映画『綱引いちゃった!』井上真央&松坂慶子 単独インタビュー
画面に映るのは「鎧」を着ていない等身大の姿
取材・文:浅見祥子 写真:吉岡希鼓斗
『舞妓 Haaaan!!!』の水田伸生監督と『フラガール』の脚本家・羽原大介が人情悲喜劇を完成させた。井上真央ふんする市役所広報課勤務の千晶は、母・容子(松坂慶子)の勤め先である廃止寸前の給食センターの職員たちを巻き込んで、大分市をアピールすべく綱引きチーム“綱娘”を結成する。全国大会まで勝ち抜けば廃止案を撤回するとの市長の言葉を信じ、綱引きに挑戦するが……? 初共演で母娘を演じた二人が語った。
井上真央=「おひさま」の陽子じゃなくてビックリ!
Q:実際に会う前、お互いにどんな印象を持っていましたか?
井上真央(以下、井上):小さい頃から松坂さんの映画を観てきたので、妖艶な、美しい方というイメージでした。「いつかご一緒できたら」と思っていましたが、まさか一緒に綱を引くことになるとは思ってもみませんでした(笑)。
松坂慶子(以下、松坂):わたしは(井上が主役の陽子を演じたNHK朝の連続テレビ小説)「おひさま」をずっと観ていたので、陽子さんのイメージが強かったです。でも実際の真央ちゃんはおしゃれで、「あ、小花プリントの開襟シャツにタイトスカートじゃないんだ!」って(笑)。実際に一緒にお芝居をすると、とても真摯(しんし)に作品に取り組んでいて、すごくしっかりしていると思いました。撮影で一か月も一緒に大分にいるといろいろと発見がありました。
井上:「よう子さん」といえば、「おひさま」ではわたしが“陽子”役だったのですが、今回は慶子さんが“容子”役。だから現場で、「よう子さん!」と呼ばれるとわたしも振り返っちゃったりして、浅茅陽子さんもいたのでとてもややこしかったですよね(笑)。
Q:母娘役はすんなりいきましたか?
井上:綱引きチーム“綱娘”のメンバーは世代も個性もバラバラなので最初は大丈夫かな? と思ったのですが、すぐ仲良くなって。慶子さんは誰に対しても気さくに話しかけてくださるので、現場が和んでいました。
松坂:そういう仲の良さが映画に出ていましたよね。メンバーの「鎧(よろい)」を着ていない等身大の姿が。カメラから離れたときも、ずっとあんな感じですよ。きゃっきゃきゃっきゃと(笑)。なかなかそういうことってないですよ。
井上:実際に経験のないところからみんなで一生懸命に練習していったのはストーリーと同じ。だからそこは演技としてつくるというより、みんなが素で綱引きと向き合う姿を監督が見ていて、面白いところを撮っていく感じでした。
吹き替えなしの本気の綱引き!
Q:撮影中も綱引きの練習をされたそうですね?
井上:撮影が終わるとジャージに着替え、ストレッチから始めて綱引きの練習をしました。みんなで同じところに泊まって、まさに合宿でしたね。
Q:競技としての綱引きを本作で初めて見て驚きました。
井上:競技の綱引きは地面に着きそうなくらいまで斜めになるのですが、あの体勢をキープするのが大変でした。いろいろな筋肉を使うし、持久力が必要なんです。撮影は実際の試合のように5~10分では終わらず、2日がかりだったりしました。たとえ1カットでも朝から夕方までやらなきゃいけないので本当に体力勝負でしたね。
松坂:そうね。手の皮がむけたりして。
Q:え! 松坂さんも一緒にやったんですか!?
松坂:そう思うでしょ。わたしもね、アップ以外は吹き替えかと思ったの(笑)。でもありがたいことに全部やらせていただきました。首や腰が痛くなっちゃったし、撮影は11月で寒かったし。でもね、映画にも登場する綱引きチーム「大分コスモレディース」の方がついてくださって、コツなどを教えてくださるんです。本当に部活動のようでした。
Q:綱引きの奥深さはどのようなところに?
