『ボクたちの交換日記』内村光良監督&伊藤淳史&小出恵介 単独インタビュー
自分で下した決断なら、どんな選択も間違いではない
取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗
売れないお笑いコンビの夢と葛藤を描いた鈴木おさむの感動小説「芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~」を、ウッチャンナンチャンの内村光良が映画化した『ボクたちの交換日記』。2005年の『ピーナッツ』以来7年ぶりにメガホンを取った内村監督と、結成12年目で30歳を目前にしながらも、売れる兆しの全くないお笑いコンビ「房総スイマーズ」の生真面目な田中を演じた伊藤淳史、一見奔放な甲本を演じた小出恵介が、とにかくチャレンジの連続だったという撮影時の思い出を語った。
伊藤と小出が内村作のコントに初挑戦!
Q:伊藤さんのボケと小出さんのツッコミが、意外なほどハマっていました。
内村光良監督(以下、監督):最初は小出くんに田中をやってもらおうかなと思っていたんですけど、初めて一緒に食事をしたとき、テレビや映画のイメージとは違って「ガサツな荒くれ者」という感じだったんです(笑)。そこが甲本にピッタリだったので、彼を演じてもらうことになりました。田中役は、友人としても役者さんとしても信頼している伊藤くんならできると確信していました。
小出恵介(以下、小出):原作を読ませていただいたとき、すごく感動的ないいお話だと思ったんですけど、実際にお笑い芸人を演じるのは難しいし、勇気が要ると思ってちょっと考えてしまいました。でも、甲本というキャラクターがとても好きだったので、挑戦させてもらいました。
伊藤淳史(以下、伊藤):人を笑わせるというのは本当に難しいですよね。僕も、それをお芝居で表現できるのだろうか、という不安があったんですけど、お笑いのプロの内村さんが監督をされるのなら、コントも含めて全部お任せできる。それなら大丈夫かもしれないと思いました。
Q:劇中のコントも全て内村監督が手掛けていたそうですが、伊藤さんと小出さんをイメージして書き下ろしたんですか?
監督:最初は既存のものをやってもらったんですけど、あんまりウケないんですよ。二人のキャラクターがわかってきて、それに寄せて書いたらウケるようになっていった。やっぱり、その人に合うコントってあるんですよね。コントを誰かに教えるというのは今回が初めてだったので、僕自身も勉強になりました。
小出:監督のコントへのこだわりがすごかったです。絶対に妥協しないし、言葉の一つ一つにお笑いのプロの方ならではの説得力がある。コントをやるのは今回が初めてだったんですけど、監督の情熱に何度も助けられました。
伊藤:コントでは本当に苦労しました。これはヤバイと、自宅でも鏡に向かって練習しまくりましたね。一人でボケていたら、うちの奥さんが笑ってくれるので、それが励みになりました。あと、奥さんが甲本のツッコミ部分を読んでくれたりして、すごく助かりました。これ、単なるノロケです(笑)。
小出:いいなあ(笑)。
監督:ホントいい奥さんだよね!
「スベる」ことのつらさをステージで実感!
Q:コントの練習の一環として、実際にお笑いのステージにも立たれたそうですが……?
監督:アウェイ感満載でしたね(笑)。最初はお客さんに「キャー!」って歓声で迎えられるんだけど、いざネタになると急にお笑いを見る目に変わるんだよね。
小出:かなり厳しい目でしたね。不安で顔が引きつっちゃいましたよ。焦ってしまって、相方の言葉を待てないんです。全然テンポが取れなかった。
伊藤:みんな、「スベっちゃったよー」ってよく言うじゃないですか。でもそんなの全然スベってないです(笑)。スベるというのがどういうことなのか、全身で感じましたね。ステージが終わって帰るときの、車の中のテンションがすごく低くて。思わず窓を開けたくなるほど空気が重かったです(苦笑)。あんな思いは二度としたくないと思いました。
監督:その経験があったので、次のコントの稽古では二人の目つきが真剣そのものに変わりましたね。
Q:舞台のお芝居とコントも、全く違うものなんでしょうね。
小出:そうですね。例えば、舞台のお芝居で笑わせるくだりがあったとしても、それは芝居の一部だから、本当に笑ってもらわなくてもいい。でも、コントには笑わせるというゴールがあるわけですよ。そこが大きく違うし、本当に難しいと実感しました。
売れないお笑いコンビを支える女たち
Q:田中と甲本を支える女性たち(長澤まさみ・木村文乃・川口春奈)は、男性にとって理想の女性像なのではないでしょうか?
