『サクラサク』緒形直人&南果歩 単独インタビュー
家族にとって大切なのは「コミュニケーション」と「家を出ること」
取材・文:枚岡由里香 撮影:吉岡希鼓斗
モントリオール世界映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞した『利休にたずねよ』の田中光敏監督が、さだまさしの原作を映画化した『サクラサク』。仕事一筋の会社員・大崎俊介が父の認知症を目の当たりにしたことをきっかけに家族のほころびに気付き、妻と子どもたちを伴って父のふるさとに旅立つ姿を描いたロードムービー。本作で俊介を演じた緒形直人とその妻・昭子を演じた南果歩が、撮影の舞台裏や家族円満を保つ秘訣(ひけつ)を語った。
関係の冷え切った夫婦を演じる上で心掛けたこと
Q:俊介という仕事一筋の夫を演じるにあたり、どういったアプローチをされたんでしょうか?
緒形直人(以下、緒形):前半は家庭が置かれている現状に何も気付いていない感じと、父親(藤竜也)の認知症の症状を初めて目の当たりにしたときの表情や不安みたいなものを大事にしつつ、俊介の感情を丁寧に演じていけたらいいなって思いました。その場その場での周りとのやり取りに純粋に反応したい気持ちが大きかったので、読み込んで細かく演技プランを立てるというのはあまりなかったですね。
Q:そして旅立ち、ロードムービーとなりますね。
緒形:そうですね。その前に俊介が幼なじみから助言されるシーンがあるんです。僕も小学校からの友達がいて、昔、父(緒形拳)に「将来、こいつらおまえの宝になるわけだから、こいつらとの約束は絶対に破るな」っていうことを言われたんですね。だからこれは僕の解釈なんですけど、俊介が旅立ちを決める大きなきっかけになったのが親友の言葉だったらいいなという思いはありました。
Q:南さんは中盤までほとんど無口で言葉数の少ない妻の昭子役でしたが?
南果歩(以下、南):昭子が冷たい表現になってしまうのは仕方ないかなと思いましたね。いろいろな理由があって、もう夫の存在すら自分の視界に入れたくないから、視線を合わさないどころか問い掛けも聞こえていないふり。洗濯や料理といったやめられない日常生活のルーティンワークはこなすけど、自分の気持ちのよりどころはもう家庭の中にはないんですよ。
Q:おじいちゃん(藤竜也)の粗相を見つけたときの悲鳴を上げるシーンは、どういった気持ちで演じられましたか? なんて孤独で悲しい人なんだろうという印象を受けたのですが。
南:あれは、本能的に拒否するかなと思いました。自分の子どもなら迷うことなく手を貸すでしょうね。おねしょとかね(笑)。でも、昭子はおじいちゃんとの関係以前に夫婦の横のつながりがないから、やっぱりとっさにね。人間って正直ですから、それまでの関係を度外視して理性的に動けるかって言ったら、なかなかそれは難しいのかなって思います。後になって申し訳ないって罪悪感は出てくるのでしょうけどね。
撮影の舞台裏
Q:撮影は都内のシーンから始まったそうですね。
南:そうですね。都内ではほんと直人君と目が合うことなかったね(笑)。
緒形:そうでしたよね(笑)。ほんと全部擦れ違い。家族の中で唯一おじいちゃんだけうれしそうに出迎えてくれたけど。
南:撮影自体は、ほぼ順撮りだったんです。一つのシーンをやってそこで実感したことが次のシーンに出るっていう、そういう良さがあったと思います。
Q:長野や福井ロケはどんな雰囲気で過ごされたんですか?
緒形:共演者みんなで一緒に風呂入ったり、果歩さんが「今日はどこどこの店に行くわよ!」ってLINEで連絡くれて食事したり。果歩さんは撮影のお休み中にも息子役の矢野聖人君と娘役の美山加恋ちゃんの二人を連れて大本山永平寺に行かれたり、いろいろと面倒見てくださったんです。監督にも最終的に「家族に見えた」と言っていただいたので、果歩さんの力は大きかったと思いますよ。
南:お話の序盤では気持ちが通じない家族だけど、多分かつては幸せなときもあっただろうなって思うんです。だから、みんなで楽しくごはんを食べたり空き時間を一緒に過ごしたりするのが、何かこの家族の回想シーンのような感じがしました(笑)。
緒形:うん、そうかもしれないですね。
夫婦&家族円満を保つ秘訣(ひけつ)とは?
Q:この映画では家族の再生が描かれていますが、夫婦や家族で大切なことって何でしょう?
緒形:一昔前だったら黙っていても良かったけど、言葉で言わないと相手がわかってくれない時代なんですよね、今はね。だから短い一言でも相手に思いやりの言葉や感謝の言葉を伝える。自分も言われたら気分が良くなるし、そういうことじゃないかなと思う。
南:うん、そう思いますほんとに。多分この映画の家族も心の中ではそう思っているんですよね。だけどみんな表現しない。それが徐々に積み重なり修復が難しくなっていったと思うのですけど、ほんと言葉って一番簡単で誰にでも使える処方箋というか。心の中で感謝しているだけでなく思いを伝えることで、関係が一方通行でなくなるというのは大きいと思いますね。
Q:ちなみにお二人はこの映画のように家族旅行はされていますか?
南:しますよね。
緒形:します。みんなで一つの経験をすることで会話が増えるという意味では、旅行だけじゃなくて美術館でも近くのレストランに行くというのもそうだと思いますね。
南:そう、家から出るのって大事で、夫婦でも親子でも「あ、こんな話ができるんだ」っていう瞬間があるんです。宿題だったり家事だったり日常の雑事が、家の中には盛りだくさんなんで(笑)。
緒形:そうだね、開放感ありますからね、外は。
南:うん、公園の散歩でも違うと思うんですよ。缶コーヒー買って桜を眺めたりするだけで、かなり別の会話になるというか。ほんのちょっと外に出掛けてみると自分も変わるし相手も心持ちが変わる。家ってとても落ち着ける場所だけども、いろいろなしがらみがたくさん詰まってる場所でもあるかなと思います。
映画の根底に流れる温かさの理由は
Q:椅子の座り方やその位置関係などで、家族のバラバラ感が見事に表現されていましたが。
緒形:都内のシーンはみんなでアイデアを出しながら作り上げていきました。監督がいつもニュートラルな感じでいろいろと聞いてくださるんです。演じる上での勢いもつけてくれて。
南:そうなんですよね。後半、車内の家族が座る位置は監督の演出でした。最初はおじいちゃんが真ん中で一人座って、娘とわたしが最後部にいるんですよね。
緒形:で、僕と息子が前でね。それがだんだん変わっていって最終的にはおじいちゃんが中心でみんなに挟まれるというね。台本を読んだときにセリフの感じがいいなと思いましたけど、演出で、監督ならではの映画になったんじゃないだろうかって印象があります。
南:そうですね。なんか、この映画の根底に流れている温かさっていうのは、監督が持っているものじゃないかなあと思いますね。
緒形が話せば南が「うんうん」とうなずき、南が話せば緒形が「そうそうそう」と相づちを打つ。役柄の抱えた感情や思いを振り返り語るその姿は、まるで俊介と昭子が現実に抜け出てきて過去を回想しているかのようだった。目も合わず心がバラバラだった家族が、次第に打ち解け寄り添うまでの心の軌跡をふとしたしぐさや表情で繊細に描いた本作は、家族の姿をリアルに映し出した胸に響く一本となっている。
(C) 2014映画「サクラサク」製作委員会
映画『サクラサク』は2014年4月5日より全国公開