『おしん』上戸彩&濱田ここね 単独インタビュー
笑顔が似合う二人が現場でこらえた涙
取材・文:高山亜紀 撮影:吉岡希鼓斗
1983年放送当時、52.6%の平均視聴率を誇り、世界68か国で放送。今も多くの人を感動させ続けている「おしん」が映画となって30年ぶりに復活を果たす。約2,500名もの応募者から主役のおしんに選ばれたのは濱田ここね。まだ9歳の彼女は、撮影期間の52日、おしん同様、親元を離れて、芝居に打ち込んだ。おしんの母ふじを演じたのは上戸彩。前作で同役を演じた泉ピン子が絶大なる信頼を寄せ、彼女を推薦したという。過酷な現場を経験し、すっかり母娘のように仲良しになった濱田、上戸が撮影時を振り返った。
とても謙虚な平成のおしん
Q:お二人は「おしん」という作品に、どんなイメージがありましたか。
上戸彩(以下、上戸):30年前なので、まだ生まれていないんです。橋田(壽賀子)さんが作って、ピン子さんが出ていたというぐらいの印象しかありません。ただ、すごい作品だったというのは知っていました。視聴率のことなどは、周りの方から改めて聞いて驚きました。ここねは知ってた?
濱田ここね(以下、濱田):知らなかったですけど、ママから聞いて大変なことなんだと思いました。役が決まったときはママがすごく泣いて、「あの『おしん』をやるんだよ! 頑張ってね!!」と言っていました。
上戸:ここねは前の「おしん」観たの?
濱田:はい、観ました。こういうこともあるんだなってびっくりしました。「おしんは子どもなのに親と離れて働いて、すごいなぁ。わたしでいいのかなぁ」と思いました。
上戸:「こんな雪の中に行かなきゃいけないのかなぁ」とかは思わなかった?
濱田:それは大丈夫でした(笑)。
命を懸けて臨んだ伝説の入水シーン
Q:上戸さんのお母さん役というのも意外でしたね。
上戸:わたしもびっくりです(笑)。最初、ピン子さんからお話をいただいたんですが、お気持ちはすごくうれしいですし、ありがたいんですけど、自分では自信がなかったんです。とてもじゃないけど無理だと思って。やると決まってからは覚悟を決めました。役柄の難しさよりも前作に対するプレッシャーが大きかったです。実在の人物を演じるくらいの重みを感じて、撮影に臨みました。
Q:ふじは真冬の川での入水シーンがあります。
上戸:ふじの役を引き受ける=入水は覚悟していましたので、それ自体は嫌だなという気持ちはありませんでした。撮影のときは周りの皆さんがひやひやしているのがわかったので、その視線を感じると、逆につらい顔はできませんでした。できるだけ笑顔でいようと心掛けましたね。
Q:ピン子さんからはどんなアドバイスがあったんですか。
上戸:「大丈夫! 命を懸ければ」という一言でした。ちょうど入水するシーンに「今日、これからです」というメールをしたら、折り返しお電話をくださったんです。「もうちょっと雪が降っていれば画もきれいになったと思うんですけど、今日に限って、小雨です」ってお話したら、「わたしが入水したときも小雨だったのよね」と言ってくださって、「気合入れて、入水しておいで」という感じで背中を押してもらえました。
Q:ここねちゃんはピン子さんから何か言われましたか。
濱田:はい。「いいね~」って言われました。
上戸:「いい顔、してるね~」って言われていたね。撮影後はまだ会っていないでしょ? 今度、会ったら、ここねのこと、絶対、褒めてくれると思うよ。
周囲に気付かれないよう、ホテルのトイレで泣いた
Q:オープニングからすごい豪雪でしたが、寒いのは大丈夫でしたか。
