『劇場版 SPEC~結(クローズ)~』戸田恵梨香&加瀬亮 単独インタビュー
「SPEC」を終わらせる、悔いのない自信作
取材・文:永野寿彦 撮影:高野広美
特殊能力=SPECを持つ犯人に立ち向かう刑事の姿を描いて人気を博した「SPEC」シリーズ。2010年に連続ドラマとして誕生し、2年後にスペシャルドラマ「~翔~」、劇場版『~天~』と、想像を超える怒涛(どとう)の展開を見せたシリーズも、前後編で公開される劇場版『~結~』でついに完結。作品をけん引してきた名コンビ、戸田恵梨香&加瀬亮が、3年間演じ続けてきた当麻と瀬文という役柄、そして作品への思いを熱く語った。
3年の間に変化が生じた二人の関係
Q:3年間も続いたシリーズですが、正直ここまで続くと思われていましたか?
戸田恵梨香(以下、戸田):連ドラが始まったときは思っていなかったですね。
加瀬亮(以下、加瀬):僕も全然思っていなかったです。
戸田:ただ実は、連ドラのラストカットの撮影のときに、笑顔バージョンと無表情なバージョンを二つ撮らせてくれと言われたんです。「あれ? それはどういう意味なのかな」と気になりました。使われているのは、ほほ笑んでいるバージョンだったんですけど、「もしかしたら何かあるかもしれない」と言われたので「ははぁ」とは思っていましたね(笑)。
加瀬:僕はその話を知りませんでした。そのときは「大山倍達先生!」のシーンで全体力を使い果たしていましたから(笑)。
戸田:奥歯も飛ばして(笑)。
加瀬:そうそう(笑)。ただ、自分が演じた瀬文の物語は、彼が誤射した後輩の志村が亡くなってしまったことで、ある意味終わっていると思っていたんです。連続ドラマで。なので、逆に続編と聞いたときはどうするんだろうと思いました(笑)。「~翔~」からは、戸田さん演じる当麻を見つめるっていう視点に切り替わっていった感じです。
Q:単なる男女の恋愛関係でもなく、かといってただの仕事仲間としての絆でもない、すごくバランスの難しい関係が作り上げられているように思います。
加瀬:脚本ではもっとストレートに書かれていました。二人が男と女に見えるようにしたいのかなって感じられるような。でも、自分たちや堤(幸彦)監督は、そこ(恋愛関係)に対する違和感があって。連続ドラマのときからそうだったんですけど、たぶんそこの恥じらいの感覚が似ているんだと思います。真っすぐな良いセリフでは必ずお互い背中を向けていたり、当麻が話し掛けてきたときはわざと違う方向を見ていたりしていました。
戸田:確かにそんな感じでしたね。男女というか、仲間というか、いろいろな愛がどこかで垣間見える程度でいいかなって思っていました。
再確認した野々村係長の存在の大きさ
Q:ついに完結する『~結~』の前編となる『漸(ゼン)ノ篇』ですが、実際にご覧になっていかがでしたか?
戸田:これでちゃんと終われるなってくらいレベルの高い、誇れる作品に仕上がったと思っています。
加瀬:予想以上でした。現場ではCGなどがまだない状態だったので、完成品を観て、すごく驚きました。これだったら安心して、ファンに届けられると思います。
Q:これまでのシリーズのイメージとはかなり違っていて、それぞれの思いが交錯するとてもドラマチックな印象を受けました。
戸田:前作の『~天~』がずば抜けて違う作品だったので、余計にそう感じられたのかもしれませんね。
加瀬:『~天~』だけ、ギャグなどが多すぎて、瀬文っぽくなかったなと思っていますから(笑)。
戸田:むしろ今回は連ドラとスベシャルの「~翔~」から続く、それまでの作品の流れに戻ったと思います。
加瀬:僕もどちらかというとそういう方向を意識してやっていました。コミカルな瀬文ではない方向で。
戸田:ただ、当麻、瀬文だけでなく、登場人物たちのパワーは格段に上がっていますけどね(笑)。
Q:特に、当麻と瀬文の上司である竜雷太さん演じる野々村係長の存在は大きく感じられました。
戸田:現場でも竜さんの存在は大きかったです。俯瞰(ふかん)でみんなを見守っている感じで。そんなつもりはなかったのに、撮影で思わず泣き出しちゃうようなシーンもあって。
加瀬:戸田さんと打ち合わせまでしているんです。シーンの撮影前に。泣かないでしょ? って。
戸田:うん、泣かない。
加瀬:当麻と瀬文だったら泣かないよねって。
戸田:絶対泣かないって。
加瀬:それなのに2人ともカメラの前に立ったら泣いていて(笑)。
戸田:いろんなことを思い出すように涙が出てきたし、ホントに大きな存在だなあって思いましたね。
加瀬:3年間続くとそれぞれのキャラクターとのつながりが深くなるから、いろんな思いが生まれたんだと思います。
はじけたところから始まったキャラクターのゴール
Q:連続ドラマが始まったときは、戸田さんが演じられた当麻も、加瀬さんが演じられた瀬文も、どちらもそれまでのお二人にはなかったイメージで驚いたんですが、実際初めて演じられたときはどんな印象だったんですか?
