映画『グッモーエビアン!』麻生久美子&大泉洋 単独インタビュー
形は変わっていても、ステキな家族の物語
取材・文:轟夕起夫 写真:高野広美
2004年、新潮社主催の「第3回女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞をダブル受賞した吉川トリコによる同名小説を映画化した『グッモーエビアン!』で、初共演した麻生久美子と大泉洋。麻生は元パンクバンドのギタリストで、17歳にして母親になったアキを、大泉は元ボーカリストで根っからのフリーダム野郎を好演。さすが劇中、バンドを組んだ仲である。二人の対談はセッションのような楽しい時間をもたらした。
全てのキャラクターに感情移入できた
Q:大泉さんが演じられたヤグは、元パンクバンドのボーカルで約2年間も海外放浪の旅に出ていた自由人。一方、麻生さんが演じられたアキは、そのバンド仲間で現在はヤグと暮らしている良きパートナー。振り返られて、それぞれの役への感想をお願いします。
大泉洋(以下、大泉):ヤグはもちろんパンクな精神の持ち主なんですけど、好き勝手に生きている、というよりは純粋無垢(むく)な……子どものまんま成長してしまった大人ですかね。でもとにかく優しくて、目いっぱい、家族や周囲のみんなを愛している。いいヤツですよ。
麻生久美子(以下、麻生):そんなヤグのことがアキはかわいくて仕方ないんだろうなって感じがしました。アキは、ヤグに比べたらもう少し現実を見ているほうですが、考え方自体はロックで、「面白ければいいじゃん!」というノリなので、彼女も自由な人だと思います。ヤグとアキは籍を入れていないし、ヤグと娘のハツキは血がつながっていない設定ですけど、家族の形は変わっていても、いい関係なんですよね。
Q:そのハツキ役の三吉彩花さん、かわいかったですね!
麻生:かわいくて、そしてお芝居がとってもうまいんですよねえ。
大泉:ホント、素晴らしかった。彩花ちゃんの友達役、能年(玲奈)ちゃんとのシーンがまたいいんですよね。
麻生:そう。若い子たちがふと互いを傷つけてしまうところが、切なかったです。
大泉:この作品の台本を読んだとき、セリフがリアルで、全てのキャラクターに感情移入できたんです。とても気に入っている作品ですね。
妊婦であることを告げずに、撮影を敢行!
Q:現場では当時、妊娠4か月だった麻生さんに、気を使われたんじゃないですか。
大泉:いや、それが鈍感だからさっぱり気付かなかったんですよ(笑)。「常に具合の悪い人だなあ」と思っていたくらいで。がっかりですよ、自分の鈍感さ加減に(笑)。
麻生:あはは。皆さんには言っていなかったんです(笑)。撮影の邪魔をしたくなかったので。
大泉:僕は去年子どもが生まれているから、妊婦さんだと知っていたら、うっとうしいくらいに気を使っていたと思います。ちょっと走るだけでも「そんなこと、妊婦にやらせちゃダメだ!」って。大変だったでしょ、夜の公園でのシーンとか。
麻生:あそこは確かに寒くてツラかったですね。
大泉:僕がもし旦那さんだったら絶対に怒っていますよ! 妊婦はおなかを冷やすのが一番いけないんだから。あのシーン、朝方くらいまで撮っていたでしょ。
麻生:はい。結構時間がかかって。でも監督には事情を伝えてあったので、あそこはちゃんと体のこともケアもしていただけました。
現場では、監督からのムチャぶりも
Q:監督の山本透さんは、どんな演出をされる方なんですか?
麻生:大泉さんに対してはムチャぶりが多かったですよね。
大泉:そうそう。ハツキが部屋にいて、その奥のリビングでヤグとアキが話しているシークエンスが結構多かったんですが、漏れ聞こえるくらいの会話だから台本がなくて、それでやたらとアドリブを要求されて。
麻生:「面白い会話を一つ、お願いします」って。それで二人でたくさん話して。
大泉:ヤグが言いそうなことをアドリブでやるのは、難しいんですよ。どうせかすかにしか聞こえないんだからって、多少いいかげんな話もしていたかもしれません(笑)。
Q:麻生さんに対するムチャぶりはありましたか?
