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『利休にたずねよ』市川海老蔵&大森南朋 単独インタビュー

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『利休にたずねよ』市川海老蔵&大森南朋 単独インタビュー

持っている温度が違うから相性がいい

取材・文:須永貴子 写真:奥山智明

千利休の茶の道と絶対的な審美眼は、若き日の悲恋に根付くものだった……。確かな時代考証に基づく斬新な切り口で、茶聖の若き日をみずみずしく描いた原作「利休にたずねよ」を映画化。千利休を演じるのは、ホームグラウンドの歌舞伎界にとどまらず、『一命』(2011年)や『誰にもあげない 真四谷怪談』(2014年公開予定)などの映画に精力的に出演する市川海老蔵。その利休を寵愛(ちょうあい)するあまり憎しみを抱く豊臣秀吉を演じたのは大森南朋。二人が初共演の印象や映画のテーマについて語り合った。

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初共演の二人がお互いに抱いていた印象

市川海老蔵&大森南朋

Q:お互いに役者としてどんな印象を抱いていらっしゃいましたか?

大森南朋(以下、大森):僕は海老蔵さんの歌舞伎を観たことはないのですが、歌舞伎界においてすごい人だということや、現代劇に出られているのも存じていました。あと、いろいろなうわさも耳には入っていましたし(笑)。漠然と、すごい俳優さんだと認識しておりました。

市川海老蔵(以下、海老蔵):すごく難しいことに挑戦されている方だと思っていました。お父様(麿赤兒)の影響なのかな。以前、お父様の40分間くらい動かない舞踏を観たことがあって。

大森:そうでしたか。

海老蔵:ほんの数センチ動くのに40分くらい時間をかける舞台を観て、すごく志の高い方という印象がお父様にはありました。そのご子息でいらっしゃるということはご本人にとってはあまり関係ないのかもしれないですが、作品やお芝居を拝見する限り、お父様同様、難しいことに挑戦していらっしゃるようにお見受けしました。情報を表面にたくさん出した方が、わかりやすいから人受けもいいし、評価されやすい演じ方なんですね。そうではない、難しい方向を目指していらっしゃる方だなという印象でした。

大森:そんなふうに見てくださるなんてありがたいです。確かに、映像の中での引き算は意識しています。そのためにはまず画(え)を信じることが必要で。そこで生まれる意図や意思を作り手と共有しているときに必要な“演じない勇気”みたいなものは、割と考えてはいたりします。

海老蔵:実際に対峙(たいじ)して思ったのは、表現の仕方の、確度の緻密さ。年齢が上というのもあるのかもしれませんが。利休が死んだあとに、秀吉が一人で天守閣の上から笑い泣きをするんですけど、あそこが一番苦労されたんじゃないかなと思うんです。

大森:あのシーンは割と最後の方に、利休の家の方を見下ろしながら撮りました。利休が腹を切ったという話を聞いてのリアクションを、どう落とし込むかは肝でした。

海老蔵のたたずまい

市川海老蔵&大森南朋

Q:大森さんは海老蔵さんと共演してみていかがでしたか?

大森:着物姿でセットにいるその“居様”に、初日から圧倒されました。これは僕たちにはマネのできない所作ですし、たたずまいが周りの俳優さんと比べても他を寄せ付けない雰囲気をお持ちの方です。

海老蔵:本業ですからね(笑)。

大森:撮影が進むにつれて感じたのは、クランクイン前にお茶をしっかりと学ばれていたように、役への誠実な向き合い方です。やるべきことをやるのは当然なんですけど、「俺もやんなきゃな」と思わされました。あと、リハーサルが終わって本番にいく前に、海老蔵さんが歌舞伎の発声をやっていて、それを聞いたときに「お!」と感動した記憶がありますね。

海老蔵:南朋さんはイメージや温度が常に変わらないんです。僕がスタッフと一緒に中華料理を食べていたときに、ご家族と一緒の大森さんとたまたま居合わせたんですけど、日常もこの温度でした。悪い意味じゃなくて、人と違う低めの温度感。2~3℃で持続して、15℃を超すことがないし、マイナスにもそんなにいかない。その温度感は僕にはないんです。

Q:海老蔵さんは何℃くらいですか?

