『ラストスタンド』アーノルド・シュワルツェネッガー 単独インタビュー
引退するという考え自体が理解できないよ
取材・文:吉川優子
カリフォルニア州知事を約7年務め、ハリウッドから長らく遠ざかっていたアーノルド・シュワルツェネッガー。主演復帰第1作となった痛快アクション『ラストスタンド』で演じたのは、メキシコ国境近くの田舎町に住む初老の保安官。移送中に逃走した麻薬王がその町を通過することがわかり、実戦経験のない部下たちと共に「最後のとりで」を死守しようと立ち上がる。シュワルツェネッガーが、政治家としての経験や、これまでの人生を振り返りつつ、10年ぶりの主演作に対する思いを語った。
シュワルツェネッガー印のアクション要素が勢ぞろい!
Q:なぜこの映画を久々の主演作に選んだのですか?
この映画には、銃撃戦やカーチェイスなど、シュワルツェネッガー・アクション映画に必要だと思える要素が全てあったからだよ。それに、こういう心に傷を持った男というのは、これまで僕が演じたことがない役だ。コミカルなところがあるというのもアクション映画にはとても大事だと思った。キム・ジウン監督と仕事ができるということもあったよ。主演映画となると、全ての責任が自分に掛かってくるけど、幸運なことに、スライ(シルヴェスター・スタローン)の『エクスペンダブルズ』に出演して、少しウオームアップすることができたしね。
Q:この役のために何か特別なトレーニングはしましたか?
トレーニングはいつもしているよ。毎日、ウエイトとかカーディオトレーニング(有酸素運動)、自転車、スイミング、冬にはスキーといろんなことをやる。そういったことに僕はすごくアクティブだ。だから、こういう役をやるとき、映画のためにトレーニングを始めないといけないってことはない。武器のトレーニングも同じさ。スタントチームとファイトシーンの準備はしたけどね。
Q:撮影現場で9針縫う大けがを負いながら、すぐに撮影に戻ったそうですね。なぜそこまでやるんですか?
みんなが僕のことを待っているからね(笑)。あるシーンを撮影している途中だったんだ。頭をぶつけて、すぐに救急室で縫ってもらい、戻って撮り続けた。気を失ったり、足を折ったりしたわけじゃないから、戻らない理由はないよ。傷跡ができてしまったけど、デジタル技術で削除できるからね。
Q:映画の中で年を取ったことをギャグにしていますが、年を取ることでいいことは何だと思いますか?
年を取るのは最悪だよ(笑)。良いことなんてないと思うな。まあ、もっと賢くなるし、10年前よりも今の方が演技もうまくなったと思うよ。州知事として経験したことのおかげだ。でも、それ以外のことでは、年を取ることには何の利点もないよ。心では30歳になりたいと思っているけど、体はそれについていけない。いろんなことをやるのが大変になるんだ。最後にやった『ターミネーター3』から10年たったから、もちろんいろんなことが変わったよ。
州知事経験で演技が上達?
Q:州知事をやったことで、ご自身がどのように変わったと思いますか?
普通はできないようなことを経験することができたよ。違う生活、違うチャレンジがある。考えたこともないような問題を扱わないといけない。30分ごとに、まったく新しい、違う議題についてのミーティングがあるんだ。 それは当然、人に影響を与えるよ。議会議事堂がクラスルームのようになるわけだからね。以前は気付かなかったことや、知らなかったことを学べるのは、まったく素晴らしい経験だったよ。
Q:近年アメリカで起きた乱射事件と映画における暴力描写の関連性についてよく質問されると思います。あなたの母国オーストリアや他国の規制から学ぶものがあると思いますか?
違う国や、違う法律、違う歴史を持ったところから、何を学ぶことができるかはわからない。ヨーロッパでも銃を使った暴力事件が起きるし、アメリカでも起きる。シカゴは最も銃規制が厳しいところだけど、殺人件数も最大だ。だから、銃規制だけについて考えるのは単純化しすぎた見方だと思う。子育てや教育制度、学校における安全性、そして銃規制を検証しないといけない。精神疾患への対処も必要だ。精神状態に不安を抱える子どもたちをどう治療するのかといった全てを考えないといけないんだ。
ハリウッドで成功した理由とは?
Q:最近、自伝本を出版なさいましたが、ご自分の人生を分析したことで、学んだことはありましたか?
驚いたよ。言えることはそれだけだ。僕はチャンピオンになりたかったし、アメリカに来たかったし、何億円も稼ぎたかった。多くの人々がそれを実現できることはめったにないということには、あまり注意を払わなかった。僕は、そういったこと全てを自分で考え、達成しないといけなかったのだと振り返ってみたんだ。あのモチベーションややる気は、一体どこから来たのか……とね。クレイジーだよ。
Q:そのやる気はどこから来たと思いますか?
もちろん環境や、ある程度遺伝や幼少期のしつけといったことが関係していると思う。いろんなことのコンビネーションだね。兄弟との競争心や、父親のタフさとか。いろんなことが混ざっていると思う。ボディービルディングを終えたとき、「オッケー。次に僕はハリウッドで主役をやりたい」と思ったわけだけど、それはとても自然なことだった。僕にはビジョンがあったんだ。とてもクリアーで、実現可能だと思えた。なぜそんなに信じ込むことができて、自信を持てたのかはわからない。でも、あまりにはっきりしたビジョンで、まるで現実そのものだった。その現実に向けて頑張ればよかったんだ。若いときにはそんなことはまったく考えなかったけど、今回人生を振り返って、かなり自己分析をしたよ。
Q:政界とエンターテインメント業界では、どちらの世界の方が大変ですか?
政治は1日24時間だ。夜には資金集めのイベントをやらないといけないし、人々が常に何かの問題を持って近寄ってくる。問題は常にあるし、災害は常にある。僕の家族にとって、本当に大変なことだったよ。
Q:お子さんたちはエンターテインメント業界入りを望んでいますか? それとも政界入りを目指されている?
わからないよ。今、子どもたちは大学に通っている。彼らは演技に興味を持っている。テレビの仕事やビジネスにも興味を持っている。どういう方向に進むのかは、彼ら次第だよ。
引退はしない!楽しみを追い続ける!
Q:引退したいと思うことはないのですか?
引退するという考え自体、僕には理解できないよ。そもそも何から引退するっていうんだい? 楽しむことから引退するの? 僕は映画をやることをとても楽しんでいるし、シュワルツェネッガー・インスティテュート(南カリフォルニア大学の政策研究機関)や、健康やフィットネスの奨励も楽しんでいる。アーノルド・クラシック(ボディービル大会)やフィットネス・エキスポも運営しているんだよ。なぜ、そういういったことをやめなくてはならない? 何をするっていうんだい? わからないよ。だから、答えはノーだ。引退したいなんて思わない。重要なのは、こういった全ての活動を組み合わせられるように、シナジー(相乗効果)を作り上げることだよ。
久々の主演作で、いつもながらのアクションだけでなく、ひと味違う深みを見せてくれたシュワルツェネッガー。常に体を鍛えているだけあり、65歳には見えないさすがの若々しさだ。州知事を辞めてからすでに複数の映画に出演したほか、『コナン・ザ・グレート』や『ツインズ』『ターミネーター』続編の話も浮上しており、自身もとても興味を持っているという。引退にはまったく興味がないということなので、今後もアクション映画やコメディー映画で、さらなる活躍を楽しめそうだ。
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映画『ラストスタンド』は4月27日より全国公開