『1911』ジャッキー・チェン 単独インタビュー
日本を好きなのは、日本の人たちが僕を愛してくれたから!
取材・文:斉藤博昭 写真:吉岡希鼓斗
ジャッキー・チェンの記念すべき出演100作目が完成した。中国の歴史を変えた「辛亥革命」を描いた『1911』は、激動の時代を生きた人々の運命が、壮絶なアクションと共に展開される超大作だ。ジャッキーは作品の総監督を務めながら、革命の勇士である黄興を熱演している。この100作目となった作品への強い思い、これまで積み上げてきたキャリア、そして日本に対する愛をジャッキーが熱く語った。
歴史の事実に自分の得意技を交え、アクションを演出
Q:黄興は実在の人物ですが、どのように役づくりをしたのでしょう?
黄興は軍事家であり、文学の素養もある知識人。自分の国や民族のための強い志がある。そういう人は、どんなパーソナリティーをもっているのかを考えながら演じたよ。軽いノリで「ハロー! ハロー!」なんて話す男とは違う(笑)。常に何かを考え、重みのある人物だと意識して、役づくりをしていったんだ。
Q:黄興が若者たちを指揮して壮絶な戦闘に向かうシーンは、胸が締め付けられます。
この映画が描く戦いでは、数千人もの死者が出たという記録が残っている。もし黄興が立ち上がらなければ、若い命を犠牲にしなくても済んだのさ。彼らは最年長でも24歳で、若い戦士は16歳くらいだった。本当につらい決断だよ。そんなことが撮影中、常に頭を駆け巡っていた。でも黄興は、周りで人が死んでいっても決して涙を流さない。自分一人になったとき、泣いてしまうんだ。
Q:そんな黄興役ですが、ジャッキー作品らしいアクションも用意されていますね。
世界のファンに向けて入れたんだよ。確かに実際の黄興が、絶対にやってないようなアクションが出てくるよね。少なくとも彼はハイジャンプして空中で3回転はできなかったはずだ(笑)。こんな動きもね。ヒュー! シュパシュパ(ソファに座ったままのジャッキーが上半身だけで派手なアクションを披露)! とにかくアクションに関しては、脚本家と綿密に相談した。黄興はどんなふうに戦ったのかってね。
Q:あなたらしいアクションと、黄興の戦術をブレンドしたわけですね
(同志である)孫文を守りながら、階段を下りるシーンなんかがそうだね。階段の下には孫文を銃で撃とうとする人がいる。僕は孫文を守りながら階段を下り、オーバーコートを使って敵をバババッとかわしていくんだ。こういう戦い方は、おそらく当時はなかっただろう。でも映画として受け入れられる範囲で、僕がアクションを振り付けていった。周りのスタッフに「この動きは、やり過ぎじゃないかな?」なんて確認しながらね。
初来日でもらったプレゼントは、コンテナ2個分!
Q:「世界のファンに向けて」という発言がありましたが、この『1911』は現在の日本人にも大きく訴えかけると考えていますか?
辛亥革命と、今年、日本を襲った震災はまったく違うものだけど、この映画を撮らなければ、黄興や孫文が日本で教育を受けた事実や、辛亥革命の裏で日本からの多大な支援があったことを、僕は知らないでいた。天災は避けられないが、人為的な戦争は絶対にあってはならない。そのあたりを僕は全世界に訴えたいね。
Q:あなたが震災後にチャリティー活動してくれたことに、多くの日本人が勇気をもらったと思います。
2008年の四川大地震のとき、僕はすぐに現場に入ったのだけど、結局何万人もの命が失われ、数百万棟の家屋が崩壊した。あのとき日本の人たちが義援金を送ってくれ、チャリティーイベントもやってくれて、僕はとても勇気をもらったんだよ。だから今回の東日本震災が起きたとき、すぐに恩返しをしなきゃと思ったのさ。震災の直後は、飛行機もストップしていたから、何もできない時間に対するいらだちがあったね。
Q:そこまで日本を愛してくれていることに、心から感謝したいです
違うよ。反対だよ。まず最初に日本のファンが僕を愛してくれたんじゃないか! 30年以上も前は、今のようにすぐに情報が本国に来ないから、僕が日本でどれだけの人気があるのか、自分ではわからなかった。だから初来日のとき、あまりに大勢のファンに迎えられて、驚いたんだ。そのときにもらったプレゼントは、コンテナ2個分にもなったんだよ(笑)!
Q:コンテナで持ち帰って、香港で開けたんですか?
いや、忙しくて開けるヒマがなかった(笑)。そのままの状態で、また来日して、コンテナでプレゼントを持ち帰り、結局、コンテナを開けたのは、初来日から6年か7年後になってしまった。チョコレートとか食べ物もあったけど、みんな腐っていたよ(笑)。さすがに後悔したね。
出演作品100作!ターニングポイントになった作品とは!?
Q:出演映画100作目ということで、過去を振り返り、ターニングポイントといえる作品を挙げてください。
難しいな。自分でも全部は思い出せない。でも最初のターニングポイントというなら、やはり『ドランク・モンキー/酔拳』(1978年)かな。その次が『ヤング・マスター/師弟出馬』(1980年)。そして『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)、『レッド・ブロンクス』(1995年)となるだろう。でも作品にかかわらず、僕は絶えず変化を求めてきた。アクションも時代によって変わってきたし、演技も変遷を遂げていると思うんだ。これまでやってきて、とにかくアクションスターの寿命は短いというのが実感だよ。
Q:でも、まだまだ現役のアクションスターですよね。今後はどういう方向を目指すのですか?
例えばクリント・イーストウッドは、かつて銃撃アクションを売りにしていて、それをやめた途端、観客から見向きもされなくなった時代がある。でも80歳を超えた現在、彼は監督としても俳優としても大活躍している。だから僕もアクションスターから「演技をする人」にシフトしていきたいね。「ジャッキー・チェンはカンフースター」と言われるより、「ジャッキー・チェンは俳優だ」と言われたいんだ。俳優としてアクションもこなす。そういう地点が目標だな。
Q:今後ということでは、息子のジェイシーさんも俳優として成長しています。この『1911』にも出演していますが、父親としての評価は?
まったく満足していないよ(笑)! まぁ、それは言い過ぎとして、親なら誰でもそうだけど、息子が100点を取ったら、次は120点取ることを期待してしまうんだ。とにかくワルに育たなかったことだけは、ありがたいけどね。
スクリーンから抜け出たように、派手な身振り手振りを交えながら質問に答えるジャッキー。インタビューをする側さえ楽しませようとするエンターテイナーでありながら、ひとつひとつの答えはとにかく真摯(しんし)で、熱い思いが伝わってくる。57歳とは思えない若さとエネルギーにあふれたジャッキーは、アクションスターから本格派俳優へシフトすると言いながらも、まだまだキレのある動きでファンを楽しませてくれると改めて確信した。そしてインタビューの最後にちらりと、父親としての優しい笑顔を見せていた。
映画『1911』は全国公開中