『月光ノ仮面』板尾創路監督&石原さとみ単独インタビュー
彼女は、満月の力に突き動かされている女性なんです
取材・文:平野敦子 写真:高野広美
多方面で才能を発揮する板尾創路が監督第2作目としてメガホンを取った映画『月光ノ仮面』。今回監督は、古典落語の傑作「粗忽(そこつ)長屋」をモチーフに、謎が謎を呼ぶ摩訶(まか)不思議な板尾ワールドがさく裂する、言い難い魅力に満ちあふれた作品を撮り上げた。昭和22年を舞台にした本作で監督、脚本、主演の三役を務めた板尾創路と、けなげなヒロイン役を好演した石原さとみが、お互いの魅力や、衝撃のラブシーン撮影の一部始終について明かした。
石原さとみは、イメージ通りの女優だった
Q:今回石原さとみさんを、ヒロインの「弥生」に選んだ理由を聞かせてください。
板尾創路監督(以下、板尾監督):とにかく総合的に見て、石原さんはまさにイメージ通りの役者さんやったのでね……。あとは和服が似合うかなとピンときたというのも、彼女をこの役に選んだ理由の一つではありますね。
石原さとみ(以下、石原):そうなんですか? ありがとうございます!
Q:石原さんは普段からよく和服をお召しになるのですか?
板尾監督:仕事ではよく着ているんとちがう?
石原:そうですね、仕事では和服をよく着ています。大河ドラマをやっている間はずっと和服でしたし、その後も時代劇にはたくさん出演させていただいているので、練習のために家でもずっと和服姿でいるということはよくありました。大河ドラマが初めての和装だったので、とにかく最初は動きにくくて困ったのを覚えています。
Q:着物を着ると気分的に何か変わる部分はありますか?
石原:撮影などで浴衣を着ることも多いんですが、着物って浴衣よりも少し厚手というぐらいで、着心地が悪いということは全然ありませんでしたね。そのうち着物を着ていてもだんだん違和感がなくなってきて、ちゃんと洋服を着ているときと同じような感じで普通に生活できるところまでは到達できました。
板尾監督、主演女優にキレられる!?
Q:石原さんは、弥生という女性を演じてみて、魅力はどこにあると感じましたか?
石原:監督、本当のところはどうなんですか? わたしずっと一人で勘違いしていたみたいなんですよね。台本を読んで、本番に入ってからも、もっと恋に揺れ動いている女性なんじゃないかと勝手に解釈していたら、監督に「いや、弥生は本当はこのナゾの男のことをずっと一途に好きなんや」と言われて……。監督、そうでしたよね!?
板尾監督:まぁ、そうやったかもね……。弥生はあのどこの馬の骨ともわからない男を、いつの間にか好きになってしまったというかね。この映画に登場する二人の男というのも、実は同一人物といえば同一人物なんで、彼女がどっちを好きかということもないのでね。わかりやすく解釈をすれば、彼女は満月の力に突き動かされているということなんで、何となく自分の核心的な気持ちがどうこういうよりかは、全体的に曖昧(あいまい)な感じなんですよね。
Q:石原さんにとって監督は怖かったですか、それとも優しかったのでしょうか?
板尾監督:冷たい監督やんな!?
石原:いや、そんなことはない……と思いたいですよ(笑)!
板尾監督:僕は、一回石原さんに怒られたんですよ。
石原:そんなことないです。怒ってはいないですよ!
板尾監督:彼女と二人のシーンで、ヒロインの弥生が、僕が演じている男のことを思っているというシーンがあるんです。そこで手をつないで、一緒に竹林の中に入っていくんですが、彼女のほうは一生懸命気持ちを作って演技をしているわけですよ。それなのに、そこで「カット!」の声がかかったら……。
石原:板尾監督ったら、そのまま今撮った映像をチェックしに行ってしまうんです。それがもう本当に猛ダッシュなんですよ! それでわたしはたった一人で取り残されて、「一体この後どうすればいいんだろう!?」って思って。「こんなにあの人のことを好きになってしまっているのに、どうしろっていうの、このわたしの気持ちはどうなるの……」と。
板尾監督:もうすっかり彼女のことは放ったらかしでね。みんな(スタッフ)も僕がおるほうにおるから、向こう側には誰も残っていないんですよ。石原さんは、ひとりぼっちで置いていかれて、竹やぶから主演女優が一人でとぼとぼ歩いて帰ってくるという……。ほんまにかわいそうですよね!?
石原:でも、助監督さんに「寂しい!」ってチクりましたから。おかげで助監督さんがすぐに監督に「けしからん!」と言ってくれて(笑)。
Q:それから監督の態度は変わった?
石原:一つだけ変わりました。カットがかかった後にちゃんと「チェック行ってきます!」って言ってくれるようになりました(と満面の笑み)!
寒さで頭がいっぱいだったラブシーン撮影!
Q:竹林でのお二人のラブシーンは、照れることもなくやることができたのでしょうか?
板尾監督:いや、もうねぇ、照れているとかいないとか、そういう状況じゃなかったよね? とにかく寒くて寒くて……。でも、やることは山ほどあるし、大変ですよ。
石原:本当に信じられないぐらい寒くて、死んじゃうかと思いました。あとは撮影でレールを引いて、カメラがわたしたちの周りを回りながら撮影するときに、どのタイミングで着物がはだけて、どんな感じで脚を出すかみたいなことをみんなで真剣にやっていましたよね。
板尾監督:色気もクソも何もないですよね。ただがんばって撮るという。とにかく大変なシーンでした! それが映像にはみじんも出ていないのが、またすごいんですけどね(笑)。
Q:では、撮影で一番大変だったのはそのラブシーンだと?
板尾監督:もちろんスタッフも大変やったし、いろんな意味で大変やったのは確かですね。女優さんがそういうシーンを撮るというのは、やはり大変やないですか? 普段以上に気も使っていたし、みんなで一丸となってやったというかね。
石原:えー、そうなんだ! それは全然知らなかったです。
板尾監督:そんな誰にでも見せられるシーンでもないし、それはもちろん気を使いますよ。
Q:石原さんは、そのような監督のこまやかな心遣いを感じましたか?
石原:本当に申し訳ないぐらい、寒さのことで頭がいっぱいでした(笑)。とにかくもう「寒い!」ってことだけしか思い浮かばなくて……。
板尾監督:なんか、寒さに負けそうになるたんびに「寒さに負けたらあかん!」ってね。そういう気持ちはシャットアウトせなあかんシーンなんで、なんとか役者としては、がんばって寒さを忘れようとするというか。
石原:そう、とにかく自分との闘いでした!
普段着のラフな革ジャン姿もキマっている板尾創路監督と、フェミニンなブラウスとミニ丈のスカートを着こなし、女優としてのオーラを放つ石原さとみ。ともすれば喋り出したら止まらない監督の横で、石原はニコニコとほほ笑みながらも、時折鋭い一言を発して周囲を大いに沸かせた。さまざまな苦難や撮影現場の寒さを乗り越え、二人で力を合わせて熱演した『月光ノ仮面』のラブシーンは、劇中最高の名場面となるに違いない。
【石原さとみ】スタイリスト:新崎みのり メイク:佐藤エイコ(ヌーデ)
【板尾創路】杉山裕則(pink)
映画『月光ノ仮面』は1月14日より全国公開