『莫逆家族 バクギャクファミーリア』徳井義実&林遣都 単独インタビュー
デジタルな今だからこそ、かっこいいオヤジたちの姿を観てもらいたい
取材・文:編集部 森田真帆 写真:尾藤能暢
田中宏の人気コミックを、熊切和嘉監督が映画化した『莫逆家族 バクギャクファミーリア』。10代の頃は、最強の男と呼ばれた過去を持ちながらも、現在は抜け殻のような日々を送っている火野鉄が、ある事件をきっかけに、仲間たちと共にかつての自分を取り戻していく姿を描くアクション満載のバイオレンス・ドラマだ。本作で、主人公・鉄を演じたチュートリアルの徳井義実と、鉄の息子・周平をこれまでのさわやかなイメージを一掃する男らしい演技で熱演した若手実力派・林遣都が撮影の様子を振り返った。
徳井の反抗期は幼稚園!?
Q:徳井さんも林さんも、これまでのイメージを覆すようなキャラクターでしたね!
徳井義実(以下、徳井):皆さんによう言われるんですが、実は鉄って普段の僕にすごく近いと思うんです。僕って、割とおとなしく暮らしているんですよ。劇中の鉄も、べらべらしゃべる男ではないので、結構演じやすかったです。ただ、関東弁はめっちゃ難しかった! 普段関西弁やと、語尾の処理の仕方がわからないんです。「『じゃん』とか言うんかな……」とかね(笑)。皆さんは、普段僕が関西弁なのを知っているから、150点くらい出さないと普通に見てくれないと思っていたので、そこはかなり苦労しましたね。
林遣都(以下、林):周平は、自分にまったくない要素ばかりを持っている男なんです。けんかをしたことは、もちろんないですし。でも、やっぱりどこかで憧れるんですよね。周平とれんのように殴り合いのけんかして、仲良くなったりとか。そういう、自分ができなかった学生時代を思いっ切り楽しむつもりで演じました。
Q:この映画では、家族同士も思い切りぶつかり合っているのが印象的でしたが、お二人は親に反抗していた時期はありましたか?
林:そういう時期はありました。最初のほうに、オレが親父に反抗して、荒れ狂うシーンがあるんですが、あそこは当時を思い出して、そのまま演じましたね。あの頃は、親父のこともお袋のこともぶん殴りたいくらいの怒りを心に抱えていたんです。でもそれができなくて、思いっ切り物に当たっていたんです。だから、あのシーンは、かなりリアルだと思いますね。
徳井:そうなんや。僕は反抗期なかったんですよ。幼稚園の頃が、ピークでしたね。
Q:幼稚園ですか! だいぶ早いですね。
徳井:そうなんです。3、4歳の頃、玄関のドアを蹴飛ばして、ガラス割って、足をめっちゃ切ったこともありましたね。それから小学校3年生くらいまでは、反抗期真っ盛りでした。でもそれ以降はパタリとなくなったんですよ。何がそんなにイヤやったんか、自分でもわからないんですけどね(笑)。
現場でのコミュニケーションは、こぶしではなく下ネタトーク!
Q:徳井さんと林さんが親子役というのは、とても面白い設定でした。実際に、お互いのキャスティングを聞いたときの感想はいかがでしたか?
徳井:撮影当時、林くんは二十歳やったんです。「オレの17のときの子か……」って思うと複雑な気持ちでしたよね。息子がえなり(かずき)くんやったら、そこまで気負わんのですけど、林くんはイケメンやし、背も高いし、ちょっと不安でした。でも撮影が終わる頃には、不思議なことに林くんを自分の息子として見られるようになっていましたね。
林:徳井さんはお父さんというよりは、お兄さんというイメージで、確かに僕も最初は不安がありました。実際に撮影に入ると、僕のことをぶん殴るシーンでも、普段見ることのないような怖い顔だったし、だんだん親父の貫禄を感じるようになってきました。
Q:他の共演者の方々も、個性的な役者さんが勢ぞろいですね。現場では、どんなコミュニケーションをとっていらしたんですか?
徳井:最初はホンマに緊張しました。中村達也さんなんて、めっちゃ怖い顔しとるし、どーしよ……って(笑)。現場は1月で寒くて、みんなで火を囲んで待機していたんですが、やっぱり結局、下ネタで盛り上がりましたね。行き着くところは、下ネタですわ。
Q:映画の中では、こぶしでコミュニケーションを図っていましたが、現場は下ネタなんですね!
徳井:はい。だって、みんな役者さんやし、こんだけ役者さんがたくさんいると、下手に芸能人の話して、「あっ! この人とこの人、昔付き合ってたんや!」とかなってもあかんし。そういうのも怖かったんで、下ネタで落ち着きました。
林:僕も1回だけ、その「下ネタの会」に居させていただいたことがあったんですが、話している内容がリアルでびっくりしました(笑)。テレビでは言えないようなことばっかりで……。皆さん本当に経験値が高くて、かっこよかったっす!
