『幕末高校生』玉木宏&石原さとみ 単独インタビュー
歴史上の偉人=ヒーローにあらず!
取材・文:浅見祥子 写真:奥山智明
歴史を教える高校教師とその生徒が幕末の江戸にタイムスリップ! 勝海舟と西郷隆盛の和平交渉に始まる江戸城無血開城の現場に立ち会うハメに。日本が進む道を決定づけた歴史上の大事件が、未来からの来訪者によって変わるかも!? 眉村卓の「名残の雪」を原案に、映画『青天の霹靂』の橋部敦子が脚色した『幕末高校生』で、誰もが知る幕末の英雄、勝海舟を人間味たっぷりに演じた玉木宏と、まさかの事態に陥る高校教師にふんした石原さとみが、撮影中のエピソードを語った。
今まで見たことがない勝海舟
Q:眉村卓さんの「名残の雪」を原案に、ユニークな映画タイトルとなりましたが、最初に聞いたときの印象はいかがでしたか?
玉木宏(以下、玉木):撮影時はこれが仮タイトルだったよね。
石原さとみ(以下、石原):撮影しながら、何にしようか? と皆さんで考えていましたよね。
玉木:タイトルってキャッチーなほうがいいし、僕はこのままでいいんじゃないかなと思いながら撮影していました。このタイトルでいくと知ったのは、撮影が終わってからです。
Q:タイトルで的確に表現されている「幕末の江戸に現代の高校生がタイムトラベルする」という物語については、どのように感じられましたか?
玉木:自分が勝海舟を演じるとわかっていて台本を読んだので、ストーリーそのものより、そこに描かれた勝海舟の印象が強かったですね。それで、今までに見たことのない勝海舟だなあと思いました。どうしても歴史上の偉人=ヒーロー的な描かれた方をすることが多いし、中でも勝海舟はりんとした人物というか聡明な人という印象がありました。でも引いた目線で見れば彼も人間で、いろいろな側面があるはずですよね。勝海舟の、人間らしさをより感じられる作品になったと思います。
石原:台本を読んで、まず単純に楽しい作品だなと思いました。李(闘士男)監督のほかの作品も観ていたので、「こんな映画になるのかな?」というのがイメージしやすかったんですよね。エンターテインメントでわかりやすく、ちょっとじーんとくるような作品になるのかなと。
玉木の俳優史上最も長い殺陣
Q:クライマックスに玉木さんが披露する殺陣のシーンは迫力がありました。
玉木:6~7分もの長い殺陣シーンを1カットで撮ったことは、今までありませんでした。手数を覚えることが大変でした。100手を超えていましたから。編集で、そのうちの何手が本編で使われているかわからないけど、覚えたのは120手近かった気がします。
Q:そんなにたくさん覚えたんですね!
石原:あれって、李監督がやりたかったんですよね。
玉木:そう。あのシーンで勝海舟は人を殺(あや)めているわけではありません。相手が向かってきても殺さず、前へ進みにくい中を、それでも進んでいく。監督はその姿を撮りたかったようです。そのシーンをやり終えたときに僕が見せるリアルな疲労感や、その表情を。ある意味ドキュメントタッチを狙っていて、そのために用意された殺陣みたいです。撮影所の時代劇専門のスタッフたちにとっても、「初の手数」という課題があったほうがいいでしょって。
Q:石原さんは走るシーンがかなり多かったですよね?
石原:ぎゃあぎゃあ言いながら走っていましたね(笑)。毎回撮影スケジュールを見ると、わたしのところに「走り」と書いてあって、今日も走る、明日も走る……という感じで。撮影では台本上の1シーンを、たくさんのカットを細かく割ってバラバラに撮っていきます。いろいろなところを走るから、なぜ今走っているのか、いまいちわかってないこともあったくらい(笑)。でも玉木さんの殺陣に比べたら、全然大変ではないです! むしろ楽しんでいました。
現場はムードメーカーだらけ!?
Q:お二人は初共演ですが、お芝居をする相手としていかがでしたか?
玉木:演技には、俳優さん本来の性格が出ると思うんです。さとみちゃんがもともと持つ順応性の高さに救われたというか、あの設定に違和感を持たせないパワーを感じました。勝海舟は現代からやってきた人間を受け入れる側なのでどうしても受け身の芝居になりますが、そういうときに「説得力のあるお芝居だなあ」と。自然とそこに溶け込んでいるんですよね。
石原:わたしが演じる未香子は、勝海舟にぐいぐい攻めていく場面が多いんです。怒ったり、ドキッとしたり、あきれたり、感動したり……そういう感情をぶつけていく中で、勝海舟としている玉木さんは常にニュートラルでした。何事もどっしり受け止めてくれるので、「いろいろとやってもいいんだ!」と素直に思えたんですよね。
Q:撮影現場の雰囲気はいかがでしたか? とてもにぎやかだったと聞いていますが。
玉木:とても明るかったです。柄本時生くんを含め、生徒役の子たちは個性豊かで明るい人が多かったから。撮影の合間によくしゃべりましたね。
Q:一番のムードメーカーは?
玉木:李監督自身がムードメーカーというか、ムードを作ってくださるんです。一見「豪快風」ですけど、繊細な方で、豪快な人間を演じているという感じ。繊細であるがゆえに一人一人と向き合い、この人にはどう接するかをとてもよく考えて明るく振る舞う方でした。
Q:柄本さんもムードメーカーだったとか?
石原:いっぱいネタを提供してくれるんですよね。一度彼が遅刻してしまったことがあって。普通なら「いいよいいよ、大丈夫」と慰める空気になるのに、イジるための格好のネタになるのが時生くんの素晴らしいところで(笑)。
玉木:川口春奈ちゃんはクランクイン前の本読みでは人見知りと言っていたのに、2度目に会ったときにひょう変していました(笑)。どこが人見知りなんだ? と思うくらい(笑)。
夢の世界を描くポップな時代劇
Q:完成した映画の感想は?
玉木:映画にとってポップさ、見やすさって大事だと思うんです。特に堅苦しいと思われがちな時代劇の場合は。あまり押し付けがましいと映画館に足を運んでもらうことが難しくなってしまう。こういう軽やかさがあったほうが、作り手の描きたいことがちゃんと伝わるんじゃないかと思いましたね。
石原:現代の高校生と教師が幕末の時代に行くって、やっぱり夢の世界ですよね。そうした物語はドラマより、映画館で観る方が楽しいのかもしれないなって。しかも映画館で観たいって思える映画として成立しているのは、李監督ならではというか、李監督の色に染まっているからだろうなと思いました。
撮影現場はよほど楽しかったのか、共演者のエピソードを語る二人は自然とよりリラックスした空気になった。コミカルなやり取りが笑いを誘う『幕末高校生』のような映画では、そうした現場の雰囲気が大切なのだろう。人との間に壁を作らない朗らかな石原と、どっしりと構える玉木。二人の間には俳優としてお互いを尊敬し合っているプロ同士という空気もしっかりと感じられた。
(C) 2014「幕末高校生」製作委員会
映画『幕末高校生』は7月26日より全国公開