『MONSTERZ モンスターズ』藤原竜也&山田孝之 単独インタビュー
同世代の演技派が30代で共演できた喜び
取材・文:斉藤博昭 写真:平岩亨
見つめるだけで、相手を思いのままに操る男。その彼も唯一、操ることが不可能な強靭(きょうじん)な肉体を持つ男。想像を超えた能力を戦わせる2人の主人公に、日本映画界をけん引する演技派の藤原竜也と山田孝之がふんし、激突する。すでにベテランの域に突入した彼らだが、意外にも、共演するのはこの『MONSTERZ モンスターズ』が初となる。『リング』などセンセーショナルな作品を放ってきた中田秀夫監督の下、どのように火花を散らしたのか。撮影での思い出や役づくりについて、二人が語り合った。
中田監督のあの作品が山田のトラウマに!
Q:中田秀夫監督の作品には、藤原さんは以前にも出演されていますね。
藤原竜也(以下、藤原):タイトルの『MONSTERZ モンスターズ』が伝えているように、この映画の物語やテーマは、深く追求すると理解を超えるレベルです。中田監督のスゴさは、そのような作品であっても、観る人との距離を違和感なく埋めて、エンターテインメントとして作り上げるところ。その安心感があったので、今回も監督を全面的に信頼して、役づくりを進めていきました。
Q:山田さんにとっては中田監督との初めての作品です。過去の監督作の印象は?
山田孝之(以下、山田):中田監督の作品で一番印象に残っているのは『女優霊』(※スタジオを舞台にしたホラー作品)ですね。まだ10代のころ、人に薦められて観たんですが、めちゃくちゃ怖くて、しばらくスタジオに入るのが嫌になりました(笑)。照明さんが使う、スタジオの天井の足場を見上げるだけでゾクゾクしてトラウマになったんですよ。
藤原:『女優霊』なら日活のスタジオだね(笑)。
山田:これが日本のホラーの怖さだと実感した映画でしたね。引きの映像で、後ろをスーッと何かが通るシーンとか、ものすごく怖かった……。
Q:そんなホラーの天才と実際に仕事をしてみてどうでしたか?
山田:衣装合わせで初めてお会いしたときは会話もなく、鋭い視線を受けたので、(監督が手掛けてきた)作品どおりの怖い人だと思っていました。でも現場では全然違った! ギャグも言うし、いつもニコニコしていて。撮影中に指示する時は声もすごく大きくて、第一印象とは真逆でしたね。
藤原:監督は妥協しない人なので全カットに強いこだわりがあるんですよ。
藤原が目指したのは「目俳優」?
Q:藤原さんが演じた「男」は、まなざしで相手を操る役どころです。演じる際に、どういったところにこだわりましたか?
藤原:目のアップだけで何十カットも撮りました。ここまで目を撮られた俳優は、過去にもいないでしょうね。周りから「目俳優(めはいゆう)」って呼ばれたくらい。
山田:いや、誰も呼んでないですよ(笑)。
藤原:僕の目が世界を支配するという役柄ですから、目の演技には気合を入れました。
山田:そういえば僕も監督から「ハイ、ここでもっとギラッと目を見開いて」と、よく言われたかな。
Q:山田さんは、ものすごい人数に取り囲まれるシーンもありましたね。
山田:あのシーンはエキストラの方も多く、その人たちをかき分け、体の上を走ったりもしたので、ちょっとズレると大変なことになる。もし予定と違う方の体を踏んでしまって、ブチキレられたらどうしよう……! とか、細かい神経も使いました。駅前のシーンも苦労しましたね。周りの人を倒しながら走ったりしたので。
藤原:その点、僕は、監督からの「目を見開いて」という指示を何回かこなせば、その日の仕事は大体終わるという感じで(笑)。激しいアクションをこなす山田くんに対して、僕は操る演技をしながら「がんばれ、孝之!」と心の中で応援していました。
山田:藤原さんの出番が早く終わる日が多かったんですけど、必ず僕のところに来て、「ごめんね。オレ、ここで帰っちゃうけど」と丁寧にあいさつに来てくれましたよね(笑)。
藤原:二人が主役の作品だから礼儀としてね(笑)。
定食屋のおばちゃんが藤原にダメ出し!?
