『外事警察 その男に騙されるな』渡部篤郎&真木よう子 単独インタビュー
日本映画のレベルを超えたエンターテインメントを目指した
取材・文:相馬学 写真:吉岡希鼓斗
国益を守るためならば、ためらうことなく一般市民をだまして協力者に仕立て上げ、危険な最前線に送り込む……日本に実在する、この超法規的な警察機構「外事警察」の実態を暴き、話題を呼んだテレビドラマが、ついに映画となった。外事警察のらつ腕捜査官・住本役には、テレビ版に続いての登板となる渡部篤郎。住本に利用され、協力者となる果織にふんするのは真木よう子。緊張感みなぎるドラマをグイグイとけん引した彼らが撮影の裏側を語った。
キャラクター間に緊張が走っても、現場は好ムード
Q:お二人の共演シーンのほとんどが対立関係を描いた緊張感あるシーンですが、撮影時の雰囲気はいかがでしたか?
渡部篤郎(以下、渡部):現場はオープンで、楽しくて、柔軟性がある良い雰囲気でした。スリリングな役を演じることは役者の仕事の醍醐味(だいごみ)ですから、楽しかったですよ。
真木よう子(以下、真木):役に入り込んではいましたが、現場そのものが常にピリピリしていたということはなかったですね。
渡部:日本人は苦労話が好きでしょう? 映画作りのそういうところばかりが注目されるのは、残念ですね。僕らは映画作りのチームですから。
Q:失礼しました。今回演じるにあたって、どのような気持ちを抱いておられたのですか? 特に渡部さんはドラマに続いての住本役ですが、新たな発見は?
渡部:僕は演技をする際、役に対して何かを発見しようとは思っていないんですよ。脚本に書かれていることをキチンと伝えるのが僕の役割ですから。それをよりよい方向に持っていくことしか考えていません。現場でほかの役者さんたちと仕事をして、芝居上の発見というのはたくさんさせてもらっていますが、住本というキャラクターの発見は必要ないと思っています。もちろん、この男が何を考えているのかということは僕なりに理解しているつもりです。
真木:わたしは、母親役が初めてだったのですが、母親役どうこうということより、まず果織という女性に魅力を感じました。彼女がしてしまった過去の過ちは許されることではないけど、彼女のしたすべてのことが、娘を愛しているという深い思いからきている。その彼女が外事警察に追い詰められて逃げられない状況になり、だからこそ強くなる。そういうドラマにチャレンジしたいという思いは強かったですね。
手持ちカメラがテンションを上げた!?
Q:演じる上で、参考にした役者やキャラクターはいますか?
渡部:僕はなかったけど、真木さんは?
真木:果織は住本から追い詰められているけど、事を起こしたのは自分自身なので、外事警察への怒りと共に、自分への葛藤も持っている。そういう意味でイメージしたのは『21グラム』のナオミ・ワッツですね。取り乱しているような感じ。
Q:ほぼ全編が手持ちカメラによる撮影はやりにくくはなかったですか?
渡部:以前にその手法での撮影経験がありましたから、抵抗はなかったですね。岩井俊二監督や堤幸彦監督などがそうでした。若いうちに経験していたのが良かったのかもしれません。
真木:わたしは初めてでしたから、カメラの動きは衝撃的でした。でも、とてもやりやすかったです。固定カメラだと、「そこから動いちゃいけない」という規制が生じますから。むしろ、手持ちカメラで動いて撮ってもらう方が個人的にテンションが上がりました。
道路を封鎖した韓国ロケ
Q:韓国でのロケはいかがでしたか?
渡部:韓国のスタッフには、とても感謝しています。国が映画製作を支援しているので、日本よりはるかにいい環境だと感じました。今回の大規模な道路規制なんて、日本じゃ難しいですよ。
真木:そうですよね。わたしが橋の上を歩くシーンは、結構車の交通量が多い時間帯に撮影したんです。片側の車線を丸々封鎖して撮ったのですが、大興奮でした!
Q:韓国のスタッフの方々はどうでしたか?
渡部:韓国のスタッフは、とても協力的でしたね。日本から来たスタッフのサポートとして現場についていただいたので、やりにくさがあったかもしれませんが、日本のやり方に従ってくれました。そういう点でも本当に感謝しています。僕は韓国映画の水準は高いと思っています。もちろん日本映画には日本映画の良さがありますが、エンターテインメントの映画という点では、韓国はスゴイですよね。
感情が見える芝居に注目
Q:作品が完成した今の手応えについてお聞かせください。
渡部:手応えという点では、この映画を観てくださった方には、「アジア映画の水準としては、どうですか?」ということを伺いたいですね。僕らは強い意識を持って臨んだ作品ですから、観て損はさせないと自信を持っています。
真木:わたしも手応えを感じています。住本のセリフで「人をコントロールする一番簡単な方法は怒りを操ること」という言葉は、「なるほど!」と思いましたね。
Q:「ここに注目してほしい」と思う部分はありますか?
真木:台本を読んだときから、すごく好きなシーンがあったんです。映画のカギでもある人物を演じた田中泯さんが、「国益とは何だ?」と問い掛けるシーンです。あそこは泣けました。
渡部:注目してほしい部分はたくさんありますが、あえて挙げるなら、田中泯さんや真木さんなど、役者すべてが見どころじゃないかな。それぞれの感情が、しっかりと見えますから。
揺れ動くカメラでとらえられた臨場感あふれるアクション、生々しい人間関係に肉迫するドキュメンタリー風の演出、そこにリアリティーを吹き込んだ俳優陣の奮闘。『外事警察 その男に騙されるな』は、あらゆる点で和製エンターテインメントの規格からはみ出し、より高い地点を目指している。「手応えがある」と言い切る渡部と真木の言葉に、うなずく観客も多いだろう。
【渡部篤郎】
スタイリスト:中村みのり
ヘアメイク:TOYO(BELLO)
【真木よう子】
ヘア:masato for marr (PRIMAL)
メイク:島田真理子(高橋事務所)
スタイリスト:宮澤敬子(D-cord)
(C) 2012『外事警察』製作委員会
映画『外事警察 その男に騙されるな』は6月2日より全国公開