『日本列島 いきものたちの物語』長澤まさみ 単独インタビュー
出会った人との「きずな」を大切にしていきたい
取材・文:杉浦真夕 写真:秋山泰彦
日本を舞台に、野生動物たちの家族愛を描いた感動のドキュメンタリー映画『日本列島 いきものたちの物語』が完成した。世界地図で見れば小さな島国の日本だが、実は約9万種類という多種多様な動物が生息する奇跡の島。4人のナビゲーターの1人として本作にかかわった長澤まさみが、厳しい自然の中で生きる野生動物たちから受けた影響や、近年の自分自身の変化と成長を率直に語った。
野生動物たちに見習うべきこと
Q:長編ドキュメンタリー映画でナビゲーターとしてナレーションを担当するのは初めてですね。どんな気持ちで臨みましたか?
ナレーションの収録というのは、作品が完成する最終段階にあたるので、とても大きなプレッシャーがありました。「今まで、どれだけの時間をかけて撮影されてきたんだろう……」と思うと責任重大ですから。きちんと丁寧に、監督の求めるものを素直に忠実に出せるようにと心掛けながら、作品と向き合いました。
Q:この作品には、これまで目にしたことのないような野生動物たちの姿が映し出されていますね。
動物たちの「生きる力」を感じました。親子のきずなには素直に感動したし、厳しい大自然の中で生き抜く姿に勇気をもらいました。人間みたいに言葉が通じるわけではないのに、とても愛情深くて、きずなも深くて。もしかしたら、動物たちは動物たちで、言葉を交わしているのかもしれないと思いました。
Q:さまざまな動物の親子が描かれていましたが、特に印象的だったものは何ですか?
カクレクマノミの場面は、魚になりきってナレーションをする形だったんですけど、ここは思わず感情移入してしまいましたね。卵を守る母親の一生懸命さを表現したいと思ったんです。母の強さってすごいですよね。将来、母親になったとき、務まるのかな……と不安になりました(苦笑)。でも、あんな小さな魚ですら母性が備わっているんですよね。すごいですよね。
Q:動物たちは、生きることに真剣ですよね。
人間は、挫折したり失敗したりして、あきらめてしまう瞬間がありますよね。すべて嫌になって、「もう何もかも投げ出したい!」と思ってしまったり。でも、動物たちはどんなに過酷な状況でも、生きるのをやめない。それは本能的なものでしょうが、見習わなきゃいけないなと思いました。
いつかは両親のような存在になりたい
Q:この作品にかかわって、「こんな家庭を築きたい」という将来像が見えてきたそうですが?
この作品に出てくるのは、なぜか父親がいなくて母親が子育てをする動物が多かったんです。サルも、イノシシも、キタキツネも。もちろん、父親が子育てする動物もいると思います。誰か一人だけが頑張るのではなく、やっぱり家族全員が仲良くいられる、会話があるような家庭を築けたらいいなと思いました。
Q:それは、ご自身が育ってきた家庭が理想像になっているのでしょうか。
すごく仲良いですよ。両親には不自由なく育ててもらったので、とても感謝しています。わたしも、いつかは父と母のような存在になりたいし、子どもをちゃんと育てられる、温かい家庭を持ちたいですね。
今はメールもマメにするようになった!
Q:動物たち親子のきずなが描かれた作品ですが、2011年の流行語ベスト10に「きずな」が入ったことからも、現代のキーワードになっている気がします。
そうですね。震災を経験して、わたしも人との付き合い方が変わりました。出会った人たちとは、ちゃんとつながっていきたいなと思うようになったんです。もちろん家族もそうですけど、自分が生きていく中で出会う人たちとのきずなというか、つながりを大切にしていきたいと思うようになりました。
Q:身近な「きずな」を見つめ直したということでしょうか?
人との関係をこれまで以上に大事にしたいと思うようになりました。忙しい中でも会う時間を作るとか、連絡を入れるようにするとか。以前はメールもマメじゃなかったんですけど、とってもマメになりました(笑)。
Q:2011年は映画『岳 -ガク-』もありましたし、大自然と縁の深いお仕事が多かったですね。
こんな良い景色が日本にもあるんだって、たくさん知りました。絶対、まだまだ魅力的な場所があるはず! 全部見られたら、全部知ることができたら、すごく楽しいんだろうなぁ。大自然って、夢を大きく膨らませてくれますよね。この作品のナレーションを通して、それを垣間見た気がします。
新しいことに挑戦して見えたもの
Q:昨年は、映画『コクリコ坂から』で声優も務めましたね。
声だけで表現するということで、人にきちんと伝わるのかという不安がありました。ナレーションではないですが『コクリコ坂から』や、テレビのドキュメンタリー番組の経験を通して、「声だけで伝えるからこそ、はっきりしゃべれるようになりたい」と思ったんです。今回のお仕事では、気になるところは、自分から撮り直しをお願いして、とことんやらせてもらいました。観客の皆さんにきちんと届くかどうか、それがわたしには一番大事ですね。
Q:声の仕事だけではなく、2011年には初舞台も踏んで、新たな分野にチャレンジなさいましたね。
わたしは今まで、「これは自分にはできないな」とか「こういうものはやりたくない」と思ったことがないんです。逆にいえば、「絶対にこれをやりたい」というのもなくて、「次にどんな役をやりたいですか?」と聞かれても漠然としていました。欲がないわけではなく、あまり決め込まないというか。だから、初めてのお仕事をやらせてもらったときには、自分なりの発見もあるし、新鮮な楽しさもあります。だからといって「よし、これはクリア!」みたいには思わないですが、新しいお仕事でも、それは今までやってきたことの延長線上にあると思っているので、楽しくやらせていただいています。
Q:それでは、今後の抱負というのも特に定めないのでしょうか?
そういうわけではないですが、最近思ったことがあるんです。一つ一つ丁寧にやっていきたいって。当たり前のことですが、当たり前にできていなかったんじゃないかなと感じて。目の前のことだけで精いっぱいだった時期もありましたし、特にきっかけがあったわけではないですが、やっと最近、落ち着いて真摯(しんし)に仕事に取り組めるようになってきた感覚があるんです。だから、今後は丁寧にお芝居もしていきたいなと思います。
決して適当な受け答えをしない、長澤。質問に静かに耳を傾け、自分の中で的確な答えを探してから、ゆっくりと話し出す。一言一言、等身大の自分を表現するために、「最適な言葉」を選んでいるのだ。多くの役柄とセリフをこなしてきた彼女だからこそ、言葉の持つ力を知り尽くし、ナレーションという異分野でも才能を発揮できたのだろう。熱心に仕事に取り組む姿に、長澤まさみという女優が持つ純粋さと強さを見た気がする。
(C) 2012映画「日本列島」製作委員会
映画『日本列島 いきものたちの物語』は2月4日より全国公開