『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』要潤、夏帆、時任三郎 単独インタビュー
スリルと勢いが現場にあふれている
取材・文:前田かおり 写真:金井堯子
時空ジャーナリスト・沢嶋雄一がタイムワープ技術を駆使してあらゆる時代の名もなき人々に密着し、歴史の真実をスクープするさまを描くNHKの人気テレビシリーズがついに映画化。番組開始から主演を務めてきた要潤が沢嶋にふんするのはもちろんのこと、劇場版では、夏帆が沢嶋の相棒となる新人ジャーナリスト、時任三郎が取材対象の武士を演じている。“体感型”戦国タイムトラベル映画に挑んだ三人が撮影秘話を語った。
臨場感あふれる映像は“ぶっつけ本番”で
Q:人気テレビシリーズの待望の映画化ですね!
要潤(以下、要):5年前に試験的な番組として始まってから、着実に認知度を上げてきて、そして今回映画化されることになり、これまで監督やスタッフと積み上げてきたものは確かなものだったんだとうれしく思いました。なので、もう「本当に幸せだな」と思って撮影に取り組みました。
夏帆:テレビシリーズを拝見していたので、このお話をいただいたとき、てっきり取材対象者役だと思っていたら、タイムスクープ社(注:時空ジャーナリストが所属する未来の通信社)の社員役だったので驚きました。それにセーラー服を着ることになったこともびっくりでした。あ、まだセーラー服、イケるんだって(笑)。
時任三郎(以下、時任):クランクインしたとき、僕は要君と別のドラマ(注:「TOKYOエアポート ~東京空港管制保安部~」)で共演していました。で、そちらのドラマでは僕らはどこかに出張に行くという設定でいったん抜けて、「タイムスクープハンター」の現場を終えてから、またそちらのドラマに戻ったんです。まさにタイムトラベルでした(笑)。普段、僕はそういった掛け持ち的な仕事の仕方はしないんですが、「タイムスクープハンター」にはすごく興味がありました。このドラマの映像の力強さってどこから来ているんだろうと思っていて。それでこの映画の話をいただいたときに、「ぜひ、やらせていただきたい!」ということになったんです。
Q:力強い映像の秘密とは一体何だったのでしょう?
時任:この作品は基本テストなしで撮っていて、そのスリリングさと勢いが現場にあふれているんです。だからこそ、映像にも力強さが表れるのだと思いました。他の現場だと、最低でも1回はテストがある。少なくとも3回ぐらいはあるかな。でも、「タイムスクープハンター」はぶっつけ本番。「ダメだったら、もう1回やればいいじゃん」という感じ。セリフも「こだわらなくていいから、アドリブでやってください」って言われるんです。でも、時代劇言葉のアドリブって、難しくてできないんですよ(笑)。例えば、『大丈夫か』と言うと、「『大丈夫か』は使えないんですよ。『無事か』でお願いします」って言われたり。とても刺激的で面白い現場でしたね。
要:実は、最初から“ぶっつけ本番”だったわけじゃなく、初めの頃はセリフも変えずにカッチリ撮って、僕が出るところは別撮りしていたんです。でもそういう撮り方は、この「タイムスクープハンター」にはどうもしっくりこない。そこで「じゃあ、ドキュメンタリー風に撮ってみよう」となったんです。台本はあるんですけど、どの人がどう動くかわからない。それをカメラマンが撮る。そこから、すごく臨場感が出るようになりました。もちろんアクションシーンは“ぶっつけ本番”だと危ないので、それ以外のところでですけどね。
台風さえも味方に付ける!
Q:沢嶋が画面に映り込んでいてもいなくても、要さんはいつもカメラの横にいるそうですね。これもシリーズを重ねていく上で出来上がったスタイルですか?
