映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』三浦友和&余貴美子 単独インタビュー
夫婦は“偶然の賜物(たまもの)”
取材・文:轟夕起夫 写真:斉藤美春
「人生は、鉄道に乗った旅のよう」。風光明媚(めいび)な日本の風景と、そこを走る列車の姿を切り取りながら、夫婦のきずなを繊細に描く映画『RAILWAYS』シリーズ第2弾、『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』。今度の舞台は富山県の地方鉄道。定年退職を1か月後に控えた運転士が、妻から看護師の仕事を再開すると宣言され口論となり、妻が家を飛び出す……。本当の気持ちが伝えられず、すれ違う男と女の思いを体現したのは、日本映画を代表する名優、三浦友和と余貴美子。“人生の先達”でもある二人が語った。
3度目の夫婦役共演も“初共演みたいな気持ち”
Q:お二人は、相米慎二監督の『あ、春』や富永まい監督の『食堂かたつむり』でも夫婦役でしたが、今回は真正面から“ぶつかり合っている”という印象でした。
三浦友和(以下、三浦):そうなんです。だから僕は今回、初共演みたいな気持ちでした。『あ、春』では、共演というよりも、“同じカットに出ていた”という感覚でした。今回は、感情が絡み合うような芝居をさせていただいて、余さんと過ごした時間のことは絶対に忘れないと思いました。
余貴美子(以下、余):『食堂かたつむり』のときは、三浦さんの役はわたしの先輩、初恋の相手で、年月を経て再会して、すぐに結婚式を挙げることになって……という間柄でしたね。
三浦:ちょっとファンタジーでしたよねえ、あの関係は。
余:そうですね。『食堂かたつむり』でも、二人で会話する場面はそんなになかった。今回は、シーン数こそ多くはないですが、1シーンごとに濃密なやりとりがあって、わたしも忘れられない映画になりました。
夫婦の形は千差万別!徹(三浦)と佐和子(余)は?
Q:今回演じた役柄について、共感、または反発された部分はありましたか?
三浦:演じた役と同年齢ですからね。僕もいろいろ、今後の人生を考えざるを得ないわけで、同じ岐路に立たされているという意味では共感しました。ただ、夫婦関係において、「もう少し自分の中の扉を開けばいいのに……」と歯がゆさを覚えた。徹は、特別な男ではなく、よくいるような男なんですが、古いタイプの男でもあるんですね。妻に対しても「言わなくてもわかっているだろ?」って、勝手に思っているような……。
余:妻の方もよく我慢していましたよね? わたしたちと同じで、夫との関係は、“三歩下がって師の影踏まず”みたいな教育を受けていた世代だから、我慢できていたのかもしれません。
三浦:それってわれわれの親世代じゃないですか? 僕、そんな教え、受けていないですよ(笑)。僕は、徹と佐和子の関係には、地方性も影響しているのではないかと思います。
余:そうですね。都会だったら、妻の方からさっさと別れちゃうかも(笑)。
Q:本作では、夫の定年退職を機に、妻が長年やりたかった仕事に乗り出していきますが、余さんはこの気持ちにシンパシーは?
余:感じる部分はありました。夫に尽くすだけでなく、社会的に誰かのために働きたいという欲求は、いくつになってもあるはず。しかも彼女の場合、自分の母親を介護しきれずに亡くし、自分の体調にも不安を感じて、考えるところがあったのでしょうね。ただ、もうちょっと互いに、コミュニケーションを取ればいいのに……とは思いました。
三浦:実は、僕の友達夫婦にもいるんですよ、こういう夫婦が。その奥さんも、やっぱりだんなさんに気を使っていて……。優しさなんですよね。時には、そんな大事なことは言った方がいいんじゃないの? って思うんだけど、その夫婦関係はそれで成立しているんです。
余:できれば、そのご夫婦にも、この映画を観ていただきたいですね。
三浦:いや、観せますけどね。無理やりにでも(笑)。
人生は還暦を過ぎてから?夫婦長続きの秘けつ
Q:劇中、運転士の先輩を通して、還暦は一つの区切りに過ぎず、「これからの時間は長い」というテーマが投げ掛けられましたが、お二人はこの言葉をどのようにとらえましたか?
