『捜査官X』金城武 単独インタビュー
アイデアを実現させ、いい映画を作っていきたい
構成・文:シネマトゥデイ編集部
平穏な村で起きた凶悪強盗犯の死亡事件をきっかけに、予想のつかない推理劇と迫力のアクションが展開するミステリー・アクション『捜査官X』。主演の金城武が、頭脳明晰(めいせき)で真実の追求のためなら手段を選ばない、丸ぶちメガネに麦わら帽子姿の風変わりな天才捜査官という難役に挑戦した。そんな金城が、3度目のタッグとなった名匠ピーター・チャン監督や映画界への思いを、これからのキャリアの展望と共に語った。
変わり者の捜査官にふんした決め手は監督!
Q:本作への出演を決めた理由は、ピーター・チャン監督の存在が大きかったとお聞きしました。
チャン監督は僕の映画の師匠だと思っています。こう言うと失礼かもしれませんが、監督は近年ますます円熟味が増して、自信が出てきたように思います。
Q:捜査官のシュウは、真相究明のためには手段を選ばず、引き下がらない一方、トボけた味もある難役ですが、演じられていかがでした?
自分の演技が映画の助けになってほしいし、やれることはやったつもりです。チャン監督が僕を呼んだことを後悔しないといいですね。チャンスをもらった以上、監督を満足させたいと思いますから。
Q:シュウは嫌なやつだという声もあるようですが。
もしチャン監督が聞いたら、うれしくなるでしょうね。だって撮影でもずっと僕に向かって「おい、本当に嫌なやつだな!」と言っていましたから。
Q:監督とは本作で3度目のタッグになりますが、2005年の『ウィンター・ソング』のころ、どんな話をしていたか覚えていますか?
あのころ何を話していたかはあまり覚えていないですね……でも確か撮影の終盤、監督に「もうラブストーリーはやめたほうがいい」と言った記憶が(笑)。チャン監督はあれからさらに成功の道を歩んでいます。監督としての能力も熟成し、完成してきていて、今や大監督になったと言うべきでしょう。
Q:初共演で、アクション監督も務めたドニー・イェンはいかがでしたか?
ドニーからは、大変な責任を背負って、いい映画を作ろうと工夫をしていることがよく伝わってきました。彼は寝るのは遅く、起きるのは早い。とにかく苦労し、ベストを尽くしていましたね。
アイドル、俳優……レッテルに意味はない
Q:金城さんはこれまで慎重に作品選びをされてきています。その分露出は減りますが、スターとして、人々に忘れられてしまうといった危機感はありませんか?
そんなこと考えたこともなかったな。僕はただ良い映画を作りたいだけなんです。特に、撮影現場で思いついたアイデアが実現できたときが一番楽しい。そのほかの……いわゆるスターらしさとかは、余分なもの。もともと自分がほしかったわけではなく、付随してきたものですね。
Q:一方で、良い作品にも数多く出演されていますが、まだ受賞経験はありません。賞の獲得というのは、自分を証明する原動力になっていますか?
受賞はもちろん励ましになるけれど、出演の目的にはなりませんね。今回だって優秀な人たち、つまり監督やスタッフたちと一緒に仕事ができて、これだけの作品に出演できただけで、とてもうれしいですから。
Q:アイドルとしてキャリアをスタートされましたが、役者として、まだ発展途上だと考えたりされますか?
僕からすればアイドルも役者も一緒です。そんなにいろいろ考えていないし、ただ映画の現場で仕事をして、アイデアを考えるときの感覚が好きなだけです。人から何と言われようが、それは人のことで、自分はできると思っても、人からはそう思われないかもしれない。だから、いろいろとレッテルを貼られても、それはその人の考え、その人の意見です。僕の一部を見てすべてだと言われても、別に反論する必要もないと思いますよ。場所、地域が違うと見方も変わってきますからね。
国際派俳優が感じるアジア各国の違い
Q:今回久しぶりの中国での撮影となりましたが、 現在、中国は非常に巨大なマーケットになりました。この変化は映画を選ぶ基準に影響しましたか?
そうですね……あるかもしれません。みんな変化の影響を受けていると思います。ただ、自分が影響されたかどうか実感はしていません。僕は自分の仕事をやっているだけですから。でも確かに市場が大きいから、機会が増えたことは確かですね。
Q:アジア各国で映画に出演されていますが、中国、香港、そして日本との違いは?
それぞれの地域で物事への理解が異なります。中国では、2人の監督が同じことをやっても、それぞれ仕事の仕方が違うし、香港の監督には確立したスタイルがある。例えばウォン・カーウァイやチャン・イーモウというと、誰もが彼ら個人の映画のスタイルを知っている。でも日本映画には、監督自身のスタイルが少ないように思えます。完ぺきに製作された大型テレビ番組のようで。映画の技法は完成されているけれど、脚本を変更することはないし柔軟さもなくて、どれも似ている感じがする。もちろん変わってきているのでしょうが……今でも日本の大監督といえば黒澤明で、それ以外の監督がなかなか話に出てこないのです。
ハリウッドにも監督業にも興味ナシ!ただ俳優として……
Q:ハリウッド進出を考えたことはありますか?
ハリウッドは映画好きの人々があこがれる別世界です。最新の技術を学べるし、きっと(行けたら)素晴らしいと思います。でもアメリカにいるアジアのアーティストたちを見ていると、僕は観客のままで良いかなと。ハリウッドに行けば、お金にはなるかもしれないけれど、やりたいことが必ずしもできるとは限らない。外国人のアジア人へのイメージは限定されていると思うんです。
Q:それは、具体的にどういうことでしょう?
昔も今も、欧米に持っていけるものは、向こうにないものだけということです。つまり武侠(ぶきょう)映画やカンフー映画などです。これをやる空間が少しはあるけど、それだけしかやらせてもらえない。僕たちがハリウッドのCG特撮アクション大作が大好きなのと同じですよ。ハリウッドが僕たちをどう見ているのかだけが重んじられているようで、僕は観客でいいと思ったんです。
Q:では、監督になるのが夢だとお聞きしたことがあるのですが、そちらの夢の実現は近そうですか?
確かにそう考えたことはありますね。でも『レッドクリフ』で見たジョン・ウー監督の大変さといったらもう、想像を絶していて! 監督業は難しくて、自分にはたぶん無理だと思いましたね。今はただ俳優のままでいいです。
40歳間近になっても、いつまでも変わらぬ穏やかで優しい表情を見せる金城。アジア映画界や自身のキャリアに対する客観的で落ち着いた意見を披露する様子は、それこそ劇中の捜査官ソックリ!? 俳優としてますます新たな魅力を放つ金城の姿を、ドニーのアクションと、チャン監督が手掛けた美しい映像と共に堪能していただきたい。
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映画『捜査官X』は全国公開中