映画『神様のカルテ』宮崎あおい&加賀まりこ 単独インタビュー
きっとどこかに一止先生みたいな医師はいる
取材・文:鴇田崇 写真:高野広美
現役医師・夏川草介のデビュー小説を映画化し、地方医療の現実に立ち向かう青年内科医・栗原一止の成長を描いた映画『神様のカルテ』。『60歳のラブレター』などで知られる俊英・深川栄洋監督のメガホンで映画化された本作は、櫻井翔と宮崎あおいの初共演でも話題を呼んでいる。夫の一止を温かい優しさで支える妻・榛名役の宮崎と、大学病院で見放され一止を頼る末期ガン患者・安曇雪乃役の加賀まりこが、本作に流れるテーマや初共演の感想から、女優という仕事についてまで、さまざまな話題で語り合った。
彼が現実にいたらどれほど救われるか
Q:最初にストーリーを読まれたときの感想を聞かせてください。
宮崎あおい(以下、宮崎 ※「崎」は正式には旧字。「大」が「立」になります):物語を読みながら榛名という女性に惹(ひ)かれていきました。物語全体の感想に至る前に、この女性を魅力的に演じることができたら楽しいだろうなあと思い、わくわくしましたね。
加賀まりこ(以下、加賀):わたしは、現実の世界に一止先生のような人がいたら、どれほど救われるだろうと思いました。わたし自身、宮崎さんよりもはるかに死に近いと思うので、これからは医者と巡り合う運みたいなものが大事になってくるのではないかと(笑)。だから、地味な医療に携わる若い人がいるということ自体が、すごく新鮮なことでしたね。
Q:加賀さんは原作をお読みになっていたそうですね。
加賀:はい。偶然ですけれど。本物のお医者様が書いたということにとても惹(ひ)かれて、手に取ったんですね。そのときは映画化のお話もなく、まさか安曇さん役がわたしに降ってくるとは、夢にも思わず読んでいました。
気が付くと櫻井を目で追っていた加賀……これって恋なの!?
Q:一止と榛名は理想の夫婦ともいわれているようですが、演じてみていかがでしたか?
宮崎:そうだと思います。もっと人間くさい夫婦もいいなあと思いますが、お互いを思いやる素晴らしい夫婦だし、2人のような夫婦がいたら周りも穏やかでいられると思います。
加賀:あれだけ懐の深い奥さんはなかなかいないよねえ。普通はもっと早く帰って来いとかいう話にもなるでしょう(笑)。
宮崎:ハルさんは、男性が理想とする女性像ですよね。
Q:深川監督は独特の演出法を用いるという話を聞きますが、どのようなスタイルですか?
宮崎:すごく近くに寄って、小声で演出を伝えてくださるんです。例えば、監督がわたしに「櫻井君の手をちょっと握ってください」とおっしゃったとき、それが櫻井君に聞こえていないので、とてもリアルなお芝居ができて。それは心地よかったですね。
加賀:撮影現場では、「チャキチャキ江戸っ子の加賀さんが出ないように、ちょっと回転数を落としてください」と何度か言われました(笑)。でも、自分でもわからないけれど、限られた命なはずの安曇さんでいる時間というのは、とても幸せで、気分がずっと穏やかでした。自然に櫻井さんを目で追っているのよね。恋という表現は違うのかもしれないけれど、信頼し切っている人に自分自身を委ねているという感じで、子どものように彼を追い求めていましたね。
Q:その“恋”という感情は、加賀さん個人の感情から生まれたものですか?
加賀:いえ。安曇さんとしてね。ただ、ふと気が付くと櫻井さんを捜している、目で追っている。それは一止先生のことですが、櫻井さんはうっとうしかったでしょうけれどね(笑)。
寄り添ってくれる人がいなければ、女優だって壊れてしまう
Q:お二人は今回が初共演ということですが、どのような印象をお受けになりましたか?