要:そうですね。(中尾浩之)監督が撮影中にアイデアを思い付くこともあるし、何かハプニングが起こることもある。そのとき、現場を取材している沢嶋がすぐに「どうしたんですか?」「今、何が起こったんですか?」と聞ける環境にないと、「タイムスクープハンター」は成立しない。画面に映らないからそこにいなくてもいい、というのは通用しないんです。そういったところも、5年続けてきた中で固まっていったという感じです。スタッフは本当に一流の人ばかりで、みんな作品への愛情もすごくて、各自持ち寄りのアイデアもある。特に監督がいろいろとアイデアを出されるんですが、「どれもいいですね」と言いたくなるものばかりなんです。心底信頼しています。
夏帆:わたしは映画からの参加なので、そんな強いチームワークの中で「足を引っ張っちゃいけない」とすごくプレッシャーを感じていました。現場で要さんを見ていると、とても自然体で演じていらっしゃって、わたしもそれを見習ってスッと現場にいられるようにしようと思いました。ただ、今回は撮影日数が少なく、役をつかみ始めたところで終わってしまったので、機会があればリベンジしたいです(笑)。
Q:撮影で印象に残っていることはありますか?
要:たくさんありすぎるんですが……(笑)。でも一番は、台風が来て「まさかこの状況で撮影しないよね」というところでも無理やり撮影をしたことですね。いろんな映画があるけれど、自然の雨風も味方に付けるのは「タイムスクープハンター」だけですよ。テレビシリーズで平安時代のエビソードを撮ったときにも大雪が降って、見たこともないような映像が撮れたんです。
時任:(台風の影響で)本当に森が動いているように撮れたもんね。「タイムスクープハンター」のすごいところは消去法じゃないってところですね。「これもダメ、あれもダメ」という消去法じゃなくて、「こういうものあるだろう、できるだろう、もしかしたらあるかもしれない」という姿勢で撮影に取り組む。そうすると、もう楽しくてしょうがないですね。時代劇にはもちろん様式美というのもあるけれど、それとは違う方向性で本作は成立していて。演じる側も現場が許してくれているからイマジネーションが湧いてくる。本当に楽しかったですね。
夏帆:わたしは、いろいろな時代に行けたのがすごく楽しかったです。毎回、周りの人も、景色も、衣装もどんどん変わっていったので。シーンごとにまとめて撮りましたし、他の作品のようにかちっとしたカット割りもないので、本当にタイムワープしてその時代に行ったような感覚になるんです。
要:確かに。現場に入って取材対象者役の人たちに囲まれていると、その時代に来ちゃった気になります。
“特殊な交渉術”はやっぱり明かせない!?
Q:本作では、タイムスクープ社の内部も描かれますね。
要:監督と「いつかは描きたい」って話していたんです。タイムスクープ社には第一調査部と第二調査部があって……という設定はずっとあったんですが、ようやく実現しました。今後ももっと描いていこう、というアイデアもあります。
時任:でも、彼らの特殊な交渉術は絶対に言えないんでしょ?(注:時空ジャーナリストは特殊な交渉術によって、不審がられずに取材対象者にカメラを向けることが可能になる。ただし極秘事項のため、シリーズを通してその詳細は一切明かされていない)
要:ええ、だめなんです。それ言っちゃうと、沢嶋、クビになっちゃうんで(笑)。
Q:でもここだけの話、どうやって交渉していると思いますか?
時任:何か特別な機械を使っているんじゃないかって気がしますけどね。マインドコントロールできる機械とか。
要:お金かもしれないですよ。
夏帆:そうそう、お金かも……。
Q:えっ!?
要:いや冗談(笑)。いろいろ言ってはいますが、監督の中ではちゃんと想定されていると思いますよ。
劇中の衣装そのままでインタビューに応じた三人は、徹底した時代考証を基に、リアルな庶民の生活、当時の言葉、髪型などまで再現して描く唯一無二な歴史エンターテインメント作で、自身も演じながら歴史を体感したという。にこやかな笑顔で撮影を振り返る姿からは、「タイムスクープハンター」という作品自体に底知れぬ魅力があることがうかがえた。
『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』は8月31日より全国公開