『グスコーブドリの伝記』小栗旬&忽那汐里 単独インタビュー
大切な誰かのために勇気を持つことが大事
取材・文:平野敦子 写真:秋山泰彦
宮沢賢治原作の童話を映画化した『銀河鉄道の夜』の杉井ギサブロー監督×キャラクター原案担当の漫画家ますむら・ひろしの黄金コンビの最新作『グスコーブドリの伝記』。美しい風景が広がる中、本作ではますむら・ひろしの手により擬人化された猫の主人公ブドリが、度重なる冷害にも負けず必死に生き抜こうとする大冒険が描かれる。心優しい兄ブドリの声を担当した小栗旬と、今回ボイスキャスト初挑戦でその妹ネリを演じた忽那汐里が、家族のきずなや声優としての醍醐味(だいごみ)について熱く語った。
ごくシンプルに「幸せ」な家庭がいい
Q:今回とても妹思いの優しい兄と、かわいらしい妹という役柄でしたが、お互いにこんなお兄さんや妹がいたらいいなと思いましたか?
小栗旬(以下、小栗):僕には姉と兄がいますが、やはりこんなかわいい妹がいたらいいなと思いますよね。もし妹がいたら、めちゃくちゃかわいがっているかもしれませんね。
忽那汐里(以下、忽那):わたしは弟がいて、とても仲がいいです。子どものころはめちゃくちゃケンカしていましたが、最近はしないです(笑)。でも、ケンカをしても必ずわたしが勝つので、やはりわたしの方が強いんだと思います(笑)。だから逆に「お兄さん」という響きには憧れがあります。
Q:小栗さんはお姉さんやお兄さんとケンカはしましたか?
小栗:兄とは男同士なので、よくケンカをしましたね。でも姉とケンカをするということはなかったですね。姉と仲がいいというよりは、ヘタなことをすると怒られるんで、ただ単に姉のことが怖かったんだと思うんですよね(笑)。
Q:主人公のブドリの家族は、とても仲が良くて幸せそうでしたが、自分の理想とする家庭像はありますか?
小栗:そうですね……、やはりごくシンプルに「幸せ」な家庭がいいんじゃないかなぁ……と思いますけどね。
忽那:お互いに家族のことをおろそかにしないというか、どこかでみんな相手のことを思いやって、気配りを忘れないような家庭が理想だと思います。
ブドリのように行動できたらと思う
Q:今回小栗さんが演じた主人公のブドリと、忽那さんが演じた妹のネリと自分が似ていると思った部分はありますか?
小栗:あまりないですね。でも、きっとこれまで監督たちが一生懸命作り上げてきた世界観に、僕の声がきちんと合わせられたことの喜びはあります。でも、ブドリのようにひたむきで、人のために行動できる人になりたいという憧れは、自分の中にもあります。彼のように行動することができたらステキだなと演じていて思いました。
忽那:わたしが演じたネリという役は、まだとても幼い役だったので、自分と照らし合わせるのはなかなか難しかったですね。映画の中で、両親が冷害でなかなか食べ物を見つけられずに、家にトボトボ帰ってくる姿を幼い兄妹二人が、無言で見つめている感覚はよくわかります。家の中のことを二人はとても客観的な視線で見ていたので、そういう部分に共感はしました。
Q:今、忽那さんから冷害で食べ物がないというお話が出たのですが、これまで空腹で食べ物が欲しい! という思いをしたことはありますか?
小栗:僕は17歳で一人暮らしを始めたんですが、そのころですね。料理なんて全然できないし、お金もないし……。いつも「うまいもん食いたいな!」と考えていたような気がします。
Q:では、今の小栗さんにとって一番おいしい物って何ですか?
小栗:今は何でもうまいですね。
忽那:ありがたいことに、長い間おなかをすかせていたという経験はこれまであまりないですね。わたしは一人暮らしもしたことがないので、いつも家でおいしくごはんを食べさせていただいています。
いつもそばに寄り添ってくれた監督
Q:映画の中ではとてもかわいらしい猫の姿だったんですが、自分の猫っぷりは似合っていると思われましたか?
小栗:あれは監督たちの世界観の中では、擬人化した「猫」というキャラクター設定になったというだけで、あまり「猫」という意識でこの役を演じたことはなかったですね。
忽那:わたしも小栗さんと同じで、猫を演じているというよりは、「ネリ」という小さな女の子を演じていました。
小栗:以前も別の声優の仕事で、少年から青年に変わるという役を演じたことがあったんですけど、そのときはすごくとがっているキャラクターで、ちょっとキツい感じの声で演じました。今回のブドリには、丸みを出せたらいいなと思うところがあって、なるべくブドリの温かい人柄が出るように努力しました。
Q:忽那さんは今回声優初挑戦ということですが、役づくりはどのようにされましたか?
忽那:映像を見ながら自然と役づくりができた感じです。いつも監督がそばに付き添っていてくださって、コミュニケーションを取りながら演じていたので心強かったです。
小栗:監督は本当に穏やかな方なので、僕らに寄り添う感じで「じゃあ、今度はこうやってみようか?」と話し合いながらやってくださいました。
俳優にはない声優の醍醐味(だいごみ)
Q:普段の演技と、声だけの演技では難しさが違いましたか?
小栗:僕ら役者にしてみれば、やはり体を使って演じられないというのは、不自由だなと感じる部分はあると思うんです。逆にいうと、まったく自分とは似ても似つかない人物を演じられるという楽しさもあります。声優という形になると、普段自分が使わないような声が使えるんだというのがわかったのも面白かったです。
忽那:わたしの声はあまり高い方ではないので、最初は幼いネリの声を演じるのは難しいかも……という印象があったのですが、大変だと思ったことは一度もありませんでした。むしろその役柄というものをつかんでいけば、すごく開放的な気分にもなれて、本当に楽しく演じさせていただきました。
Q:このストーリーの一番アピールできる、最大の魅力は何でしょうか?
小栗:誰か大切な人のために自分が動くことができる勇気というものが、きちんと目に見えるという点でしょうか。これから大きくなっていく子どもたちにも、その辺はしっかりと伝わってくれればいいなとは思います。ラストシーンで流れる小田和正さんが作った「生まれ来る子供たちのために」という曲も本当にステキだなと思いました。
忽那:ブドリが大切なものを次々と失って、旅に出て行く一方で、(佐々木蔵之介演じる、子どもをさらう)コトリとの葛藤や、ストーリーの中で語られる比喩的なメッセージなど、そういうものについて作品を観ながら考えていただいて、最後までたどり着いたときに、観客の皆さんが一体何を感じ、何を思うのかという部分が大事だと感じています。一人一人違った感想を持っていただける作品になっていればうれしいです。
映画の中の兄妹のように、お互いをいたわり合いつつ、一つ一つの質問に丁寧に答えた小栗旬と忽那汐里。声優としても経験豊富な小栗は、頼りがいのある「兄」として、今回声優に初チャレンジする忽那というかわいい「妹」の頑張りを温かく見守っていたようだ。そんな二人が演じる、家族の愛に満ちあふれた前半のストーリー、そして、新天地を求めてブドリが旅に出る後半部分の成長過程も見応え&聞き応えたっぷりで、心にジーンと染みてくる。
(C) 2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会 / ますむら・ひろし
映画『グスコーブドリの伝記』は7月7日より全国公開