映画やアドベンチャー映画の数々を、そのエッセンスはそのままに現代によみがえらせた作品であるということ。くしくも「セカンド・チャンス」という本作のテーマは現在の日本人が置かれた状況に重なるが、その偶然を心のどこかで意識しながらも、まずはスピルバーグ映画の精神を受け継いだ本作を純粋に楽しんでもらいたい。
(C) 2011 PARAMOUNT PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
映画『SUPER 8/スーパーエイト』は6月24日より全国公開