『ゼロ・グラビティ』サンドラ・ブロック 単独インタビュー
人生は驚嘆すべきもので、そこにはパワーやマジックがある
取材・文:吉川優子 撮影:金井尭子
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『トゥモロー・ワールド』などのアルフォンソ・キュアロン監督が、スペースシャトルの大破により宇宙空間に放り出された宇宙飛行士と科学者の決死のサバイバルを描く超大作『ゼロ・グラビティ』。宇宙での作業中、事故に遭い、懸命に生還を試みるライアン・ストーン博士を演じた主演のサンドラ・ブロックが、役づくりや本作に懸ける思いを語った。
長年の夢、キュアロン監督とのタッグが実現
Q:なぜこの映画に出演したいと思ったのですか?
アルフォンソ(・キュアロン)よ。『天国の口、終りの楽園。』を観たとき、あまりに素晴らしくて驚いたの。このフィルムメーカーは、一体どうやってこのストーリーを作ったのかしらと思ったわ。それ以来、脚本をもらうたびに「アルフォンソ・キュアロンがこれをやると思う?」と言うのが、わたしのジョークだったの(笑)。この作品の話が急に来たとき、わたしは子どもとの静かな生活を楽しんでいて、仕事をしたいと思っていなかった。それに、彼はわたしが最も恐ろしいと思っていることをやってくれと言ったの。「飛ぶ」ということをね。でも、これは一生に一度の機会だって思ったの。
Q:どのようにしてあのリアルな映像は作られたのですか?
特別なワイヤーシステムやキューブ(撮影中サンドラが入っていた約3メートル四方の箱)を使って撮影したわ。シーンの順番をばらばらに撮影しているから、それらを後でつないでいったの。250人のコンピューターの天才職人たちが作業をしてくれたのよ。
Q:キューブに入っての撮影はいかがでしたか?
アルフォンソは暗闇の中の人形使いみたいだったわ。彼の言葉をイヤホンを通して聞くんだけど、完全に真っ暗なのよ。「サンドラ、アルフォンソだ。どうしてる?」「わたしは大丈夫」って感じでね。彼は神のようで、セラピストみたいで、先生でもあったわ。
国際宇宙ステーションに電話をしてリサーチ
Q:役づくりのためにどんなリサーチをしましたか?
わたしが最も知りたかったのは、宇宙で人はどのように動くのかということだった。宇宙飛行士から教えてもらった最高の例えは、体が風船に囲まれていて、それらの風船を押しながら動いているということだったわ。無重力状態にずっといるんだと自分の体に思い込ませることが最も重要だったの。首から下は全て、普段の30%のスピードで動かさないといけなかったわ。
Q:実際に宇宙飛行士と話をしましたか?
国際宇宙ステーション(ISS)に電話をして、女性宇宙飛行士と話をしたの。こういうときはどうなるのって、何でも聞けるのは素晴らしかったわ。わたしたちのスタッフの写真を宇宙にいる彼女たちにギフトとして送ったんだけど、それを窓に貼ってくれたの。宇宙にEメールを送れるのよ。
全てのエモーションを失った女性
Q:ライアン・ストーン博士はどういう女性だと思いますか?
彼女はすごくしっかりしていて、とても仕事ができるんだけど、子どもを失ったことで人生における全てのエモーションや愛を失ってしまい、自分の殻に閉じこもるの。わたしは直感で、そういう人は子どもを失ったことを思い出させる全てのものを取り除くだろうと思ったわ。彼女の体は道具で、彼女には知性と、得意な仕事をこなす毎日だけが残されているの。ただロボットのようになるのよ。そういう女性が再び何かを気に掛けるようになるには、一体何が起きないといけないのか? 彼女の旅路や、子どもを失うということを毎日考えるのはとてもクレイジーなことだったわ。
Q:かなり体を鍛えていらっしゃいましたが、どんなワークアウトをしたのですか?
ダンスに基づいたものをやったわ。ストレッチとか、全ての体幹を鍛えるものよ。ビジュアル的に目指していた体形にしたの。美的にも、感情面においてもね。ああいう装置の中に長くいると体が固まってしまうから、ケガしたくなかったの。
Q:ジョージ・クルーニーが唯一の共演者ですが、彼と仕事をしていかがでしたか?
彼は楽しさやユーモア、明るさを現場に持ち込んでくれたわ。わたしはジョージのことをずっと前から知っているの。彼は全てを楽にこなしているように見えるけど、毎日24時間、週7日間、ものすごく一生懸命働いている。セットに来たら、アルフォンソが必要としていることは何でもサポートしていたわ。
宇宙で恋しいのは人とのやり取り
Q:もしあなたが宇宙にいたら、何が恋しいと思いますか?
もし宇宙ですごく孤独になったら、人間とのやり取りなら何でも恋しくなるわ。撮影中もわたしは一人きりが多かったから、そうだったの。わたしのヘルメットを外しに来てくれた人が、どれほど優しかったか。感謝しているわ。音響担当の人も毎日の終わりに「彼女をハッピーにさせる音楽を何かかけよう」と言ってくれた。チョコレート一切れをそっと渡してくれたり、コーヒーを持ってきてくれるだけでも、「(感動して)オオオオ」という感じになったわ(笑)。
Q:この映画のテーマは何だと思いますか?
わたしがこの作品から得たのは、畏敬の念ね。大きな宇宙の中で、わたしたちがいかに小さな存在か、そしていかに人生を無駄使いしているかを強く感じたわ。人生は驚嘆すべきもので、そこにはパワーやマジックがある。この作品のどこが美しいかというと、人生において、どこから助けがやってくるか決してわからないということを描いていることだと思うわ。
「空を飛ばないといけないから、宇宙には行きたくない。この地球にしっかり足を着けているのが大好き」というサンドラ。2010年にはつらい離婚を経験したが、今は「自分の命より大事」という3歳の息子を持つ母親として、私生活も仕事も順調でとても幸せそう。本作の迫真の演技で2度目のオスカーの声も高まっており、賞レースシーズンが楽しみだ。
(C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
映画『ゼロ・グラビティ』は12月13日より3D / 2D同時公開