監督:そう、僕の理想です(キッパリ)。あんまりこういうこと言うと嫁さんに怒られちゃうかな(笑)。まさみちゃんは、甲本の恋人から妻へ、そして一児の母になっていく過程を見事に演じ分けてくれたし、田中のパートナーになる文乃ちゃんは笑顔が最高! 甲本の娘の春奈ちゃんは、自分の娘にも「こうなってもらいたい」という願いを込めて脚本を書きました。彼女たちは男にとって「理想の支える人々」であり、「見守る人々」ですね。ずっと一緒にいてくれる人の存在って、すごく勇気づけられるものなんですよ。
Q:田中と甲本の心情を、水泳のシーンで表現していたのも印象的でした。
監督:最初は海で泳いでもらうイメージだったんですけど、よくよく考えたら海は危険だなと(笑)。それでプールに変更したんですけど、コースに分かれているところが別々の道を選ぶ二人の関係を暗示させて、かえってよかったです。小出くんはもともと泳ぎがうまいんだけど、コーチの方に指導してもらったらもっとうまく見えるようになった。呼吸の仕方一つであんなにも違って見えるものなんだなと実感しましたね。
小出:自分でもびっくりするくらいフォームが変わりました。
監督:伊藤くんは泳ぎがあんまり得意じゃなくて、特に飛び込みが苦手だったんだよね。「あれ? 『海猿』じゃなかったの?」みたいな(笑)。
伊藤:『海猿』は映画第1作で出番がなくなっちゃいましたから(笑)。でも、飛び込みは本当に苦手でしたね。水泳シーンの撮影前に特訓したんですけど、全然必要ないはずなのに監督が一緒に泳いでくれたんです。あれは感激でした!
監督:いや、心配だったから(笑)。振り返ってみると、皆でコントをやって水泳をやって、まるで学校の部活のようでしたね。
内村監督の次回作の構想とは?
Q:人生の目標や夢について考えさせられる本作ですが、皆さんは作品を通じて何を感じましたか?
監督:夢を追う人と諦める人、二つの男の生き方を描いている作品なのですが、どちらも自分で下した決断だから、間違いではないんです。夢を追う人はそのまま成就させてほしいけど、諦めた人も別の道でまた違う夢が見つかる。僕はそう信じています。
伊藤:僕は、現実的に手が届く範囲を超えたものが夢だと思っているんですけど、そういうものを持っているだけで頑張れることがある。ちょっと横道にそれちゃったとしても、それは次の何かにつながるもの。だから、小さくても大きくても、夢があれば毎日を前向きに過ごせるのかもしれませんね。
小出:この映画の二人は、一緒に成功を夢見て、やがて別々の道を選んでいくんですけど、お互いが一番幸せな時期を共に過ごしていたような気がするんです。夢を持っている人、かつて持っていた人は、皆同じように感じてくれるんじゃないですかね。
Q:最後に、内村監督の次回作の構想を教えてください。
監督:機会があるなら、もっとコメディー色の強い作品がやりたいです。今回の映画で、体調が悪いのに性欲が抑えられない小出くんを、まさみちゃんがひっぱたくシーンがあるんですけど、あそこが一番映画的な笑いだったと思うんです。次はコントではなく映画的な笑いをもっと勉強して見せていきたいですね。実現したら、二人も友情出演でもいいから出てくれるかな?
小出:もちろんです! 何の役でもやります! コンビニ店員でもいいです!
伊藤:絶対やります! お願いします!
監督:ありがとうございます(笑)。
劇中で息の合ったボケとツッコミを披露している伊藤と小出。その裏には、本気でコントに挑んだ二人の努力と、お笑いを知り尽くした内村監督の情熱があったことをまざまざと感じた。仕事以外は会話をしなくなってしまったコンビが、交換日記という形で吐露する本音には、決して甘くはないお笑い界のリアリティーがあふれている。その中を全力で駆け抜けた男たちの物語は、人生に迷いを感じている人に大きな勇気を与えてくれるだろう。
映画『ボクたちの交換日記』は全国公開中