麻生:わたしはなかったと思います。ただ、アキのキャラクターをどうするかという難題があって、台本を読んだ印象ではクールでカッコいい母親で、監督には「今まで見たことのない演技で」と言われたんですね。結果、イメージしたものと、監督の考えられたアキ像とのズレを修正しつつと、そういう繊細な演出でした。
Q:この映画のハツキのエピソードを観ていると、過ぎ去った思春期がよみがえってきますね。
大泉:ハツキは、とても真っすぐな子なんですよ。でもヤグとアキという破天荒な二人に育てられているので、人よりも悩み、苦労をしている(笑)。思春期ならではの反抗もあって、この時期を越えれば、もっと二人の愛情にも気付くでしょう。ヤグはともかくとしても、アキは型破りだけども母親としてやるべきことはちゃんとやっていますから。
麻生:わたしは子どもの頃、ハツキと環境が似ていたんです。血のつながっていないお父さんとも暮らしていましたし。だから、ハツキが考えていることや、悩みは結構わかるなって。実は、一番共感できたのはハツキだったんですよね。
映画の中で、バンドを組んだ二人の感想は?
Q:ぜひ、このお話も。お二人のライブシーンでのパフォーマンス、圧巻でした!
大泉:麻生さんに比べれば僕は……。
麻生:いやいやいや。
大泉:僕ね、パンクって全然わからなくって。監督からいろいろ教えていただいて、映像も見させてもらったんですけど、みんな、ガナっているんですよ。あんなことをずっとしたら、喉があっという間に焼き切れてしまう(笑)。それが怖かったですね。
麻生:素晴らしかったですよ。もともと「身体能力の高い人」というイメージはあったんですが、ステージ上でのあのジャンプも相当な高さがあって、足もカッコよく開いて上がっていましたし。「大泉さん、すごい!」と思いながら見ていました。
Q:麻生さんは、監督からこだわりのグレッチのギターを渡されたそうですね。
麻生:そうなんです。「ギターを持つ位置は低く、腰で弾く」とアドバイスも受けて、自宅に持ち帰って練習しました。でもわたし、今回初めてギターを弾いたので、どこまで監督の思い入れに応えられたか……。
大泉:コードの押さえ方もかなり練習されていましたよね。
麻生:難しかったです。どうしても弾けないところは最初、簡単なコードに変えてもらったりもしましたが、練習していたら、だんだんと弾けるようになってきて、それでも本番ではちょっと失敗しちゃって……。
大泉:どこを失敗したのか全くわからなかったですよ。一緒にやった僕から見ても。
Q:もし、この映画のプロモーションのために「ライブで歌ってください」となったら?
麻生:無理無理(笑)。もう全部忘れちゃいましたよ、わたし。
大泉:さっき、「新たに練習して、もっと上手にやりたい」とおっしゃっていませんでした(笑)?
麻生:言いましたねえ。でもやっぱり、映画は完成しちゃったし、いいかな(笑)。
大泉:あのライブシーンを撮ったときのモチベーションに戻すのは、大変ですもんね。
麻生:そうそう! 本当に大変なことですよ(笑)。
終始、笑い声の絶えない対談に。作品にちなんで大泉が自らの引っ越しの面白エピソードを披露。「学校で涙のお別れ会をしてもらって、家に帰ったら父親が“良かったな洋、引っ越しが1週間延びたぞ”って。それからの1週間のバツの悪かったこと……」。麻生さんは吹き出しながら「なんで大泉さんの周りには、そんな面白いことばかりが起きるんだろう!」と感心しきり。さて、なぜ引っ越しのエピソードになったかは、この映画『グッモーエビアン!』を観ればわかります。お楽しみに。
(C) 2012『グッモーエビアン!』製作委員会
映画『グッモーエビアン!』は12月15日よりテアトル新宿ほかにて全国公開