加瀬:自分としてはかなり無理して始めたんですけど、戸田さんの演技を見て「これはすごいな」と(笑)。ここまでやっていいの? っていう気持ちでした(笑)。
戸田:明らかにそれまでの作品ではやったことのないような芝居でしたからね(笑)。はじけ切ったなって感じで。言い方として正しいかどうかわからないですけど、かなり自由にやらせてもらったなと思っています。
Q:そうして始まった当麻と瀬文ですが、今回の『~結~』で役柄としてのゴールにたどり着いたという実感はありましたか?
加瀬:最初に脚本をいただいたときは、正直、終われるのかなって疑問を持っていたんです。その後、堤監督たちと脚本についての話し合いがあったんですけど、そのときに監督がラストシーンのアイデアを思い付かれたんです。それがとてもすてきなアイデアで。実際に演じてみて、このラストシーンなら納得して終われるなと実感しましたね。
戸田:『爻(コウ)ノ篇』(後編)の最後の当麻と瀬文のシーンを撮ってモニターで見せてもらったときに、これで終われるなって感じましたし、まだ完成はしていないですけど、仮編集されたものを見せてもらったときも、もう大丈夫だって思えたので本当に悔いはないです。新しいスペシャルの「~零~」(10月23日TBS系で放送)も含め、連ドラ、スペシャル、劇場版とちゃんと観てもらった上で『~結~』を観てもらえるとうれしいですね。その方が、それぞれの存在の意味、それぞれの強さといったものがより伝わってくるはずなので。登場人物たちのことを理解してもらった上で観ていただきたいなと思います。
加瀬:そうですね。こういうふうに観てほしいとかはないのですが、物語としては明らかに今までの「SPEC」とは違うものになっていると思います。だからこそこれまでの人物像を追っていてくれれば楽しんでもらえると思います。個人的には3年間同じ役をやり続けるというのは希有(けう)な体験でしたし、すごく楽しい3年間でした。
Q:ファンはまだ『漸(ゼン)ノ篇』の後も、『爻(コウ)ノ篇』まで待たされることになりますけど(笑)。
戸田:ホントですよね(笑)。でも、大丈夫です。自分の代表作と胸を張って言える自信作ですから。
加瀬:ラスト、ギャグで逃げるとかはないですから(笑)。ホントに大丈夫です。楽しみに待っていてください。
劇中と同じように絶妙なコンビネーションでインタビューに応じた戸田と加瀬。3年という長い期間、一緒に物語と格闘してきた二人らしく、時に思い出話を、時に作品を応援し続けてきてくれたファンに対する感謝をと、真摯(しんし)な姿勢で語る姿からは、シリーズを支えてきた責任と、今作への自信が感じられた。そんな二人が「大丈夫!」と太鼓判を押す、これまでにないハードな展開へと進んでいく『SPEC』完結編を、ぜひ劇場で堪能してほしい。
(C) 2013「劇場版SPEC ~結~ 漸ノ篇」製作委員会
『劇場版 SPEC~結(クローズ)~ 漸(ゼン)ノ篇』は11月1日(金)より全国公開。『劇場版 SPEC~結(クローズ)~ 爻(コウ)ノ篇』は11月29日(金)より全国公開。