井上:綱引きというと引いたり押したりするものかと思いますが、実際はずっと引いています。そのとき縦一列でかなり斜めになって引くので、相手の顔は見えません。握っている綱の感覚だけで、どちらが先に仕掛けるか、相手の動きを読むんです。もちろん声も掛け合うんですけどね。
松坂:コスモレディースの方には「勝負するにはポジティブでなきゃいけない」「チームをまとめるのは愛を持っておおらかに、前へ前へ」など、いいアドバイスをたくさんいただきました。自信がなかったですけれど、顔を見るたびに「容子ちゃんファイト!」と言ってくれたりして。楽しんでやれるよう気を配っていただいたのがありがたかったです。
個性的な役柄とキャスト
Q:それぞれが演じた役柄に、どのような印象を持っていますか?
松坂:わたしね、容子の好きなシーンがあるの。千晶の発案で綱娘のメンバーが懇親会を開くんです。お開きになってみんなを送り出すとき、容子が励ましたり「気を付けて」と声を掛けたりするんですけど、あのシーンで容子さんってみんなのことをよく見ているんだな~、すてきだな~って。
井上:千晶は真面目な公務員ですけど、どこかで火が付き、最終的には一番熱くなっている。綱引きや綱娘のメンバーとの交流を通して変化する、そんな最初と最後のギャップを見せたいと思っていました。千晶自身は受身で、みんながしでかすことを「しょうがないな」という目で見ているほうなので、笑いをこらえるのが大変でした。キャストみんなが個性的で、そのチグハグな感じが楽しかったです。
Q:完成した映画を観た感想は?
松坂:好きですよ~。これから何が始まるの!? というスタイリッシュな始まり方も好き。面白いですよね。
井上:メンバー一人一人の親子関係やそれにまつわるドラマがきちんと描かれているので、ただ笑えるだけじゃなく、最後にほっこりさせるところが“水田マジック”だなと。オール大分ロケというのも大きかったです。大分のほのぼのとした雰囲気の中、撮影もほのぼのと楽しくできて。その温かい空気が画面に出ていて良かったなって思います。
女優業を楽しみながら長く続ける秘訣(ひけつ)とは?
Q:お二人は35歳ほど年が離れていますよね。
松坂:そんなに!? 今の真央ちゃんの年齢だと、わたしはテレビドラマ「水中花」や『青春の門』といった映画をやっていた頃かしら。
井上:本当ですか!? それに比べたらわたし、ちょっと子どもっぽすぎますね。
松坂:いえいえ、格好だけですから(笑)。中身は真央ちゃんのほうがずっと大人よ。落ち着いているし、周りの人にもちゃんと配慮できるし。だいたい子どもだって、お化粧してああいう衣装を着けたらそう見えちゃうんだから。
井上:この時代に生まれてよかったです、わたし(笑)。
Q:井上さんは35年後ってイメージできますか?
井上:できない……女優をやれているかどうかもわからないですし。今はお芝居が楽しいですけど、そこまでのことは考えていないです。
松坂:でも25歳って一つの節目よね。次が35歳くらいかな。年齢によって、演じる役柄が変わってくるでしょ。わたしの場合は37歳くらいのときに『死の棘』を撮影したんですけど、そのときに遅ればせながら言われた通りにやるだけではダメなんだと思ったんです。「自分はこう思います」というのを持たなきゃって。その後、結婚もしましたしまさに転機です。ニューヨークでのんびり暮らし、毎日が日曜日みたいで楽しくて、楽しくて。それから50代は、ライフワークともいえる朗読劇「天守物語」をやってみようかとか。そうやって時々好きなことをやって充電してまた戻ると、女優という仕事が新鮮で楽しいです。わたしはそうやってあっちへ行ったりこっちへ行ったりしていたら、この年までやってこられました(笑)。
井上:勉強になります!
25歳とは思えないほどしっかり者で大人のたたずまいを見せる井上と、ほわ~んとした空気をまとい、かわいらしい声と話し方で場を和ませる松坂。年の離れた女優同士の対談ながら居心地の悪い緊張感はゼロ。共に東京を離れて一か月近くを大分で過ごし、綱引きという競技と向き合って撮影に挑んだせいか、戦友のような親密な空気が漂う楽しい対談となった。それは、女優さんっていろいろな意味で年齢を超えた存在なのだと実感する時間でもあった。
(C) 2012「綱引いちゃった!」製作委員会
映画『綱引いちゃった!』は11月23日より全国東宝系にて公開