Q:藤原さんは名前も明かされない「男」の内面を、どのように作っていったのでしょう?
藤原:この男の過去は劇中でほとんど語られていないので、終一との距離感に気を付けつつ、監督の的確な演出に応えていった感じです。
Q:演じながら、実際に他人の行動を操りたくなったりは?
藤原:もし可能になったら、めっちゃ面白いと思いますよ。だって相手が自分の意のままに動くんですから!
Q:一方、終一は強靭(きょうじん)な肉体を持つ役です。
山田:一応、主人公の2人が善と悪に分かれる物語ですが、終一はスーパーヒーローではなく、あくまで普通の男。治癒力が強いけれど、その能力を隠して生きてきたわけなので、特に物語の前半では口調や接し方で現代の若者っぽくナチュラルな芝居を心掛けました。そして「男」と出会ってからは、作品の持つ異様なテンションを出すよう、段階を意識したんです。格闘やアクションもうまくこなすのではなく、ギリギリでかわす感じにこだわりましたね。
Q:二人ともハマリ役でした。やはり藤原さんは強烈で極端なキャラクターが得意ですね。
山田:それに関して、あの定食屋のおばちゃんの話、してくださいよ。
藤原:僕がよく行く定食屋があるんですが、いつもそこのおばちゃんに「たっちゃん、今度はどんな役をやるの?」と聞かれるんです。それで今回も「目で全世界を操る役だよ」と答えたら、ため息をつかれまして。「わたしはラブコメとかやってもらいたいのよね。いつも同じタイプの役ばっかりじゃない!」と責めてくる(笑)。定食屋に一緒にいた先輩の役者さんも「確かにおまえはアクションが多いよな。“人生逆転”とか、そんなのばっかり」なんて追い打ちをかけてきて。おばちゃんにそういうことを言われ続けて15年です……(笑)。
山田:まぁ定食屋のおばちゃんはプロじゃないですから(笑)。「この役を誰が演じるのか……?」となったとき、「藤原竜也だ」と名前が出てくるわけで、それはスゴいことだと思います。
二人の共演が作品にもたらした相乗効果
Q:今回、初共演ですが、お互いの活躍をどのように意識していましたか。
藤原:山田くんは、繊細な役も勢いがある突出した役柄もこなす多才な人で、多くの監督から求められる俳優だと感じていました。テレビドラマの「白夜行」など印象に残る作品は多いですね。
山田:僕は藤原さんから芝居のパワーを感じていました。舞台の場合、生で観た時はもちろんですが、DVDに収められた映像でもパワーが伝わってくる。いつかそれを間近で感じてみたいと思っていたので、それがかなってうれしいです。
藤原:お互い30代になって、いい時期に共演させてもらった感じですね。今回、僕の演じたキャラクターが対峙(たいじ)する田中終一が、僕の中でブレずに出来上がっていたのは山田くんのおかげです。熱さと強さ、そして、いい意味での不器用さも備えている。色で例えるなら、薄く淡い色も出してくれた。その空気感に共演者として助けられました。
共にクールなイメージを漂わせ、この『MONSTERZ モンスターズ』での役どころも超シリアス。しかし、インタビューに現れた藤原竜也と山田孝之は、意外なまでにリラックスした表情を見せ、お互いのコメントにもあれこれツッコミを入れる。役と素顔のギャップを感じさせながら、最後まで穏やかで楽しい雰囲気を漂わせていた。年齢は藤原が一つ上で、ほぼ同世代。この初共演をきっかけにすっかり「親友」になったようで、再び共演する日が近そうな予感を覚えた。
映画『MONSTERZ モンスターズ』は5月30日より全国公開