『スノーホワイト』シャーリーズ・セロン単独インタビュー
平穏な人生だからこそ、ハードで難しい役柄を求めてしまう
取材・文:シネマトゥデイ編集部・森田真帆 写真:高野広美
『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワート演じるヒロインと死闘を繰り広げる邪悪な魔女・ラヴェンナを熱演しているオスカー女優のシャーリーズ・セロン。モデル出身の美貌を持ちながらも、さまざまな役柄に果敢に挑んできた彼女が、悲しい狂気に満ちた魔女役への思いを語った。
ラヴェンナ役への思い
Q:この作品、そしてラヴェンナ役を選んだ理由を教えてください。
誰もが知っている物語を全く違う視点から描く、という点に大きな可能性を感じたの。わたしとクリステンの課題は、自分たちが演じる対照的な二人を単なる善人や悪人にしないように、それぞれの人物像に現実味を持たせることだった。わたしたちが望んでいたのは、ファンタジーの世界の登場人物らしい側面を持たせながら、誰もが共感できるような感情を持つリアルな人間としてそれぞれのキャラクターを演じることだったのよ。
Q:ラヴェンナは恐ろしい魔女であると同時に、深い悲しみを持ったキャラクターでしたね。
わたしは観客に彼女の行動だけを取って「悪」として考えてほしくなかったの。彼女はとても悲劇的な女性なのよ。自分の外見だけにとらわれて生きると、とても悲しく空っぽな人間になってしまうということを女性たちに伝える役目を果たしていると思うの。この映画を観て、彼女の悲しさや孤独に共感する女性は多いんじゃないかしら。
Q:あなたはとても勇敢に難しい役に挑戦しますね。何があなたを突き動かすのでしょうか?
自分自身が深く考えることができるような人物を演じたいと思っているの。もともと人間のあり方に興味があったから、それを探求させてもらえる仕事に恵まれたことをいつもありがたいと思っているわ。勇敢って言ってもらえるのはうれしいけれど、難しい役は天からの贈り物のようなもの。朝が来て自分の車に乗り、与えられた役にふさわしい演技ができるかどうかおびえながら撮影現場に向かうときの気分ってなんとも言えないものよ。わたし自身の人生はことのほか平穏だから、ハードで難しい役柄じゃなければ実人生の域を超えられないというのもあるわね。
シャーリーズが考える「悪人」とは?
Q:恐ろしい顔で怒鳴り散らすラヴェンナの姿は、普段のあなたからは想像もできないものでした。自分とかけ離れたキャラクターの感情は、どのように作り出していくのですか?
女優として、役を演じる上でとても重要なことは自分とその役柄をつなぐ入り口を見つけることなの。映画の撮影が始まる前は、必ず自分の心の中にある確かな感情を探し出すのよ。不確かな感情からは何も生まれないから、大切なのはいかに本物の感情を見つけ出すかということなの。
Q:今回はどのようにして「本物の感情」を見つけていったのでしょう?
ラヴェンナはとても不健康な人生を送っていたわ。愛した王様を毒殺してしまうという過去を持つ彼女は、男を心から憎んでいる。そして、ずっとお城に閉じこもっている。大切な人に裏切られて、ずっと一人で家に閉じこもっていたら、頭もどんどんおかしくなってしまうでしょう。でも自分にも同じような経験あったから、そのときの感情を思い出したの。それから、撮影に入る前に映画『シャイニング』を観たのだけど、ホテルという密閉空間にいることで頭がおかしくなってしまうというジャック・ニコルソンの演技を、役づくりの参考にしたわ。
Q:映画『モンスター』に続く悪女役となりましたが、あなたは「悪」をどのようにとらえているのですか?
映画『モンスター』のアイリーンとラヴェンナは、同じ悪でも全く違う、両極にいる人間だった。でもアイリーンもラヴェンナも、涙を流すシーンがショッキングだったって言われることがあるわ。それはみんなが、悪人が自分たちと同じ感情を持っている人間だと思いたくないからなのよ。人が悪いことをしてしまったとき、周りの人間は「あいつと自分は違う」と思うはず。だからその「悪」が人間的な感情を見せたときに、わたしたちは、彼らが自分と同じ人間であることに気付いてとても恐ろしく感じるのよ。だけど、わたしは誰にでも悪人になりうる要素があると思っているわ。
手痛い失恋は、女を狂わせる!