宮崎:実は加賀さんが出演された映画『月曜日のユカ』が、10代のころから大好きだったんです。だから今回、こうしてご一緒できたことはとてもうれしかったです。
加賀:それは光栄です。宮崎さんは、存在感がくっきりしていらっしゃって、お芝居にも幅があるという印象でした。わたしの中で、くっきりとした存在感をお持ちの方ってなかなかいらっしゃらないんです。だから、ずっとくっきりとしていてほしいですね。
Q:加賀さんのようにずっとくっきりとしてい続けられるような秘けつなども知りたいですね。
宮崎:知りたいです。お若いころから活躍されていて、(女優という仕事が)今までに嫌になったことなどないですか?
加賀:もちろんあります。20歳ぐらいのころ、ちょうど『月曜日のユカ』を撮った後ぐらい。マスコミ文化、週刊誌文化みたいなものが出てきた時代で、本人の知らないところでいろいろなことが取りざたされることにうんざりしていたの(笑)。それで、一度辞めてみたりもしたのね。
宮崎:しばらく離れていたということですか?
加賀:そうなの。でも、結局戻るきっかけがあって、半年ぐらいで呼び戻されちゃった。
Q:当時を振り返って、辞めなくてよかったと思いますか?
加賀:そうですね、好きになれたから。今は、体力的にも気力的にも、演じるということにエネルギーを費やせる時間がだんだん短くなっていることを感じていますが、1年のうち半分くらいは働いていたいと思っています。その中でこういういい作品に出会えることは、とてもうれしいことなんですね。
宮崎:わたしは、お芝居以外の部分でどうにもならないことがあるというか、すごくたくさんのことを得ている分、失うものも同じようにあるということを感じています。それを考え始めるとつらくなってしまうので、なるべく考えないように、いい部分だけを見て過ごしていけたらいいなあと思うんですけど、やっぱり傷つくことは少なからずありますよね。
加賀:わたしたちだって生身の人間だから、一止先生にとってのハルさんじゃないけれど、寄り添ってくれる人がいつもそばにいるとか、そういうことがないと壊れちゃうのよ。
この映画が誰かの力になれば
Q:本作は、一止と榛名の夫婦愛をはじめ、人のきずなや人間の在り方などについて深く考えさせられる作品ですが、出演を経てお二人の心に残ったものは何でしょうか?
宮崎:この夫婦って、一見すると、イチさんがハルさんに支えられているように見えるじゃないですか。でも、ハルさんはイチさんに必要としてもらうことで、自分の居場所を見つけているんですよね。つまり、ハルさんもイチさんに支えられて、2人は成り立っているんです。そのことに気付けたことが、強く印象に残っています。
加賀:やっぱり生きるってことですね。死ぬまで生きるということ。安曇さんのように生きて死ねたら……と思います。現実に安曇さんのような目に遭っている人がいっぱいいると思うの。そういう方たちに希望を持っていただいて、いいお医者さんに出会ってほしいな。一止先生みたいな方がきっとどこかにいらっしゃるはずだから。
宮崎:この映画に出てくる人たちって、皆不器用だけれど、一つのことに対して一生懸命で、人の何倍も考えているような気がするんですよね。本当にいろいろなことがある世の中ですが、一生懸命に生きようとしている姿がキラキラしている『神様のカルテ』の登場人物たちを見て、ちょっと背中を押されたり、前向きになったり、誰かの力になってもらえたらいいなあと思っています。
本作で初共演を果たした宮崎と加賀。あこがれの人だった加賀に対面した宮崎は、加賀の称賛に感激しつつも、加賀が歩いてきた道に真摯(しんし)に聞き入る姿が印象的だった。一方、加賀はあふれ出る榛名の優しさは宮崎特有の個性にあると考え、加賀自身は安曇という末期がん患者として過ごした時間が幸福なものだったと回想していたが、裏を返せば彼女たちは素顔の人間性を役柄に投影させて本作に挑み、キャラクターに新たな命を与えていたことになる。まさしく「生身」の人間が役柄に寄り添うことで生み出されていく温かいストーリーが、本作の中にはあるのだ。小説とは違う感動を、映画版でもかみしめてほしい。
(C) 2011「神様のカルテ」製作委員会
【宮崎あおい】ワンピース:ブランドニュース、ネックレス:H.P.FRANCE(本社)
映画『神様のカルテ』は8月27日全国公開