『DOCUMENTARY of AKB48』高橋みなみ 単独インタビュー
自分が卒業した後にも、つながるようにしたい
取材・文:くれい響 写真:尾藤能暢
国民的アイドルグループ・AKB48の活動に密着したドキュメンタリー『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』。来年、結成10周年を迎える彼女たちの礎を作った第1期メンバーであり、グループを一つにまとめる総監督を務める高橋みなみが、本編で描かれた「大組閣祭り」「大島優子卒業」「選抜総選挙」そして「空白の7日間」に対する思いを語った。
卒業のタイミングはわかっている
Q:前半では新たなチーム編成・メンバー移動などが行われた「大組閣祭り」の模様が描かれていますが、その発表にメンバーが一喜一憂する姿は、ファン以外には伝わりにくいかもしれません。メンバーが一喜一憂する理由を、高橋さんの視点から教えてください。
確かに伝わりにくいかもしれません。メンバーが一喜一憂するその理由は自分のチームに対する思い入れが強いからだと思うんです。いろいろなことがありながらも1年以上同じ方向を向いて歩んできたメンバーと、楽しいところまで行き着けたのに、それが一気に壊されてしまうに等しいわけで。怒りもあると思いますが、特に10代の多感な時期にそれが行われるのは、あまりにむごいですよね。わたしも最初のころはショックでしたが、AKB48としての年数によって、受け止め方は違うと思うんです。なぜそうなるのか、なぜ自分が変わらなきゃいけないのか。年を重ねることによって、その意味がわかるようになるんじゃないでしょうか。
Q:その「大組閣祭り」では、高橋さん自身、グループ総監督とチームAキャプテンを兼務されることが発表されました。これはある意味、「卒業はまだ」という意味も含まれますよね?
自分がキャプテンを務めた後、総監督というポジションで、篠田(麻里子)チームA、横山(由依)チームAを見てきたわけですが、正直このタイミングでキャプテンは荷が重いなと思いました。でも、今のAKB48で誰がキャプテンをやれるのかといったら、確かにメンバーがいない。だからわたしなのかと思いました。自分にとっては最後のチームになると思うので、悔いが残らないようにやりたいなと。それに、今思えば、川栄(李奈)、入山(杏奈)がいるチームですから、いろいろな意味で、わたしが彼女たちのチームのキャプテンで良かったと思います。卒業のタイミングに関してはある程度、「この時期かな」ということを自覚しているし……安心していてください(笑)。
「空白の7日間」の様子
Q:本作のタイトルになっている“背中”は、先日卒業された大島優子さんを指すわけですが、本編中にも登場する「NHK紅白歌合戦」での卒業発表以来、メンバー内での大きな変化というものは、高橋さんの目にはどう映っていましたか?
紅白の後の3か月間、優子がいなくなるとか、いなくなったらどうなるとか、みんな正直ピンと来ていなかったんですよ。でも、雨で優子の卒業コンサート(国立競技場2日目)が延期になったことで、その予行演習みたいなものができたと思うんです。ちょうど「ラブラドール・レトリバー」リリースのタイミングだったので、みんなで歌番組などに出演していくうちに「優子がいないことって、こんな感覚なんだ」ってことがわかりましたから。つまり、優子が国立で卒業していたら、今の体制にはなっていないと思います。今回の事件(※握手会での傷害事件のこと)のこともありますし、結果として優子の卒業タイミングはAKB48にとってはよかったんだと思います。
Q:そんな中、例の事件が起こってしまうわけですが、劇場公演が再開されるまでの7日間の、高橋さんとメンバーの心境の変化を教えてください。
事件によって、味スタ(味の素スタジアム)での選挙もコンサートもできない……そしてAKB48がなくなっちゃうんじゃないかという不安でいっぱいでした。ほかのメンバーも味スタのステージに立つまでは、どこか元気がなかったし、正直、時が止まっちゃっていたような気もするんですよね。難しい話ですけれど、ファンの人は握手会の再開を望んでいる。それはわたしたちもうれしいし、皆さんに会いたい気持ちはあるけれど、でも怖いんです。わたしはメンバーともスタッフともいろいろ話し合いましたけど、決して大声で「前に行こうぜ!」と言えるような状況じゃなかった……そしてそう言うことが正解じゃないとも思っていました。何と言うか、余裕がなく、ハッキリした答えが出ないまま、「優子を送らなきゃいけない!」という気持ちだけで、みんなが動いていたんです。でも、やれたからこそ先に進めたんですね。
新センター・まゆゆで変わるもの
Q:その「選抜総選挙」では渡辺麻友さんが第1位(センター)になったわけですが、そのことによってAKB48は何が変わったと思いますか?
