『相棒シリーズ X DAY』田中圭&川原和久 単独インタビュー
役者としてのこだわり
取材・文:前田かおり 写真:奥山智明
人気テレビドラマ「相棒」シリーズの新作映画『相棒シリーズ X DAY』。今回の主人公は、放送開始以来、水谷豊演じる杉下右京が所属する特命係を目の敵にしてきた警視庁刑事部捜査一課刑事の伊丹憲一と、新キャラクターでサイバー犯罪対策課専門捜査官の岩月彬。この二人が相棒となり、データ流出事件を発端に明らかになっていく政財界を揺るがす巨大な陰謀に立ち向かっていく。異色のコンビで主人公を務めることになった川原和久と田中圭が、本作への思いを語った。
伊丹が主役に 国民的人気シリーズへの参加
Q:12年もの間、演じられてきた伊丹刑事が『相棒シリーズ X DAY』でついに主人公となったわけですが、今回はどのような思いで演じられたのでしょうか?
川原和久(以下、川原):12年もやってきたせいかもしれませんが、あんまり主役、脇役の感覚はないんです。主役と言っていただいているけれど、やっぱり伊丹は伊丹だから、僕はいつも通りにやればいいかなと思っていました。
田中圭(以下、田中):僕はこの映画に出ると決まったときには、「いやいや、本当に?」と思いましたよ。何しろ「相棒」はものすごい作品ですから、プレッシャーも感じたし、怖いなとも思った。だけど、撮影が始まってしまうと、いつもと同じことをするだけなんですよね。出番の多い少ないにかかわらず、俳優としてその役に対して一生懸命やるということだから、岩月という男をどう生きていくか、伊丹刑事とどう過ごしていくかということを考えて演じていました。だから、僕も川原さんと同じで、主役という意識はあまりなかったです。
川原:ええー、そうだったの?
田中:そうですよ! 主役という言い方をされると、確かに主役ですけど、「相棒」の世界では、新参者の僕が主役って……なんか違う気がします(笑)。
新「相棒」の相性は?
Q:お二人は初共演ですよね! でも、ああ言えばこう言うという感じで、息がぴったり合っていると感じました。昔、寺脇康文さんが出演していらっしゃったときの伊丹と(寺脇演じる)亀山(薫)の関係を思い出しました。
川原:特に、意識したわけではなかったんですけどね。確かに、神戸(及川光博)、甲斐(成宮寛貴)とはそういう関係ではなかったので、岩月は久しぶりに亀山のときのように嫌味合戦ができる相手で、楽しかったですね。
田中:最初、僕は川原さんが怖い方なのかもというイメージがあったんです(笑)。本当はそんなことはないと思いつつ、12年も「相棒」シリーズをやっている川原さんと肩を並べて、大丈夫なのかなって。現場でも、カメラが回っていないところでは、あまりお話をしていなかったので、ひょっとして相棒として認めていただけなかったらどうしようと心配していたんです。でも、そうは思われていなかったようで、安心しました。
川原:僕はいい年して人見知りなんで、初対面の田中くんとはそんなに話をしなかったんです。でも、テストの段階で、田中くんとは「大丈夫だ」と確信していました。監督もそう感じたから、あとはお任せみたいなことになったんだと思います。それに、田中くんは現場でよく寝ていたので、あんまり話をする暇もなかったし(笑)。
田中:それは、うそです、うそ(笑)。
Q:お二人のやり取りの中で、アドリブはあったんでしょうか?
田中:本番でいきなりというのではなくて、テストでやりとりしているうちに、言い方を変えたりしたのはありましたね。例えば、岩月が伊丹と携帯の電話番号のやり取りをするシーンで、“赤外線通信うんぬん”のくだりは台本になかったですし……。
川原:僕は12年もやっているから、どうしてもこの言い方は伊丹じゃないと気になると、監督に相談して変えてもらったりしています。例えば、台本で「刑事(デカ)」となっているのを、「刑事(けいじ)」に変えさせてもらったり。
レギュラー陣が大活躍!『相棒シリーズ X DAY』の魅力
Q:今回の脚本は、伊丹刑事もそうですが、普段のドラマではわからない、脇で働いている方たちが、普段何をやっているのかが細かく描かれていると思いました。
川原:脇であっても、テレビシリーズの中では出番の多い回もある。多いときは当然、いろんな情報が提供できる。今回はまさにそれだったんだと思います。それに映画だから、監督もそれぞれの俳優さんにサービスした部分もあるんじゃないかな。僕も観ていて、自分が出ていないところで、いつも一緒にいる捜査一課の仲間たちがこんなことをしているのかとか、伊丹が抜けるとこうなるんだとか、いつもとは違う発見がありましたね。
Q:そういう意味では、伊丹ファンにとっての発見はどうでしょう? クライマックスで走っている姿が印象に残りますが。
川原:残念ながら『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』みたいに、どっかの駅前でギターを弾きながら歌ってはいない(笑)。プライベートを描くと、この映画は出来上がらなかったでしょうね。走ったということに関しては、本当にたくさん走らされましたね。テレビシリーズでもないことはないけど、普段から走り込んでいないので、すごい形相になってしまって。あっ、あくまでも演技ですが(笑)。
田中:でも、車の上を走るシーンでは、ラッキーだと思いましたよ。映画ならではの“うそ”ですよね、実際にあんなことをやったら、車の持ち主に怒られてしまう(笑)。
川原:そうそう、なかなか経験できない。人様の車の上を走るなんて。
もしもX DAYがやって来たら……?
Q:最後に、もし映画のようにX DAYが来て、日本で金融封鎖が起こったらどうします?
田中:いやー、僕は寝ますね(笑)。岩月が最後に言う、「難しいことを面倒だと逃げていると、X DAYが来ちゃいますよ」というセリフは、金融封鎖に限らず、いろいろなことに言えるんですよね。自分自身にも響きました。
川原:僕は、俳優で食べられない時代もあって、バイトもしました。借金もあったりして、それを全部返して、ようやく貯まってきて、落ち着いた暮らし向きができるようになったというときに、一切使えなくなったら、どうしてくれようかって思います(笑)。
Q:ちなみに、今回登場した伊丹と岩月の「相棒」ですが、今後、登場する予定はあるのでしょうか?
田中:んー、それは僕たちにはわかりません。ただ最初、この映画に出るという話だけだったのが、テレビシリーズの方にも出させていただくことになって。また岩月が登場できたらうれしいなと思います。
川原:まあ、僕が見てきた感じでは、次があったら出てきてもおかしくないと思いますよ。サイバー犯罪対策課という部署だし、ゲストとして登場した月本幸子(鈴木杏樹)が「花の里」(劇中の小料理屋)の女将になり、「特命係第三の男」として出演した陣川くん(原田龍二)も出続けているしね。
水と油のようにぶつかりながら、いつしか絶妙なチームワークを見せていく伊丹と岩月を演じた二人。取材部屋でも演じたキャラクターさながらの息の合ったところを見せていた。唯一無二のモンスターコンテンツとなった「相棒」シリーズから新たに誕生した異色の「相棒」。本家とはひと味もふた味も違う魅力をぜひ劇場で楽しんでほしい。
映画『相棒シリーズ X DAY』は3月23日より全国公開