映画『ツリー・オブ・ライフ』ブラッド・ピット単独インタビュー
僕たちは永遠じゃない、だから今を大切にするべきなんだ
文・構成 シネマトゥデイ
人生の岐路に立った実業家が回想する、厳格な父親と優しい母、2人の兄弟と過ごした1950年代の日々を通して、過去から未来へ受け継がれる生命の連鎖を描き、人生の意味を問う壮大な叙事詩『ツリー・オブ・ライフ』。伝説の映像作家テレンス・マリック監督がメガホンを取り、第64回カンヌ国際映画祭では最高賞のパルムドールに輝いた。子どもたちを厳しく教育する父親を熱演し、本作を完成させるため、製作も務めたブラッド・ピットが作品に込められたメッセージを語った。
最高にハッピーだったパルムドール受賞!
Q:本作ではパルムドールを受賞されていますが、そのときの率直な感想をお願いします。受賞の知らせはどこで聞きましたか?
実は、(アンジェリーナ・ジョリー出演の)『カンフー・パンダ2』のプレミアに行く途中だったんだ。聞いたときは……とてもハッピーな気分だったよ。作品にかかわったすべての人のことや、テリー(テレンス・マリック監督)を思って、とてもハッピーだった。そして、(プロデューサーの1人の)ビル・ポーラッド、この映画に投資してくれた彼のことも思ったね。彼がいなければ、この映画はできていなかったんだ。
Q:受賞に関して、テレンス・マリック監督は何とおっしゃるでしょう。
彼はシャイな人だから、こんなに注目されていることに対して、とても照れていると思うよ(笑)。
プロデューサー、俳優として挑戦的な映画をサポート!
Q:この作品に参加した理由として、自分が参加しないとこの作品が消えてしまうと考えたと話されていましたが?
僕が参加しなければ、間違いなく作られなかったかはわからない。僕が知っているのはただ、今の映画界で、こういった種類の映画を作るのは、とても挑戦的だということ。出資者を見つけるのは、最も大変なことだということだよ。プロデューサーとして資金面を助け、確実に作品が日の目を見られるようにすることが、僕らの仕事だった。
Q:製作だけでなく、役者として参加することは、最初から決めていたのですか?
もともと僕が演じた役は、ほかの役者がやるはずだったんだけど、家庭の事情があって、降板しないといけなくなった。ほかの役者を探そうとしなかったわけじゃなかった。この役をやれた俳優は、もちろんほかにもいたと思う。でも……それでまた、映画製作が不確かな状態になってしまったこともあって、テリーと話し合った結果、僕がやることにしようと決めたんだ。
Q:昔からマリック監督と仕事をしたいと思っていたんですか?
そうだよ。すごくね。初めて『地獄の逃避行』を観たときから、僕は熱烈なテレンス・マリックファンなんだ。
作り物はナシ!マリック監督の作り出す自然な撮影現場
Q:3人の子役たちは素晴らしかったです。本作であなたは、厳しい父親を演じていて、彼らにつらく当たるシーンも多かったですが、そういった演技をするのは大変でしたか?
確かに気を付けないといけなかった。なぜなら、少年たちを扱っているわけだし。(つらく当たったりすることは)今後の人生に影響を与えることになりうる。だから、撮影の合間には遊び時間をたくさん持つようにしたんだ。皆でボールを投げ合ったり、自転車に乗ったり、ブランコに乗ったりね。一方で、彼らに僕が時々かんしゃくを起こすこと、そしてそのかんしゃくが、いつ起こるのかまったくわからないと思わせることも、演技をする上で重要だった。とてもデリケートなバランスだったよ。でも、僕たちはとてもうまくできたと思う。撮影が終わったとき、僕らはお互いのことが大好きになっていたからね。これは、テリーが作り出す撮影環境が、どういうものかということの証なんだ。
Q:マリック監督の撮影現場とは、どういうものだったのですか?
普通の撮影現場にあるトラックや照明のような、作り物だと感じさせるようなものが一切ないんだ。スタッフみんなが、現場の近所にある本物の家で働いていた。子どもたちは自分の衣装をいくつか与えられて、その日に着たいと思う服を選んで着ていた。それほどシンプルな現場だったんだ。だから撮影も、彼らの日常のようなものだったよ。遊び時間も実際たくさんあった。もちろん学校もね。そして、その最中にときどきカメラが回るんだ(笑)。カメラは彼らにとって、一番の邪魔者だったと思うよ。彼らはとても自由に演じていたからね。
人生のはかなさに気付かせてくれる作品
Q:完成した作品を観たとき、あなたの心を最も強く揺さぶったポイントはどこですか?
この映画は、宇宙の誕生と並べてみると、僕たち個人の存在がいかに取るに足りないものか、ということを語っている。マイクロ(小さなもの)とマクロ(大きなもの)の並列だね。同時に、宇宙にはものすごい、未知のパワーがある。その相関関係からすると、これらのマイクロな出来事(家族の物語)にもすごいパワーがあって、そのパワーは、僕らがどういう大人になるかを形作っていくと語っているんだ。子どもたちにフォーカスすることで、そのテーマが、とても美しく描かれていると思ったよ。
Q:生と死、家族といったテーマを持つ作品だということで、この映画を製作している間、そういったことをよく考えたりしましたか?
そうだね。この映画は、僕たちの人生のはかなさというものにすごく気付かせてくれる。僕たちはここに永遠にいるわけじゃないし、僕たちが愛する人たちもそうだということをね。だから、今を大切にするべきなんだよ。
現場で起きるマジックを大事にしたい!後はあるがままに
Q:あなたの演技は本当に素晴らしく、すでにアカデミー賞候補のうわさが出ていますが、オスカーについてはどう思われますか?
あまり話せることはないよ。そういうことは、もし起きればとても素晴らしい。でも、時としてその栄誉に値する以上に評価されることもあれば、十分に評価されないこともある。そして時々は、ちょうど適切に評価されるというだけさ。だから、それは僕が気にしていることじゃないよ。それよりは、映画を作ることだけに集中し、あとはなるがままにしておきたいね。
Q:役者として、人として、この映画に参加したことで、何かを学んだと思いますか?
そうだね。多分、人生のプロセスについて、そしてどのように仕事にアプローチするかということについて、よく学べたと思う。すべてを技術的に正しくやっても、まったく駄目な結果を得ることもあるんだとね。あらかじめ考えたことというのは、撮影日にたまたま起きた出来事みたいには、決してうまくいかないものなんだ。だから、すべてをコントロールしようとせずに、撮影でたまたま起きることを信頼すべきだね。
3人の息子役にはプロではない子どもを起用し、兄弟という設定意外は教えずに撮影されたという本作。映画作りの根本に戻った、現場を大切にする撮影には、ブラッドも大きく影響を受けた様子。その発言からは、少年のように無垢(むく)な気持ちでそそぐ、映画作りへの情熱が感じ取れた。私生活での父親の顔とはまったく違うであろう形で、家族に愛情を向ける厳格な父親像を、複雑な感情表現で演じた彼の演技には、アカデミー賞の声が上がるのも納得。俳優として、製作者として、そして人としてさらなる成長を遂げたブラッドの姿を、ぜひスクリーンで確認してほしい。
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映画『ツリー・オブ・ライフ』は8月12日より全国ロードーショー