正直なところ、まだ具体的な変化は感じていないです。麻友がスゴく頑張っていることをよく知っていたから、この結果はうれしいし、おめでとうという喜ばしい気持ちはありましたけど。でも、その一方、この時期の、このタイミングでグループを担う存在になることはプレッシャーなはずだから、どこか申し訳ない気持ちにもなりました。だからこそ、みんなで支えていかなきゃ、と気持ちが強まりました。この映画でも、優子が「仲間のためにAKB48を続けていた」と言っていましたが、その気持ちはとてもわかるんです。わたしもチームAのキャプテンに選ばれる(2009年8月)ちょっと前ぐらいに、そういう気持ちに切り替わったんです。それはAKB48というグループが好きすぎて、守りたいが故に生まれた感情ですね。
Q:本作はドラフト生や研究生といった、若いメンバーにも焦点が合わせられていますが、そんな彼女たちに対する高橋さんの対応も印象的でした。
目に付くと気になっちゃう方なので、自分から話し掛けるようにします。それに、思っていることは全部言うようにしています。映画の中にも出てきますけれど、驚いたのは、若いメンバーも具体的に将来のビジョンを持っていたり、いろんなことを思っているんですよね。それで、そんな若いメンバーに、自分がいる間に何ができるのか、何を残せるのかと考えたら、自分がこれまで見てきたものをちゃんと言葉にして、教えてあげたい、伝えてあげたいと思ったんです。ムダに長くいるわけじゃないですから……(笑)。それに来年AKB48は10周年を迎えるわけですが、それよりもっと先の目指すところを見ていきたいな、と。自分が卒業するところまで良ければいいわけじゃないですし、ちゃんとその先につながるようにしてあげたいと思います。
10年先、明るい未来のために
Q:これまでの高橋さんといえば、大声で活を入れるイメージが強かったと思いますが、このごろはとても穏やかな表情ですよね。メンバーの年齢によって対応を変えるようなことは?
2、3年前だったら、「ふざけないで!」「ちゃんとやって!」とか叱っていたと思うんですよ。それは志が同じだとか、同期に近いメンバーが多かったから、ハッキリ、ゲキを飛ばすことができたんです。でも、今の子たちは、わたしが強く言うことで落ち込んでしまう子も多いんですよ。だから、その子たちに合わせるというのもそうだし、若い子が増えているAKB48全体に変化に伴って、自分も変わらなきゃいけないと思ったんです。今でも叱りますけど、昔のように感情を露わにした言い方はしません。メンバーの年齢によって、特に対応を変えているわけでもありません。とにかく、しっかり本人と向き合って話すことが大切なんです。まぁ、わたしが何も言わなくなったら、AKB48を好きじゃなくなってる、ってことかもしれないですから……(笑)。
Q:最後に『DOCUMENTARY of AKB48』の主題歌といえば、「少女たちよ」など、ファンにとって“神曲”といわれる人気曲ぞろいですが、本作の「愛の存在」はどんな曲だと思いますか?
あの事件の後に秋元(康)さんが書いてくださった歌詞なので、これまでの主題歌に比べて、重い印象があると思います。テーマとしては「10年先、明るい未来のために今を生きなければならない」なんですが、その曲を最初にセンターで歌うのが、来年で10年を迎える1期生(高橋みなみ・小嶋陽菜・峯岸みなみ)ですから、かなり意味深でもありますし、感慨深く思えます。そういう意味でも、とても好きな曲です。
まだ時間がたっていないデリケートな問題に対しても、言葉を選びながら、力強く答えるたかみなの姿が、まさに今のAKB48の姿に重なった今回のインタビュー。超多忙な日々を送る中で、しっかり自分の立ち位置と役割を理解しているプロフェッショナルな発言。さらに「ファンの人あってのAKB48なので、1年先のことすらわからない。いつ、なくなるかもしれないし、実際に今回そういうタイミングでしたし……」と常に危機感と緊張感を持った発言が出てくるあたりもストイックな彼女ならでは。そんな彼女は、本作を「どれだけ転んでも、仲間と一緒に立ち上がれば、道は開けるんじゃないか、ということを教えてくれる映画」と称している。
(C) 2014「DOCUMENTARY of AKB48」製作委員会
『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』は公開中