『陽だまりの彼女』上野樹里 単独インタビュー
お互いがいるだけで強くなれる、シンプルな関係
取材・文:柴田メグミ 写真:金井尭子
映画『ソラニン』『僕等がいた』シリーズの恋愛青春映画の名手・三木孝浩監督が、越谷オサムの同名ベストセラー小説を映画化した『陽だまりの彼女』。中学時代に出会い惹(ひ)かれ合う浩介と真緒が、離ればなれになりながらも10年後に再会を果たす、ファンタジックなラブストーリーだ。太陽のような笑顔の下に秘密を抱えたヒロインを、映画『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』以来3年ぶりの映画出演となる上野樹里がみずみずしく体現。相手役の松本潤の印象や、舞台となる江の島での撮影エピソードを明かした。
独特なカメラワークが新鮮!
Q:上野さんから見て、真緒はどんな女性ですか?
真っすぐに好きな人を思う、心の迷いのない女の子だと思います。我を強く押しつけるわけでもなく、駆け引きをするわけでもなく、浩介への愛をシンプルに表現していく。原作に比べて、映画では真緒の目線で描かれているシーンが増えています。前半には浩介目線で真緒を映すシーンもあるので、クローズアップするカメラワークがあったり、真緒が真っすぐカメラを見つめたり。今までの映画では引きの画(え)が多かったので、今回のような撮影方法は初めてです。撮っていて新鮮でしたね。
Q:ファンタジックなラブストーリーのヒロインを演じるにあたって、特に意識したことや大切にしたことは何でしょう?
たくさんありますが、なかでも「しなやかさ」を表現できるように意識しました。真緒のミステリアスな部分を見せるために、外見的にもいろいろとこだわりました。撮影は体が硬くなりがちな寒い季節でしたけど、軽い身のこなしで真緒らしく存在できたらいいなと思ってやっていました。
エネルギーをもらった江の島ロケ
Q:真緒と浩介の関係が、不思議だけどステキでした。
少女時代の真緒は勉強もできないし、髪の毛もボサボサのイジメられっ子。浩介だけが、そんな真緒を守ろうとするんです。でも10年後、真緒は驚くほど成長していて、仕事もできるのに、浩介はちょっと残念な人になっている(笑)。ただ、真緒にとって浩介は浩介。ずっと浩介を尊敬し続けている真緒の気持ちが、彼女の視線や行動に出ていますよね。浩介も真緒と再会して、仕事を頑張り始めて。お互いがいるだけで強くなれる、シンプルな関係がステキですよね。そんな二人を見て、たくさんの人の心が軽くなったり、勇気をもらってほしいなと思います。
Q:江の島でのデートシーンは、キラキラしてまぶしいほどですね。
空気がさわやかで海がきれいな江の島は、裏道に一歩入ると不思議な空間もあるので、ファンタジーと現実がつながる映画の世界に、集中しやすい環境だったと思います。参道を歩くシーンの撮影の日は、朝早くからお店の方も協力してくださり、エキストラとしても参加してくれました。だから江の島のリアルな街を楽しめましたし、撮影を見学に来たギャラリーの人たちも、静かに遠くから浩介と真緒を見守ってくれているようでした。現場を包む穏やかな空気感を、みんなで共有していた気がします。ストレスを感じるどころかむしろエネルギーをもらっている感覚で、「いい作品を創りたい」「早くみんなに観てもらいたい」という気持ちで撮影に臨めましたね。
松本潤さんはチームワークをすごく大切にされる方
Q:相手役の松本さんとの息もピッタリ合っていましたが、初共演の印象を教えていただけますか?
作品に対して、すごく熱い思いを持っている方だと思います。自分が違和感を覚えたことは隠さずにぶつけ、待つべきときはじっくり待つ。とにかく、監督の要望に応えたいという姿勢で臨んでいらした気がします。主役だけれど「自分が引っ張っていくぞ」と構えた感じではなく、俳優部の一人として存在して、バランスを見ている。忙しい中でもみんなと食事に行く時間を持つなど、チームワークをすごく大切にされる方だなと思いました。現場のいい空気を作ろうとする姿に作品への愛情を感じましたし、わたし自身も精いっぱい応えようと、モチベーションが上がりました。
Q:共演する前のイメージと違っていた点などはありましたか?
嵐のメンバーの中では、一番近寄り難いタイプに見えたんですけど、実際はすごく気さくで面白い方なんです。周りのスタッフさんからかわいがられて、特に女性スタッフさんにはよくからかわれていましたけど(笑)、楽しそうに反応されていました。だからわたしも緊張することなく、打ち解けられた気がしますね。松本さん、そしてスタッフさんに感謝しています。
「好き」や「愛している」の言葉は、台本上は存在しない!?
Q:中学時代の真緒を演じた葵わかなさんと上野さんのお芝居や雰囲気に、違和感がまったくなかったのも、この作品の大きな特徴だと思います。
作品をよりよくすることを考えて、監督がオーディションで選んだ人たちと共演できることが、まずうれしかったです。中学時代の真緒と浩介を演じた二人は、1か月くらいリハーサルを重ねて芝居を固めていったそうですが、わたしと松本さんも1、2回呼ばれたことがあります。そのときにわたしたちが中学時代の真緒と浩介を即興で演じたり、逆にわかなちゃんたちが大人になった二人のセリフを言ったり。
Q:逆を演じられたんですね。
もしかしたら二人の演技に、わたしたちの芝居を少し反映させたのかもしれません。ただ大人になった真緒は、きれいに成長していて浩介をドキッとさせなければいけない。どこか陰を帯びた中学時代とは反対に、明るさを表現する必要もありました。松本さんも中学時代の浩介にはないコミカルなお芝居を要求されていたので、お互い10年前と似せながら、同時に違いを見せることに気を付けました。
Q:真緒が浩介に「偶然なんてないよ」と言うセリフがとてもカッコよくて、心に響きました。
真緒のセリフは「偶然は必然」の意味にもとれるし、「単なる偶然」の意味にもとれる。浩介が先に言った「偶然」という言葉のニュアンスが、彼自身を卑下しているように思えて発した言葉ですね。真緒の気持ちは10年前と変わっていないことを伝える、不器用で真っすぐな精いっぱいの愛情表現。今回はそういうセリフが多いんです。「好き」とか「愛している」という言葉は、台本上にはありませんでした。だから直接的な表現ではないけれど、「これは好きという意味だな」と連想させる、愛情のこもった言葉を感じてもらえたらうれしいですね。
上野の柔らかい表情や、浮遊感のあるたたずまいが光る『陽だまりの彼女』。真緒の秘密やラストの奇跡を観客が素直に受け入れ、感動を呼び起こされるのも、上野の魅力なくしては考えにくい。「ステキな物語をこだわりながら作れたことが、すごく幸せです」と語る彼女の誇らしげな表情にも、精いっぱいやり尽くした充実感と完成作への愛情がにじみ出ていた。今作を観賞する映画ファンの多くが、彼女のスクリーン復帰を歓迎せずにはいられないはずだ。
(C) 2013『陽だまりの彼女』製作委員会
ヘアメイク:HAMA スタイリスト:岡本純子
映画『陽だまりの彼女』は10月12日より全国公開