『ウォーキング with ダイナソー』木梨憲武 単独インタビュー
映像のパワーに圧倒され、恐竜の成長にチャレンジ
取材・文:斉藤博昭 写真:奥山智明
『ファインディング・ニモ』から実に10年ぶりに木梨憲武が声優に挑戦した。7,000万年前のアラスカを舞台に、恐竜たちの冒険を『アバター』の最新技術などを取り入れて再現した『ウォーキング with ダイナソー』。草食恐竜パキリノサウルスの群れが、さまざまな困難を乗り越える物語で、木梨は主人公パッチを演じている。子ども時代に始まり、肉食恐竜との激しい戦い、仲間や家族との絆を通して成長する恐竜のドラマに、彼はどうアプローチしたのか。恐竜を演じる苦労や作品への思いを語った。
魚の後は恐竜……人間の依頼は来ない!?
Q:『ファインディング・ニモ』に続いて、人間以外のキャラクターを演じることになりましたね。
別に断っているわけはなく、どうやら僕に人間の声の依頼は来ないみたいです(笑)。声優の仕事も10年に1回というペースですからね。
Q:10年ぶりということで、今回、引き受けた経緯を教えてください。
最初にお話をもらったときは、ここまで大きなスケールの作品とは思わなかったんです。その後、『アバター』のチームが3D技術を提供しているなんて話を聞いて、「おやおや……!?」という意識になりました。
Q:大スケールと知って、躊躇(ちゅうちょ)したとか……?
いや、最初から知っていたら、即、引き受けましたよ(笑)!
Q:その後、映像の一部を観たわけですね。
初めて観たときはものすごい映像に圧倒され、「オレの声なんて要らないんじゃない?」と思ったのが正直な気持ちですね。
Q:主人公パッチの子ども時代から、木梨さんが演じています。
実を言うと、僕が担当するのは主人公が成長した後なのだと勝手に思い込んでいました。あと恐竜なので、心の声なのか、あるいはナレーションのような感じなのか、それもわからず、本番の日が近づいていったんですよ。プロの声優のつもりで、恐竜らしい声でアニメの擬態語みたいに「ボヨヨ~ン」とかも考えたのですが、現場に入ったら「普通のセリフ回しで」と言われました。「そうですよね」と納得しましたけど(笑)。
父として子どもたちの反応に興味津々
Q:「恐竜になる」という感覚ではなかったわけですね。
実際に恐竜が言葉を話すわけではなく、気持ちを代弁するわけですからね。だから役を自分に置き換えることもしていません。
Q:お父さんが恐竜の声を演じると知ったら、お子さんたちも興味を示しそうですが……。
横目で見ている感じですね。でも実は楽しみにしているんじゃないか。そのあたりを僕は常に探っています。「楽しみな目をしていないかな?」「うーん、しないね」「今したね!」みたいに(笑)。
Q:『ウォーキング with ダイナソー』は、父親として子どもたちに観せたいジャンルという気もします。
一人の親として「こういう仕事に関わるのは最高の幸せ」と言いたいけれど、そんな素直な感覚とはちょっと違う感じですね。でも、先日の会見でそのあたりの余計なことを言ったら、ニュースで「木梨家、大丈夫か?」なんて出ちゃうんで、少し反省しましたけど(笑)。まぁ、そんな大げさなことじゃないんで……。とにかく家族には早く完成作を観てもらって、この素晴らしい映画に僕が参加していることを知ってほしいですね。
Q:もともとお子さんたちは恐竜に興味はあったのですか?
スーパーカーや、ウルトラマンの怪獣とかには夢中になっていましたが、恐竜図鑑を読むタイプではなかったですね。
Q:では木梨さん自身は? 子ども時代の恐竜の思い出は?
僕は祖師ヶ谷大蔵に住んでいたので、近所の東宝スタジオでよく金網越しにゴジラを見ていました。別撮り用なんでしょうね。恐竜のデカい尻尾を見つけたりして、友達と大騒ぎしたのを覚えています。恐竜と聞くと、そんな記憶がよみがえります。
『アバター』超えを狙います!
Q:パッチの声を演じる上で、どんな苦労がありましたか?
演出のプロがいるので、その方の指示に従って演じる感じですね。パッチが成長して群れのリーダーを目指す過程は、結構苦心しました。普通、こうした録音作業では、ガラス越しのスタジオに僕だけが入って演じるのですが、どうも一人になると余計なことをやったりしちゃうし、ガラスの向こうで何を言われているかわからない。ひどいダメ出しをされているのかと不安にもなりました(笑)。だから今回は、演出の方にもガラスの内側に一緒に入ってもらい、真横で指示を受けていました。やりやすかったですね。
Q:演じていて、印象に残っているシーンは?
パッチが初めて好きな女の子と出会うシーンでしょうか。「いいぞ、頑張れ! パッチ!」という気持ちになりました。
Q:木梨さんの視点で、この『ウォーキング with ダイナソー』の作品としての魅力はどこにありますか?
映像のディテール、クオリティーの高さに感動しました。僕が子どもの頃、『JAWS/ジョーズ』に衝撃を受けたように、この作品の映像は今の子どもたちに強いインパクトを与えるんじゃないでしょうか。3Dで観たときは、ものすごい“飛び出し感”にクラクラしましたよ。その素晴らしい映像に、あらゆる世代が共感できる物語がうまくつながっている。群れの先頭に立ったり、大自然の脅威に挑んだりする恐竜たちの姿は、僕ら人間が、何か大きなことにチャレンジする瞬間に置き換えられると思うんですよ。そして群れの先頭ではなくても、それぞれの役割がある。さまざまな運命が見えてくる映画なんです。
Q:多くの世代に観てもらいたい映画というわけですね。
どうせなら『アバター』も超える大ヒットを目指してほしい。もしヒットしなかったら、僕の責任でもあるので、声優の仕事はこれで最後ですかね。それくらいの覚悟でやりましたよ(笑)。
10年ぶりの声優の仕事ということで、緊張や不安も抱えつつ、こうしたインタビューでは、その緊張や不安をサービス精神満点の答えに変換してしまう。その瞬発力と、笑いを誘う才能は「さすが、木梨憲武!」という印象だった。話題が家族に及んでも、当たり障りのないコメントではなく、「ウソをつくと夜のお酒がまずくなるから」と自分の思いを包み隠さず話す木梨。こうした正直な姿勢が、長年ファンに愛されている理由かもしれない。そんな木梨が素直な気持ちで絶賛する『ウォーキング with ダイナソー』は、彼の絶妙な声の演技でさらに魅力を倍増しているはずだ。
映画『ウォーキング with ダイナソー』は全国公開中