海老蔵:僕は40℃~70℃くらいで生きているタイプなので、だからこそ温度の違う南朋さんとは相性がいいと勝手に思っています。どんな芝居をしようが絶対にお互いに反応するんです。

大森:そう言われると「なるほど」と思います。確かに海老蔵さんとの現場はすごく居心地が良かったです。リハーサルをやってその通りというものでもないので、本番でも芝居の細かいせめぎ合いがあるんです。僕が秀吉であり海老蔵さんが利休であるその瞬間、人間同士の何かがパッと生まれる感覚がありました。

海老蔵:だから、利休が秀吉にお茶でなく梅がゆをお出しするのはいいシーンですよね。「結果を求めることも大事」という勉強にもなりました。

大森:僕は大茶会のシーンが好きです。「あ、通じ合った」という感覚があって。

海老蔵:芝居というのは温度の引っ張り合い。あそこのシーンは南朋さんの温度に僕が近づくシーンだったんです。だから画面の色味が変わって緑がかるんです。まあ、細かい話ですけどね(笑)。

おもてなしの神髄はお茶の精神にある

市川海老蔵&大森南朋

Q:茶の精神にちなんで、お二人が人をもてなすときに心掛けていることは何ですか?

大森:もてなす……おごるくらいですかね。「お金のことなら心配するな」と(笑)。

海老蔵:「おもてなし」は最近はやりのワードだから7年後(2020年開催の東京オリンピック)の話につながってしまいますけど、サービスになっちゃいけないし、おもてなしをする方の満足になってもいけないと思うんです。つまり、おもてなしをする上では、おもてなしをされる側の最低限のルールやマナーを身に付けることが必要であるということで、つまりはお茶の世界ですよね。梅がゆのシーンがまさに象徴的です。利休は秀吉が置かれている立場や環境に心情をシンクロさせて梅がゆを出した。おかゆを出すなんて失礼に当たるのに。

大森:ですよね。

海老蔵:でも、それがピンポイントで秀吉の心に届いた。それが大事ですよね。そういうふうに、おもてなしをするというよりも、おもてなしをされる側のことを学ぼうと僕は思います。

大森:神髄ですよね、利休がやってきたことは。秀吉は草履を懐で温めるくらいが関の山ですから。

Q:この作品を通して何が伝わったらいいなと思いますか?

大森:東映が作った海老蔵さん主演の映画を僕が観て思ったのは、良い日本映画だなと。僕たちが子どもの頃に観た、東映らしい映画ができたと思います。意外と今の若い人たちは観たことがないものになっていると思うので、ぜひ体験してほしいなと思います。

海老蔵:良い映画ですよね。確かに近年あんまりこういう映画は観られないから、逆に新しいかもしれない。

Q:その要因の一つが、利休が使っていた茶器の本物を撮影に使っていることですよね。緊張しませんでしたか?

海老蔵:僕は大丈夫でした。日常的に稽古を重ねたので。稽古していなかったら本番で使えないですよ。すごかったですもんね。茶器が通るとき、スタッフ全員フリーズだから。「お茶碗通りまーす!」って。あれで手が震えない役者のほうが珍しいと思います。


市川海老蔵&大森南朋

二人が会うのは久々だったらしく、「元気ですか?」「家族とは円満?」などと海老蔵が切り込み、大森がクールに返す“温度の違い”が周囲の笑いを誘っていた。写真撮影中も近況報告などで会話が途切れることはなく、大森が「今度、歌舞伎を拝見させてください」と伝える場面も。歌舞伎俳優と映画俳優、出自は違うけれども、お互いに引かれ合う魅力的な大人の男たちの駆け引きをスクリーンで観てほしい。

映画『利休にたずねよ』は12月7日より全国公開

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