Q:ラヴェンナが持つ「男性への憎しみ」の感情は、すぐに理解できましたか?
「男を憎む」っていう感情は女性にとって、とても悲しいものだと思う。それは間違っているって思いたい。でもその一方で、ラヴェンナの気持ちも理解できるのよ。8歳で母親から引き離され王様に嫁がされた彼女は、11歳の時に自分より年下の女の子に女王の座を奪われてしまうの。11歳で自分の存在価値を見いだせなくなるようなことが起これば、誰だってショックを受けると思うわ。男性からの裏切りは、これまでの恋愛を通してわたしも経験してきたことだったから、彼女のバックグラウンドを知ることで、わたしはラヴェンナを信じることができたの。
Q:あなたのような素晴らしい女性でも、「失恋」を経験しているんですか?
もちろんよ! ハリウッドの女優だからって、全ての恋愛がうまくいくわけじゃないの。わたしから別れを告げたこともあるし、向こうにフラれたこともある。利用されただけのように感じて、ラヴェンナのように毒を盛って殺してやりたいと思うほど、彼を恨んだこともあるわ。手痛い失恋は女性を狂わせる力があるのよね。
Q:たくさんの女性が大好きな男性に裏切られた経験があると思います。だからこそ、ラヴェンナへの共感も生まれるんでしょうね。
そうね。それでもラヴェンナのように毒を盛らないのは、ちゃんと乗り越えることができるからよ。恋愛でつらい経験をしても、素晴らしい女友達がいれば、きっと悲しみから救い出してくれるはず。でも失恋の乗り越え方はないから、ただ悲しみに浸るしかないときもある。全然簡単じゃないけれど、だからこそ、次の恋愛がとてもいとしく、大切なものに感じられるんじゃないかしら。癒やす傷が大きいほど、より素晴らしい恋愛ができるようになっていくと思っているわ。
老いること、そして女としての生き方とは……
Q:ラヴェンナがだんだんと老いていくシーンはとても恐ろしかったです。特殊メイクでご自身の老いた姿を見たとき、どんな気持ちでしたか?
正直に言えば、「ワオ!」っていう瞬間はあったわ。でも、自分の老けた顔を見て、そのまま落ち込んではいられないのがこの仕事なのよ。「ワオ!」っていうクレイジーな瞬間のあとは、気を持ち直して、役柄をつくり上げて、現場に向かったわ。
Q:老いることを、怖いと思いますか?
もちろん、女性ならみんな怖いはずよ。でもね「20代の頃に戻りたい」「若い子がうらやましい」って思う必要はないと思う。女性は年を重ねることで、どんどんきれいになっていくのよ。外見だけじゃなく、ハートを磨くことが一番大切。女性の美しさは、幸せな人生から生まれるものだから。ネガティブな考えは人生を悲しいものにしてしまうのよ。
Q:人生を生きていく中で、あなたのモットーを教えてください。
ジョン・レノンが、「ビューティフル・ボーイ」の中でこう言っているの「人生は、ほかの計画を立てることに精を出している間に起こるものだ」って。いろいろ計画を立てていたって、予想外のことが起きたり、その計画がダメになってしまったりということがあるってことよ。だからわたしも、日々を大切に生きていきたいと思っているわ。
シャーリーズは15歳の時、自分の目の前で母が父を射殺するというショッキングな事件に遭遇している。それから約20年、今年3月に養子を迎え母親になった彼女は、そんな過去の悲しみなど一かけらも感じさせない幸福感に満ちあふれていた。「女性の美しさは、幸せな人生から生まれる」という言葉を自ら証明するように、彼女の美しさは輝きを増すばかりだ。人生を通し、あらゆる感情と向き合ってきたシャーリーズが演じるラヴェンナから、美しさにとらわれた不幸な人間の悲しさを感じてほしい。
映画『スノーホワイト』は6月15日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国公開