上戸:普通、映っていないときは「コートを着ていていいですよ」とか、「足を温めてください」とか、言われるんですけど、今回の現場はそれがなかったんです。テストから靴も服も脱がされて、「本気でやれ」と言われました。テストにも1時間くらいかけて、リハーサルにも、もちろん本番にも何時間もかかりますから、すごく過酷な撮影でした。だけど、ここねが弱音を一切吐かなかったので、周りはここねと監督を信じて付いていくだけでしたね。
濱田:頑張りました。
上戸:我慢したよね。二人で足湯したとき、大変だったよね? 足が取れるかと思いました。撮影後に足湯をしようとしたんですが、触るとお水くらいのぬるさでも、足を入れると熱くて入れていられないんです。仕方ないので、お水をたくさん入れて、さらに温度を低くして徐々に温めていきました。それぐらい足の感覚がなくて、ずっと雪の中に足を入れていたようでした。
Q:厳しい現場だったんですね。監督はどんな方でしたか。
濱田:映画をすごく一生懸命作っている方でした。方言指導の方と助監督さんと監督さんでリハーサルをするんですけど、練習をしているときに「もっとよく考えなさい!」と監督に怒られてしまうこともありました。
上戸:わたしだったら、泣いちゃうところもここねはずっと耐えて頑張って、ケロッと笑っていたりしたから、すごいなぁと思っていました。わたしが代わりに外に行って、泣こうかと思ったぐらいでした。
濱田:泣きたかったんですけど、みんなにつらい顔を見せたくないから、我慢して、トイレで泣くようにしていました。ホテルでは方言指導の方と泊まっていたので、その方にも涙を見せないようにしました。
上戸:現場でも、「ママがいなくて寂しいね」って言うと、「寂しいって言うと寂しくなるから言わない」ってずっと頑張っていたんです。
根底にあるのは普遍的な家族愛
Q:そのつらい表情がちゃんと“おしん”となって、スクリーンに映っていますね。
上戸:わたしはここねのシーンは全部、好きなんです。しんどそう、つらそうなシーンこそ、頑張ったなと思って見てしまう。中でも好きなのはここねと岸本加世子さんとのシーンですね。(おしんをしごく女中頭役の)加世子さんが登場した途端、空気がピーンと張りつめる。ピン子さんはもちろんですが、岸本さん、すごいなぁと思って見ていました。ここねは岸本さんにホウキでたたかれて痛くなかった?
濱田:痛かったです。ゴンゴンゴンゴンって何度もやられました。でも、本当の岸本さんは優しい方でした。
上戸:「ごめんね」っていっぱい謝られていたね。今回の『おしん』はずばり、ここねの魅力に限ります! 子どもが奉公に出されて、耐えてという、今の世の中では考えられないようなストーリーですけど、普遍的な家族の愛が根底にはありますから、どんな方でも感情移入して観ていただけると思います。海外の方のリアクションも楽しみですね。
濱田:たくさんの人に映画『おしん』をぜひ観ていただきたいです。ふじの入水のシーンも上戸さんが命を懸けたシーンなので、絶対、観てください。
Q:いっぱい頑張ったから、たくさんの人に観てもらいたいですね。学校の友達はどうですか。
濱田:わたしが宣伝する前に友達が勝手に教室にポスターを貼っちゃったんです。大きな口を開けているポスターなので、「こっちじゃない方がいい」って言っているのに、先生が「これは素晴らしいからこのままにしておきましょう」って(笑)。教室の全員で行くかもって言ってくれているので、とっても楽しみにしています。
笑顔を絶やさないここねちゃん。取材中も当然、みじんも顔を曇らせたりせず、そばで見守る上戸も自然と笑顔になる愛らしさだ。インタビューが行なわれたのが夏休み真っ最中だったにもかかわらず、小さな体で目まぐるしく周囲にあいさつして回り、「おしん 濱田ここね 映画館で待ってます」と書かれたかわいい名刺を配って歩いていた。本家・おしんもびっくりの明るさ、強さ、けなげさ。平成・おしんの頑張りをぜひスクリーンで見守ってほしい。
映画『おしん』は10月12日(土)より全国公開