徳井:エロを背中で見せてやりましたわ。真っピンクの背中を!(笑)
若者たちは熱く! 親父たちは、安全第一のアクションシーン!
Q:アクションシーンはものすごい迫力でしたね!
林:石田(法嗣)くんが演じるれんとのけんかのシーンは、僕自身、あんなけんかをしたことなんて一度もなかったですし、男だったら、一度はああいうふうにぶつかり合ってみたいなっていう憧れもあったので楽しかったです。石田くんは、同い年だったんですが、お互いすごく気合が入っていました。撮影が始まると、すごく熱くなっちゃって。
徳井:いいね、若いモンは。もう親父チームは、安全第一がモットーでやらせてもらいました。お互いに「あ、この動きはやばいね。ちょっと危ないから、気を付けよう!」って声を掛け合いながら(笑)。もうホンマにきつくて、みんなハアハア言いながら動いていました。
Q:本当にパンチの一発や二発入っているんじゃないかと思っちゃいました。
徳井:村上淳さんが演じている五十嵐に、鉄パイプで殴られるシーンがあったんですが、その鉄パイプが、ニセモノのくせに結構硬かったんです。だから、正直めっちゃ痛くて。背中もガッツリあざできちゃってました。村上さんは、パンチやキックは当てずにちゃんとフリをしてくれるんですけど、そのニセ鉄パイプに関しては「柔らかいから大丈夫」ってスタッフから渡されているから、ガンッガン、ガチでどついてくるんです。あれは、ホンッマに痛かったです。ホンマに痛かった……。
林:僕は、原付に乗って走るシーンがあったんですけど、そのとき雨が途中からひょうに変わっていったんですよ。原付を撮影の車に引っ張ってもらってはいたので、転ぶ心配はなかったんですけど、もう目も開かないし、大丈夫かなって心配になっちゃって。でも監督に「いきましょう!」って言われたので頑張りました。
むちゃくちゃになるほど大喜び! 実はドSな熊切監督!
Q:熊切監督といえば、デビュー作の『鬼畜大宴会』以来、バイオレンス描写には定評のある監督ですが、どんな演出をされるんですか?
徳井:熊切監督は、普段はすっごくシャイな方。でも現場では、めちゃくちゃになればなるほど、テンションが上がってくるんです。だから、林くんがひょうに打たれたときなんて、大喜びやったはずですね。もうどんどん雨に打たせたいし、血のりも「もっと足そ! もっと足そ!」って言うんです。カットかかるたびに増え続けていくから、最終的には血だらけになって。この監督、ちょっとおかしいわ……って心配になりました(笑)。
林:さっきお話したけんかのシーンも、れんくんが僕を蹴っ飛ばして、鉄の柱に激突するところがあったんです。そこもかなり危なかったんですけど、監督が「今の蹴り、最高! 良かったよ~」って言うから、なんにも言えなくて(笑)。
Q:でもその迫力が、すごくリアルでした。皆さんがボロボロになりながらけんかをする姿に、元気をもらう人は多いと思います。
徳井:僕らくらいの世代は、何かしら我慢をしている世代だと思うんです。ホンマはこうしたいけどできない、とか。阿部サダヲさんが演じる、あつしもそうだと思うんです。最初、自分の娘を傷つけられて、守れなかった。でも何もできない。一番大事なものを傷つけられたときの気持ちを想像するだけですごくつらいですよね。だからこそ、ずっと我慢してきたあつしが、最後、怒りに燃えて雨の中ウワーッて立ち向かっていくシーンは、胸が熱くなりました。
林:この映画って、大事なものを傷つけられて、今まで過去の自分を捨てていた人間が、ぶち切れて、戦いに行く。「守ってやる。」っていう映画のキャッチコピーどおり、あつしさんは、まさにこの映画の象徴だと思うんですよね。僕らの世代って、いつの間にかどんどんアナログからデジタルになっていって、コミュニケーションも希薄になっている。伝えたいこともメールで済ませたり、ちゃんと正面から人にぶつかっているヤツはひと握りだと思うんです。そういう僕らの世代にこそ、映画のかっこいいオヤジたちの姿を観てもらいたいなって思っています。
雨に打たれながら、凶暴な怒りを目に宿らせた火野鉄を演じる徳井は、身震いするほどかっこいい。だが、「カット!」がかかった後に、共演者たちと下ネタトークに花を咲かせていたというちゃめっ気が、彼の人気の秘密なのだろう。瞳をキラキラさせながら、そんな徳井を楽しげに見ている林もまた、オヤジ・徳井を大好きになってしまったよう。多くの人を引き付けてやまず、自然に周りに人が増えていく……、徳井はまさに火野鉄その人だった。男たちが体を張って、「男の強さ」を表現した本作。くすぶった毎日を送っている人にぜひ観てほしい一本だ。
林遣都衣装:Vネックカットソー / アダプテーション ビーズブレスレット、ネックレス / 共にピースオブコード
映画『莫逆家族 バクギャクファミーリア』は全国公開中