三浦:この台本を書いている人たちってまだ若いんですよ。40代前後かな?(※小林弘利が1960年生まれ。ブラジリィー・アン・山田が1974年生まれ)そんな二人が書いたセリフなので驚きましたね。この映画をやって、はたと「確かに長いんだよなあ」と気付かされた。主人公もそうだけど、男は還暦を過ぎたら、「もう楽に暮らそう」と思いがち。だけど奥さんの方はぜんぜんそんな気持ちではなかった。そこのすれ違いは大きいです。
余:自分が死ぬまでを“残りの人生”とするか“おまけ”とするか、それとも“まだまだこれから”と考えるかでずいぶんと違うと思うんですよね。わたしも今回実年齢と一緒の役だったので、これからをどう過ごしていくか、考えさせられるいいセリフでした。
Q:三浦さんは自伝的人生論「相性」(小学館)の中で、結婚をされてから奥様のために守り続けている三つの誓い(「51歳で始めた禁煙を守る」「ずるい生き方をしない」「浮気はしない」)を紹介されていましたが、ほかにも夫婦を長く続けていく秘けつはありますか?
三浦:とりあえずはその三つですよ。でも、秘けつを答えられる人なんていないとも思います。偶然うまくいっているだけで、秘けつなんてないんですよ。
余:夫婦の間柄って、あんまり理で詰めない方がいいですよね。けっこうファジーにしておいたほうがうまくいく(笑)。
三浦:そうそう! すべては偶然の賜物(たまもの)で、結局「相性が良かったんだね」って思うんですよ。そうじゃないかなあ?
鉄道と人生は重なる?鉄道をめぐる思い出
Q:では最後に。本作は『RAILWAYS』シリーズ第2弾! 列車や鉄道をめぐるお二人の思い出を教えていただけますか?
三浦:列車の運転手は子ども心にかっこいい仕事だなと思っていましたね。子ども時代にはまだ、蒸気機関車が走っていて、乗ったこともあります。小学校3年のときに、山梨から東京へと引っ越してきたんですが、いろいろカルチャーショックがあって、電車の駅と駅の間隔があまりにも近いのもそうでしたね。田舎は駅と駅の間が一つ一つ長いですから。「東京って駅が全部つながっているの?」と真顔で母親に聞いて笑われた記憶があります。
余:わたしの子どものころは、市電や都電が走っていました。車掌さんがいて、黒いバッグから切符を手渡しされて、うれしくてわたし、切符を集めていました。あと、列車の先頭や後ろから見える風景が大好きで、よくガラスにへばりついて外を見ていましたね。
三浦:年を経て、その人の心情によって風景の見え方が変わってくるのを、今回の映画は感動的に描いています。鉄道って終わりがないんですよね。終点のように見えても、スイッチバックすればそこが始点になる。まさに鉄道は人生と重なると思います。
劇中、それぞれの事情、立場を背負いながら、“夫婦の機微”を紡ぎ上げてみせた三浦友和と余貴美子。二人の人生経験の深さが、“画”に確かな情感と説得力を与えている。二人は、インタビュー取材中も、終始和やかなムードで、本当に息がぴったりだった。シリーズ第1弾の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』ではチーフ助監督を務めていた蔵方政俊が、満を持して監督デビューした本作。蔵方には、かれこれ16年前、三浦と余が共演したテレビドラマ「盗まれた情事」の現場スタッフの経験も。この第2弾、年季の入った新人・蔵方監督が見せた初めてとは思えぬ素晴らしい演出にも注目してほしい。
(C) 2011「RAILWAYS2」製作委員会
映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』は11月19日富山先行公開の後、12月3日全国公開